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〜旅立ちへ向けて〜

 旅の始まり編完結。

エーレの真実は続編へと続く。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 「それでもやはり辻褄が合わない。だろう? 戦いはまだ始まってはいないのであろう? どちらかと言えば天界も冥界も今、エーレに手を出す訳にはいかないはずだ。 それなのに何故死神に追われている?」


 ヤニスは、それでもなおしがみついた。そもそも最後まで諦めるつもりはなかった。ヤニスが必死に崖の淵に引っかけた指を、一本ずつ剥がしていくようで、カロスはいたたまれなかった。


 「もしエーレが神器だとするならば……」


 カロスは申し訳なさそうに、ヤニスの抵抗を否定した。


 「“狭間の獣”がその中の魂を取り出すなど、まず不可能だ。 エーレの死に関しては、また別の何かがあるのだろう。 実際に私も『運命を司る三姉妹の女神』の話を聞いたことがある。 だが、それは私にも分からない。 今はただ、開戦に向けてエーレの所有権を取り合っているだけであろう」


 「おいおい、私の娘は“球”か何かなのか?」


 ヤニスは呆れて吐き捨てたが、その瞬間、これが“神の遊び”であったことを思い出してしまった。


「そのようなものだ」とカロスは答えた。


「いずれにせよ…」


カロスは口調を軽くして続けた。


 「何度も言うが、これはただの仮説だ。 今わかっているのは、お前も、私も、目の前のエーレを守るということだ。 仮にエーレが17歳を迎えるのはいつだ?」


「これから来る冬を越えた先、正確な日程までは分からんが、3月だ」


ヤニスが答えた。


「もしこの説が正しかったとしても、まだ時間はある。 それにエーレが神の器なのだとしたら、魂を抜かれぬよう守り抜けばいいだけだ。 そのための準備をしようではないか」


それもそうだな、とヤニスは渋々ながら納得した。


まだエーレが死ぬと決まったわけでもないし、本当に戦争が始まるかも分からない。だが、仮説を前提に備えることは必要だ……そうヤニスは思った。



 「ところで…」


カロスは、説に夢中になっているあまり、ある大事なことを忘れていたのを思い出した。


「パライオの森で起きたこととは何だ?」


ヤニスはマイクから聞いた出来事を、カロスに語って聞かせた……。


 「それはサテュロスではない。 そいつは間違いなく『パン』だ。 サテュロスは臆病な連中でな……自ら人間の前に現れることはまず無い。 それに身体的特徴も……」


カロスは“何か”を濁した。


「まあ、どちらにせよパンで間違いないだろう。 『ヘルメスの使い』……『ニンフ殺し』か……」


カロスは途轍もなく嫌味な表情で思案に沈んだ。


「強力ではないが、厄介な奴だ。 ただ、自ら望んで何かを起こすような奴ではないし、パンであれば本当にただの散歩だった可能性もある。 要するに、何を考えているのかよく分からん遊び人だ」


 カロスは久々に戯けてみせた。


マイクから聞かされた話の印象と、カロスの反応との落差に少し驚いたが、「まあ問題ないのならそれに越したことはない」とヤニスは安心した。


続けてヤニスは、もう一つだけ気になっていた疑問を投げかけた。


「エーレが言っていた、お前が影に付けられた瘴気とは何だ? 私には見えもしないのだが」


カロスは右肩に視線をやり、しばし険しい表情を見せたが、すぐに少し笑みを浮かべ、何ともばつの悪そうな顔になった。


「これは……ニンフの欲情の証。 まあ“OKサイン”みたいなもんだ」


カロスは肩を竦めながら、少し恥ずかしそうにした。


予期せぬ答えに、ヤニスは大いに笑った。



 「明日の朝、お前はケイロンの言った通りに自分の町へ荷物を届け、それからカテリーニを目指せ。 ケイロンのことだ、きっとそこに次なる黙示があるのだろう。 私はエーレと共に、ここへ現れるという者を待つとする」


そう言うとカロスは、ゆっくりと脚を折って大地へ身体を下ろした。


「そうと決まれば休むとしよう。 そして安心するが良い。 ここはレアの泉……さっきまでの“神の使い”など足元にも及ばん、偉大なる女神の一部だよ」


その言葉は、効果覿面だった。


ヤニスの不安は和らぎ、ここまでの疲れを癒すように、深い眠りに落ちていった。


そしてカロスもそれに続いた。


泉は、まるで微笑むように、不思議な波紋を水面に描いた。



 朝を迎えたヤニスは、驚いていた。


これまでの人生で感じたことのないほどの清々しさが身体を満たし、全身に湧き上がる力を感じていた。


「それが泉の女神の加護だよ」と、カロスが嬉しそうに教えてくれた。


二人は昨晩の話の中から安全な部分だけを抜き出し、エーレに聞かせた。


そして、ついにヤニスは、エーレとのしばしの別れを迎えるのであった。



 「良いかエーレ、無茶だけはするなよ。 お前は自分の身だけ案じなさい。 俺はマイクを連れて必ず迎えに行く。 それに……」


「大丈夫よお父さん」


このままだと、ヤニスの台詞が永遠に続きそうだったので、エーレは笑って遮った。


「私、こんなにも清々しい朝は初めて。 なんだか色々な不安が無くなってしまったみたい。 勿論、何だか大変なことなのは分かるけど、きっと大丈夫よ。 私に何かあったら、“モテモテな”カロスが守ってくれるんでしょ?」


カロスはやれやれと肩をすくめた。数少ない説明できる情報を伝えた結果、こんな結論になったのだ。


ヤニスは意地悪な笑みを浮かべた。


「そう言えば……」


エーレは、想像の中で自分の部屋を見たとき、本棚が光ったことを思い出し、それをヤニスに話した。


「想い出の中で私の部屋を見たの。その中で唯一光っていた場所があって……。小さな本棚の一番下の段なのは分かったのだけど、そこに何の本があったか覚えていない。でも何だか気になるの」


それに続いてカロスも言った。


「こちらから何かあれば、ケイロンの力を借りて知らせる。 お前達に向かう不穏なものは無いと思うが、既にケイロンが見張っているであろう」


「そうか、分かった」と、エーレとカロスそれぞれに別れを告げ、3頭の馬と共にヤニスは森の中へと消えていった。



 「さて……」


カロスは泉の近くに身を下ろし、エーレを呼び寄せた。


カロスはエーレに、この森のこと、ケンタウルスたちのこと、ケイロンとの昔話などを語って聞かせながら、現れる者を待った。


エーレはその穏やかな時間の中で、ふと思った。


(このままずっとこうして、のんびりと人生が流れていけばいいのに)


 森の木々が、少しずつ色を変え始めていた。


 秋の始まりのことだった。

 カロスは濁していましたが、サテュロスは下半身のアレがソレなのです。

気になる方は自己責任で調べてね。

そして、続編もお楽しみに。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(?)

・ヤニス(エーレの父では無かった男)

・マイク(伝説の英雄)

・ルカ(マイクの息子)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(女神)

・アキレウス(昔の英雄)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元精霊の魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

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