〜ケンタウルスの園〜
場面は変わりケンタウルス達が集う園。
一同は族長より、森に現れた不吉の予兆を知らされる。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
広大な森の奥深く、ケンタウルスたちの園『オイコス』はそこに平然とあったが、女神の導き無しでは辿り着けないとされていた。
『イボヴォリ』と呼ばれる巨大樹を中心に据え、その周りを湖に囲まれていた。
ケンタウルス達は普段其々が森の中で生活をしている為、“集う場所”と言えば正確であろう。
実際湖の周りには白い石膏造りの建屋が並んでいたが、普段から使われている様子は無かった。
「レナ!おかえり!」
森の中から現れた一頭のケンタウルスに向かって、若く美しい声が掛けられた。
「やあソフィア、元気だった? 少し外れまで出ていたから、遅くなってしまった。 皆はもう集まってるの?」
レナは一族の中でも素晴らしく腕の立つ女剣士であり、一部の男ケンタウルスからの嫉妬を除いては、皆に一目置かれる存在であった。
それに対してソフィアは、何とも小柄で華奢であり、まだ幼さの残る少女の様であった。
「ええ殆ど。 でも皆ピリピリしていて、私は怖いです」
この日森に住まうケンタウルス達は、族長である『ターレス』の報せにより、一同このヘスティアへと集められていた。
ターレスが収集を掛けるということは、それ即ち不吉な予兆であった為、皆神経を張り巡らせていた。
「大丈夫よ」と怖がるソフィアの頭を撫でながら、レナは街を見渡した。
ヘスティアの街は変わりなく美しかったが、確かに皆気が立っていた。
湖の畔にくっきりと残る無数の蹄、各々の顔に付いている二つの大きな馬の耳は、揃ってパタリと後ろに倒れていた。
徐ろに剣を取り出し、組み討ちをし合う野蛮な者達もいた。
「あと、カロスさんがまだ帰って来てないの」
撫でられる頭を喜びながら、ソフィアが報告した。
「あいつは大丈夫だろう。
どうせまた詩人にでもなったつもりで、森に見惚れているだけさ。
ターレス様は祭壇か?」
カロスの事など毛ほども気に掛けず話すレナの問いかけに、ソフィアは「そうです」と答えた。
イボヴォリの木の根元に建つ祭壇の中で、族長であるターレスは自らを襲う不吉な予兆に気を揉んでいた。
それは空を覆う黒い雲や冷たく湿った風ではなく、その予兆をケイロンの使いに知らされるまで気付かなかった事実に対してであった。
レナが到着した気配を感じ取ったターレスは、徐ろに祭壇の外へと姿を現すと、集まったケンタウルス達に話し始めた。
「皆急に呼び出してすまない。
今日集まってもらったのは……」
ターレスが話し始めるや否や、何人かのケンタウルスが叫喚を放った。
「森を侵そうってやつばどいつだ?」
「魔物か?魔物なら俺に行かせてくれ!
最近腕が鈍っていかん」
「コイツじゃ無理だ!
俺に行かせろ!」
鳴り止まぬ醜悪な声をレナの声が遮った。
「カロスがまだだ!」
声を上げていた者達は黙り、疎ましむようにレナを見やった。
ターレスは落ち着いた様子で話を続けた。
「カロスは良い。
何処に居るかも知らせは受け取っている。
今日集まってもらった理由だが、森の外れ『モスコホリ』の近くで、“狭間の獣”が現れた」
一同はざわめいたが、途端に疑問の声達が上がった。
「狭間の獣が迷い込んだくらいでこの騒ぎか?」
「あっちはカロスが見てたんだろ?
もう追い払ってるだろ」
溢れ出る疑問の声を、ターレスは咳払いで黙らせた。
「ああ、無論既に追い払った後だ。
しかし知らせによると、狭間の獣達は意思を持って群れを成していた」
ターレスの言葉にざわめきが走り、一同は皆その異常さを理解した。
ターレスは声色を一段落とし、波紋を広げるように、最後の情報を落とした。
「その中に“ヘルメスの使い”もいたそうじゃ」
一同のざわめきは一層畏怖の念を帯び、一人冷静であったレナの顔も、一気に険しくなった。
【固定】
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登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
・デュシウス(ラミア西門の門番)
・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)
・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)
・老剣士(?)
・ティーターン(天界を支配した原初の一族より選ばれた12の神達)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・オイコス(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)