表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/95

〜強すぎる光〜

 父を殺したヘラクレスの実体とは。

そしてその真実とは?


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 「でもいったい何のために、親友であったはずの父を殺したというの?」


到底納得の出来ないレナは、何とか話の粗を探した。


縦横無尽に泳ぐレナの黒眼を見つめながら、ターレスは無常な真実を告げることしか出来なかった。


「愛だよ。 それはレナ、お前の母『アイネ』に向けられた二つの愛だ。 それ故に、ヘラクレスはネッソスを殺め、またネッソスは自身の最後の灯火が消えゆく最中、ヒドラの毒を仕込んだ衣をヘラクレスに纏わせるようにと、アイネを仕向けたのだ。 そしてお前の母アイネは、目の前で消えた二つの命を悔やみ、お前を産み落とした後に自ら命を絶った……。 誰も救われぬ物語の中から、紡ぎ出されたのがお前なのだよ、レナ」


ターレスの話に、行き場の無い感情がレナを襲った。


悲しみなのか怒りなのか、憐れみなのか、どの感情が正しいのか今のレナには分からなかった。


そんなレナを諭すように、ターレスは続けた。


「旅の前にこんな話をしてすまないとは思っている。 だが分かってほしい。 旅の道中でお前がこの真実を手に入れてしまうと、旅はより困難なものになってしまうであろう。 私もすべてを知っているわけではない。 先ずはその脚が大地を踏み締めるたびに、この話を飲み込んでほしいのだ。 そしてその先にあるお前の答えを、お前自身で見つけてほしいのだよ、レナ」


レナはターレスの言うことを正しく感じた。


もしこの話を旅の道中で聞いていたら、レナは疑い、そして答えの無い葛藤が待ち受けていたであろう。


もしやその葛藤が怒りへと変わり、方向感覚を鈍らせ、ケンタウルスの園へと向けられたかもしれない。


しかし今ここで、ケンタウルスの族長であり、レナが敬愛するターレスから耳にしたことで、幾分か救われたのだ。


「分かったわ」とレナは、まだ飲み込めない感情を無理やり押さえつけた。


そして「最後にひとつ聞かせて」と投げかけ、ターレスは頷いてそれを了承した。


「ターレス様がこの話を私に聞かせたってことは、今回の一連の謎に、ヘラクレスが関わっていると思っているのですか? ケイロンに予言の穴をもたらしているのがヘラクレスであると……」


ターレスは首を振った。


「分からん。 そんな気がするとしか言えぬ。 ただそんな嫌な予感がするとしかな……。 しかしヘラクレスであれば、ケイロンが見落とすのも納得は行く。 よもや自らの最高傑作が、面と向かって脅威になることなど、如何にケイロンでも考えたくなかろう」


「いったいヘラクレスとは……」


続くレナの疑問に、ターレスはあわせて答えた。


「ヘラクレスは生前、即ちアルカイオスと呼ばれていた時分から、すべてがあまりにも輝かしい奴であった。 ケイロンがその輝きに目を眩ませ、ヤツの狂気を見落としたようにな」


レナはしっかりとターレスを見つめ、ヘラクレスの輪郭を必死になぞろうと耳をそばだてた。


「しかしそれでもケイロンは、しっかりとアルカイオスを育て上げた。 それは当時誰にも出来得ぬ偉業であった。 アルカイオスの余りの輝きに、誰一人として彼を“直視”できる者がいなかったからだ」


ここまで話すと、ターレスは一呼吸置き、しっかりとレナを見つめ返して話のキモを告げた。


「余りにも強すぎる光は、影も、またその実体をも消し去ってしまうのだ。 良いかレナ……。 この地上界でアルカイオス、そして今のヘラクレスの顔を知っているのはケイロンだけだ。 私を含めたその他の者は、彼の顔も、声も、その形も何もかも、思い出せないのだよ。 遥か昔に見た夢……。 ヘラクレスとはそれ程までに、眩い存在なのだ」


ターレスの言葉にレナは唖然とした。


「こんなにも有名な名前なのに、顔や形が分からないなんて……そんなこと……」


「だからこそケイロンの力が必要なのだ。 そしてお前もだ、レナ。 因縁あるお前の血に、ヘラクレスの輝きを弱めるヒントがあるかもしれないのだよ」


必死になぞろうとしたヘラクレスの輪郭は、正に光となって、レナの手をすり抜けていった。

 アイネのモデルはヘラクレスの妻であったデーイアネイラ。

史実では、ヘラクレス親子とネッソスが川を渡る際に、その渡った先でネッソスがデーイアネイラにちょっかいを出して、怒ったヘラクレスに弓で射抜かれたよ。

野蛮だね全く。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、レナの父を殺めた者)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元精霊の魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ