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〜不吉な輪郭〜

 真実を受け止め旅立つレナ。

遂にカロスとエーレが待つ泉へと向かう。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 ターレスの話を聞き終えたレナは、旅の支度を早々に済ませた。


そしてソフィアの元へと行き、またひとつ、頭を撫でてやった。


「幼き者たちを頼むぞ、ソフィア」


ソフィアはしっかりと頷き、「レナも気をつけて」と気遣った。


「暫く森を頼む!」と園に残るケンタウルスたちに叫ぶと、レナは疾風の如く森の中へと消えていった。


その背中を見つめながら祭壇の外へと出たターレスは、空を見上げ、ただ「彼女の旅にガイアの加護があらんことを」と祈りを捧げた。



 ケンタウルスの園での話など知る由もなく、カロスとエーレは他愛もない話を続けていた。


「レアの泉でもその瘴気は取れないの?」


いつしかカロスは、エーレの無垢な優しさに包まれ、居心地の良さすら覚えていた。


森の中にあっても、目の前の娘は決して異質ではなかった。


またエーレも、カロスから様々な森の話を聞くことで、自身の中にある不安を薄めようと、ごく自然体で寄り添った。


「ああ、ニンフの印は、言わば欲望の塊であり、邪念そのものだ。 レアの泉はそのようなものを受け付けん」


「とんでもない子に好かれちゃったのね」


エーレは笑って見せ、カロスも「ああ」と困ったように笑った。


次の瞬間、カロスは凄まじい速度で泉へと向かってくる悍ましい気配を感じ取った。


カロスは立ち上がり、左手で弓柄を握り、右手に矢を取りながら、エーレに「じっとしていろ」と告げた。


エーレはカロスが見つめる目線の先をなぞったが、何も感じられなかった。


もちろんこの気配はレナなのであるが、泉の二人はまだその正体を知らされていなかったし、残念ながらこの時レナは、あらゆる憤怒と憎悪の念を泉に向けていた。


気配は瞬く間に近付き、カロスがエーレに「来るぞ」と忠告した時には、エーレにも森の木々が揺れているのが見て取れた。


そして身構えるカロスとエーレの前に、レナがその姿を現した。


エーレの視界に映ったケンタウルスは、カロスよりひと回り小さく、細い身体つきではあるが、その鍛え抜かれた筋肉が織り成す曲線は、即ち神の存在を信じるに値するものであった。


泉の反対側で立ち構える生き物を、エーレはうっとりと見つめた。


しかしその刹那、小さなケンタウルスは泉を軽々と飛び越え、エーレが息する間もなく、カロスの喉元に剣先を突き立てた。


「何故森の中に人間が居る? そして何故お前が共にしている? よりによって一族の中で最も人間嫌いのお前がだ。 答えろ!」


この時エーレは怯えながらも、小さなケンタウルスの圧倒的な眼力の中が、ほのかに潤むのに気づいた。


「違うんだ、レナ」


カロスは突き立てられた喉元の剣など気にも留めず、今まで此処で起こった事の経緯を淡々と言葉にした。


エーレにはカロスの全身が、ゆっくりと安らいでいくように感じ取れた。


カロスの話を聞いたレナは、身体に似つかわしくない大きな剣を静かに収めた。


「なるほど、ターレス様が言っておられた事とも辻褄が合ってしまう……」


レナは虚ろに空を見上げ、今度は神殿で聞かされたターレスの話を説いて聞かせた。


族長の説を聞かされたカロスは、安らいだ表情から一変、素の力強い顔付きへと戻り、小さく言葉を述べた。


「よもやそんな大物が現れようとは。 確かにアルカイオスは、その偉業の割に石像が少ない、謎多き者だ」


二頭のケンタウルスはそれぞれに黙り、お互いから得た情報をまとめている様であった。


その後お互いがまとめた事を確認し合うように喋りだし、途中、肩の瘴気の話題になった時には、何やらカロスは怒られていた。


どちらかと言えば和やかな雰囲気であった。


不意にレナはエーレを見下ろした。


そして瞬時に、その異様さに気がついた。


「この娘……揺らぎが……」


カロスは「流石だな、レナ」と感心しながらも、続きは言わせなかった。


「共に行こう。 話の続きは移動しながらで充分だ。 それにどの道この娘は連れて行く。 ケイロンがその目で直に見定めれば、より分かる事もあるやも知れん。 良いな?」


レナはエーレから目線を外さぬまま、小さく頷いた。


訝しげな目線を向けるレナを見上げながら、エーレは自分には断る権利が無いことを悟った。

 【次回】レアの泉、遂に喋る!

乞うご期待。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元精霊の魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

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