〜重なる不安〜
マイクは無事に帰って来たようです。
はてさていったい何があったのでしょうか。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
ルカをはじめ、周りにいた大勢の民衆たちが皆町の入口へと向かって行ったため、エーレはあっという間にひとりぼっちになった。
だが、エーレはそんなことなど気にも留めず、むしろ「仕事が捗るわ」と言わんばかりに手際よく荷を解き終えた。仕事を終えたエーレは、空いた荷台の隙間に戻るように身体を小さく丸め、そして空を見上げた。
小さく縮こまり空を見上げる様は、几帳面に積まれた横の荷物達と遜色無かった。
(父も、マイクおじさんも、いったい何を感じ取ったのかしら。行きの道中に見上げた空も、今まさに見上げる空も、私には何も変わったようには見えない。薄い雲が流れていくだけで、ただいつもの静かな日常が広がっているだけ)
唯一いつもと違うのは、昨夜遅くまでランプの灯りで読書をしていたせいか、少し頭が痛むことくらいだった。エーレはこめかみを軽く押さえ、痛みを誤魔化そうとまどろみ始めた。
だが、その静寂はすぐに破られた。遠くから民衆の喧騒が近づき、聞き覚えのある、マイクおじさんの大きな笑い声が響いてきた。
「お、エーレも来ていたのか!……デカく……は、なってないな。相変わらず陶器の置物みたいな子だ!」
マイクは腰に手を当て、大袈裟に身体を反らしながら笑い声を響かせた。エーレは苦笑しながらも「お久しぶりです」と控えめに挨拶を返した。
マイクは屈強で、逞しい体つきの大男。息子ルカとは似ても似つかない強面で、彼の笑い声はその威圧感をさらに際立たせる。だが、その豪放な性格はこの町は疎か国中で知られており、過去の戦争で名を馳せた英雄であり、狩りの名手としても有名だった。
「おいおい、うちの娘は大人しい子だ。お前みたいなのが近づくと、風圧だけで壊れてしまうわ」
ヤニスは軽く冗談を飛ばしながらも、すぐに話を切り替えた。
「それより、さっきの話だが……森の中は本当にいつもと違っていたのか?」
その言葉に、マイクの表情は一瞬で険しく変わった。
「そうだ」
マイクの顔には数多の古傷が走り、猛禽類のような鋭い眼差しが光る。その姿に、エーレは思わず背筋を正した。
(やっぱりルカの表情の変化は、このおじさん譲りなのね……)
エーレはそんな冷静な感想を抱きつつも、マイクの話に耳を傾けた。
やがてマイクは声を落とし、低く唸るような音色で、森での出来事を語り始めた。
マイクは大剣が似合う男です。
多分現世なら車くらい余裕で持ち上げます。
拳はラーメン鉢くらいあるとか。
【固定】
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・?(ケンタウルス)
・エーレ(平凡な娘)
・ヤニス(エーレの父)
・マイク(伝説の英雄)
・ルカ(マイクの息子)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)