〜罪を背負った女の子〜
幾つかの説を唱えるカロス、そして娘の運命を案ずるヤニス。
二人はどんな答えに辿り着くのか…。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
続いてケンタウルスは、二つ目の仮説を唱え始めた。
「そして二つ目が、エーレ自体が“罰”を受けているという可能性だ」
ヤニスは、その仮説の“入り口”には、少し腑に落ちるものを感じていた。
「これは先程の説に少し似ているのだが、意味合いが全く違ってくる。 そしてこの説も二つに分かれる。 先ず最初に、エーレが生まれつき力を持たない女神だった可能性だ。 この場合、産まれてきた子供自体への罰として地上界に落とす。それをお前達が拾い上げた」
カロスの言葉を聞けば聞くほど、ヤニスの中で神という存在が醜く映り始めていた。
「しかしこれもまたさっきの説と同様に、死神に追われる理由に欠けるし、やはりお前達への罰が軽い」
カロスは再び軽口を叩いてみせたが、二度目のそれは、もはや冗談とも呼び難い空気を纏っていた。ヤニスは苦笑で応じながらも、視線だけは一度もエーレから逸らさなかった。
「そして次に…」
ケンタウルスは、やや満足気な様子で言葉を継いだ。
「元々成熟した女神が、罰を受けて赤子にされ、地上に落とされた可能性だ。 この場合であれば、力を封じ込められている可能性がある。 そして、その封じられた力を何らかの理由で冥界が気付いたとすれば、追われる理由にもなるし、与えた罰を続けさせる為に、天界が邪魔をするのも納得できる。 しかしやはりこれにも幾つかの矛盾が生じる。 力を封じ込めているとはいえ神の力だ。 少しも漏れ出さないのもおかしいし、そもそも冥界が気付いたと言う事は、一瞬でも力を開放した事があるはずだ。 仮にも神に等しき者が地上界で自らの力が使ったのであれば、それが例え一瞬だとしても、この森が気付かないとは思えない。 エーレを拾ってから何年だ?」
「16年目だ」とヤニスが答えた。
「この短い間にそんな出来事は無かったし、お前にも心当りは無いだろ?」
ヤニスは“ああ”と頷いた。
「となるとエーレが自ら伝えたとしか思えないが、そんな訳は無いだろう。 そして仮に偶然、冥界が力に気付いたとしてもだ、先程私が影と相まみえた時に、早々に冥界の影達を追い払ったにも関わらず、その後もヘルメスの使者はエーレを狙っている様であった。 あの様子を見るからに、ケイロンが言っていた〝取り合っている〟の方が正しく思える。 これでは成立しない。 それにやはり…」
「俺達への罰が軽いな」
今回はカロスに言わせまいと、ヤニスが先んじて言葉を発した。
「その通りだ」
カロスは気に入っていた言葉を奪われ、少し不満そうな顔を見せたが、すぐに意趣返しとばかりに意地悪そうな笑みを浮かべ、語り始めた。
「そして最後の説だが…」
人の娘の命運を前にして、よくもまあ楽しげに語れるものだとヤニスは呆れたが、同時に、カロスが見せるそうした“生き物らしさ”に、わずかな信頼を覚えつつあった。
「前の二つの説の反省を元に、今度はお前達への罰の重さから導き出したのだ」
そう言ったときのカロスはどこか誇らしげだったが、すぐに表情を引き締め、真剣な口調へと変わっていった。
「この説は中々に辻褄が合う。 しかしお前達にとっても、我々ケンタウルスにとっても最悪なシナリオだ。 無論、この地上界にとってもな。 私はこれが正解であって欲しくない……。 最後の説は、天界と冥界が示し合わせた開戦の合図、それがエーレである可能性だ」
ヤニスはこの瞬間、初めてエーレから視線を外してしまった。
あまりにも衝撃的な説に、無意識にカロスを見てしまったのだ。
その目に映ったのは、冷静さの奥に強い葛藤を抱えるケンタウルスの顔だった。
ヤニスの胸には、ますます神々への嫌悪が募っていた。こんな小さな娘に、一体何を背負わせようというのか。
カロスは言葉を続けるのを一度ためらった。
ヤニスの動揺を感じ取ったというのもあるが、それ以上に──この説を言葉にしてしまうことへの躊躇があった。頭で考えるのと、言葉にすることとでは重みが違う。
しかし今やそれは、自分のためではなく、ヤニスのためでもあった。
カロスは静かに息を整え、ゆっくりと最後の説を紐解いていった。
実際のギリシャ神話では子供はよく海に捨てられるよ。
大人は地獄と奈落とか、落とすの大好き。
【固定】
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登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(?)
・ヤニス(エーレの父では無かった男)
・マイク(伝説の英雄)
・ルカ(マイクの息子)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(泉?)
・アキレウス(昔の英雄)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元精霊の魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(森の中の何やら訳ありな泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)