〜不思議な宴〜
ケンタウルスとパンはまさかまさかの酔っていた？
疑う二人と帰りたい一人の葛藤劇。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
「良かった。
無事に躱してくれていたか」
若いケンタウルスは、胸を撫で下ろした。
「ターレスに怒られずに済むな」
と、少し後ろでパンが愉快に笑った。
「驚かせてすまない」と謝りながら、ケンタウルスは小さくしゃがむマイクに手を差し伸べたが、マイクの身体はまだ動かなかった。
しかし、ヤニスは違った。
素早く立ち上がると同時に鞘から剣を抜き、見切れぬ速さでその刃をケンタウルスの首元へと添えた。
「動くな。
俺の大切な友だ。
たとえお前が仲間であったとしても、俺の前で馴れ合うには、さっきの弓矢の訳を話してからにしてもらいたい」
ケンタウルスはグッとヤニスを睨み、パンは「ヒュー」と口笛を鳴らす真似をした。
ほんの僅かな時間、睨み合いが続いたが、ケンタウルスは一歩後ろへ下がり、四本の脚を器用に折りたたんで大地へと腰を下ろした。
「パン！」とケンタウルスが叫ぶと、パンも「はいはい」と実に嫌々しく、大地に胡座をかいた。
「見ての通り、敵意は無いよ。
こいつも俺が居れば悪さはしない。
単純に気配を感じたから、反射的に矢を放ってしまっただけだ。
すまない」
ケンタウルスの言葉に、パンは実に奇妙な顔をしたが、“とても嫌である”という表情なのは容易に理解できた。
「咄嗟の判断ゆえ、先手の弓矢と五分とし、こちらの無礼も許してほしい」
そう言うと、ヤニスは静かに剣を鞘に戻し、しゃがんだまま固まる二人それぞれの背中を、バンッ！と激しく叩いた。
「助かる」とマイクはゆっくり立ち上がったが、ネオは長く息を止めていたようで、肩を大きく動かしながら蹲った。
「理由はどうであれ、君たちより頭が高いのはさすがに気が引ける。
重ねてすまないが、場所を変えてはくれまいか？」
ヤニスの願い出に、ケンタウルスは立ち上がって答えた。
「この状況で気遣いまでできるとは、たまげたよ。
この先に開けた岩場がある。
少し散らかってはいるが……まあ、いいだろう。
奥の馬も連れて来な。
この辺りで、何頭か熊を見たからな」
そう言うと、ケンタウルスとパンは再び、茂みの奥へと消えていった。
「信用できるのか？ ヤニス」
「分からん。
だがケンタウルスである以上、仲間である可能性は高いだろう。
パンにしても、カロスは“遊び人”と表現していたし、今もケイロンがどこかから見ているように感じる」
森の木々を見渡しながら、ヤニスは答えた。
三人が馬のもとへ戻ると、ネオがひとつの提案をした。
「俺はこのまま町に戻って、このことを皆に知らせるよ！」
「いや、余計な刺激は与えたくない。
三人で戻るぞ」
ヤニスの言葉により、ネオの提案は儚くも却下された。
三人はそれぞれの馬を引き連れ、ケンタウルスに促された茂みの奥へと向かった。
ヤニスは「警戒だけは怠るなよ」と、柄頭に手を添えながらネオに警告し、マイクと目で合図を交わすと、二人で同時に茂みを左右に掻き分けた。
森が小さく開けた岩場の下で、ケンタウルスとパンは酒を酌み交わしていた。
「ほら見ろ、向こうはやる気だぜ？
懲らしめるか？」
愉しげに煽るパンを無視して、「こっちだ！」とケンタウルスが三人を呼んだ。
ヤニスは警戒していた自分が馬鹿馬鹿しくなり、それはマイクも同様であった。
二人は張り巡らせていた気を、スッと抜いた。
まだ警戒を解かないネオの頭に、マイクの拳骨が振ってきた。
「相手はあまりにも敵意がない。
今お前がしている警戒は、ただの無礼だぞ」
ネオは鈍痛の走る頭を抱えながら、訳の分からない現状に、泣きたい気持ちであった。
パンはまた、愉快に笑った。
どうやら仲間みたいですね。
化け物達に囲まれたネオは、きっと強く育ちます。
そうでないと可哀想過ぎます。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス（ケンタウルス）
・エーレ（神の器？）
・ヤニス（エーレの父に返り咲いた男）
・マイク（伝説の英雄）
・レナ（ケンタウルスの女戦士）
・ターレス（ケンタウルスの族長）
・ソフィア（ケンタウルスの少女）
・アグノス（ケンタウルスの若い戦士）
・ルカ（マイクの息子）
・ネオ（若い狩人）
・ミト（老いた狩人）
・ケイロン（ケンタウルスの英雄？）
・レア（大地の女神、レナの師）
・アキレウス（昔の英雄）
・アルカイオス（昔の英雄、後のヘラクレス）
・ヘラクレス（英雄の神、元アルカイオス）
・ネッソス（レナの父）
・アイネ（レナの母）
・ヘルメス（天界の死神）
・ヘルメスの使者（元ニンフの魂）
・タナトス（冥界の死神）
・狭間の獣（タナトスの下僕）
・ニンフ（精霊の総称）
・サテュロス（笛を吹く半人半獣）
・パン（ニンフ殺し、ヘルメスの使い）
【場所・他】
・ミリア（エーレが住む山奥の町）
・カテリーニ（マイクが住む海の近くの町）
・パライオ（山の入口の町）
・レアの泉（女神の泉）
・ピエリア（ミリアから山を超えた先）
・モスコホリ（ミリアの隣町）
・ヘスティア（ケンタウルス達が集う場所）
・スパルタ（ヤニスやマイクが属した勢力）
・アテネ（スパルタの敵対勢力）
・天界（天空の世界）
・冥界（地底の世界）
・禁則の地（天界と繋がる場所）
・イボヴォリ（ケンタウルスの園にそびえる大樹）
・ヒドラ（九つの首を持つ毒蛇）
