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〜17歳になる女の子〜

 カロスが唱える最後の説。

それはヤニスにとって、余りにも重い罪であった。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 「先に言っておくが、今から言うのはあくまで私が考えたひとつの説だ。 良いな?」


 ケンタウルスの忠告に、ヤニスは深く頷いた。


 「人間達が増え過ぎたのを良く思わなかった天界の神たちは、その責任を冥界へと押し付けた。 本来“死”を司るのは冥界の王だからな。 それに対し冥界は、地上に命を落とす天界こそに責任があると押し返した。 そして言い争いになった双方が出した結論が、人間の魂を奪い合うということだ」


 その説明は少し荒唐無稽に聞こえたが、今までにカロスから聞かされた神々の振る舞いを思えば、ヤニスにも「あり得る」と思えてしまった。


 「何と慈悲の無い。 しかしそれが事実として、エーレに何の関係があるんだ?」


 かつてであれば、カロスはこの問いに呆れ顔で返しただろう。だが今は真摯に応じた。


 「順序立てて説明する。 前の説の時にも触れたが、如何に神といえども自由に地上界へ来れる訳ではない。 それに、地上界にも勿論神はいるのだよ。 もしこの企みがバレた場合、今度は地上の神達の怒りが自分達に向く事になるし、そもそも地上界とは天と冥を分かつ存在だ。 地上が無くなって困るのは、天界も冥界も同じと言う訳だ」


 「なるほど…。 しかし、強大な力を持った神にしては何とも回りくどいな」


 ヤニスの言葉に、カロスはゆっくりと首を振った。


 「ヤニスよ、お前は何か大きな勘違いをしている。 しかもとても大事な事をだ」


 ヤニスには、何のことやらさっぱり分からなかった。


 戦士としての経験を振り返れば、戦争とは戦術もさることながら、最後は肉弾戦の世界だ。両者がせめぎ合い、頃合いを見て手を引く。殲滅は不要だ。敗者がいなければ、勝者の意味もなくなる。  だが、考えれば考えるほど、自分たちが何と戦っていたのかすら分からなくなっていく。


 カロスはその迷いを見透かすように続けた。


 「お前は今この説を、天界と冥界の“戦争”か何かだとでも思っているのだろう」


 図星だった。ヤニスは無言で視線を落とした。


 「良いかヤニスよ。 これは奴等にとってはただの遊びなのだよ。 大いなる暇つぶしであり、仲直りの証だ。 仲直りのついでに、人間の魂を取り合って競おうではないか。 地上の神にバレずにより多くの魂を取った方が勝ちとしよう。 おおよそそんな具合だ」


 こんなにも浅はかで幼稚な発想を、誰が想像できただろうか。ヤニスは、自分が根本から勘違いしていたことを思い知らされた。


 「しかし、ではどうやって人間の魂を奪い合うのだ。 君もさっき言っていただろう……、地上界で神が力を使えば森が気付くと」


 ヤニスは何とかしてこの説を覆したかった。こんな馬鹿げた遊戯に、エーレを巻き込ませたくなかったのだ。しかしカロスは、淡々と説の立証を続けた。


 「確かに森は気付くはずだ。 余程大きな雑音でも無い限りな。 南の地で何が起きているのかは、お前が良く知っているだろう」


 「戦争か…」


 ヤニスの声が低く漏れた。


 「スパルタ、そしてアテネ。 双方に『神の使い』が紛れ込んでいるとすればどうだ? そしてその使者達が、其々の勢力の指揮を握っていたとしたら?」


 その可能性に、ヤニスの中でカロスの説が一気に現実味を帯びてきた。


 実際、ヤニスが戦士を辞めた頃には、マイクの尽力もあり戦争は沈静化の兆しを見せていた。あとは和平の話し合いを進めるだけ、というところまで来ていたのだ。  だが、ほんのわずかに残った火種は、ここ最近になって急激に燃え広がっていた。


 カロスは一息に核心を突いた。


 「魂の数を競うゲームをしようとした時に、丁度大きな争いをしている者達がいた。 地上の神に気付かれぬよう人間の魂を奪うのに、これ程都合の良いものは無いだろう。 しかし、“使者”を使って準備を進める為には時間が要る。 それに、戦況がどちらかに傾いていても、ゲームとしては不公平だ。 そこでだ。 (開戦の笛を鳴らす赤子を地上に降ろそう。 この赤子が17を数えた時が合図だ。 笛は中立な場所になくてははならない。 地上のニンフに人間を迷い込ませ、その人間に育てさせよう) 概ねこんな所であろう」


 長い台詞の一言一言が、ヤニスの胸を締め付けていった。返す言葉はヤニスにとってせめてもの抵抗であった。


 「そんな遊びの為に、わざわざ17年も待つというのか……。その間、エーレは……」


 ヤニスの言葉を遮ったカロスの返答は、些か冷やかで、そして実に簡潔であった。


 「お前達にとっての17年など、神にとっては1時間にも満たない。実に程良い余興だ」


 そして、カロスは静かにとどめを刺した。


 「お前達に与えられた罰、それは自分達が必死に終わらせた争いを、自分達の手で再び呼び起こさせること。 繰り返させる輪廻の業。 奴等が好きそうなことだ。 そして、お前達が愛情を込めて育てた娘が17歳になる時、再び争いが始まる。 お前達はこの16年の間、一生懸命に戦争の笛を磨き続けていたのだ」


 ──何とも重たい罰だ。


 自嘲のように、ヤニスは内心で皮肉を吐いたが、それでももはや、微笑む気力すら残ってはいなかった。



 17はギリシャやイタリアで不吉とされている数字ですね。

ギリシャで不吉とされる理由は、何かピタゴラス的に嫌な数字だったからだよ。

6がこーで8があーで…ああもう生理的に無理!的な。

数字に強い人は調べてみてね。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(?)

・ヤニス(エーレの父では無かった男)

・マイク(伝説の英雄)

・ルカ(マイクの息子)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(泉?)

・アキレウス(昔の英雄)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元精霊の魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(森の中の何やら訳ありな泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

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