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〜父と娘の形〜

 明かされたエーレの出生。

世界、そしてひとつの親子の危機。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 突然立ち上がったケンタウルスが、まさかエーレを襲おうとしていたとは、二人は夢にも思わなかった。ただ、カロスを見上げ、その動揺を見つめていた。


 カロスはこれまで感じたことのない恐怖に怯えていた。その様子を見たヤニスは(やはりか……)と心の中で絶望した。ヤニスは薄々と気づいていたのだ。エーレこそが、自分たちに課せられた“罰”であることを。


 しかし、今のエーレにそれを伝えるべきでないのは明白だった。彼女はあまりにも多くの事を突きつけられ、か弱い心は今にも壊れてしまいそうだった。ヤニスはカロスに声をかけ、二人きりで話す時間をくれと頼んだ。自らも心を落ち着ける必要があったカロスは、その頼みを快く受け入れた。


 カロスは二人から少し離れた場所へと移動し、静かに見守る。その間、ヤニスは泉の畔でエーレに話し始めた。



 「エーレ、今までお前の出生について黙っていたこと、本当にすまない。これはマイクも同じ気持ちであろう。でも、これだけは信じてほしい。お前を本当の娘だと思い、心から愛してきた。そして、これからも変わらない。それだけは絶対だ」


 ヤニスの言葉に、エーレは小さく頷きながら、かすかに声を絞り出した。


 「……私にとってお父さんは一人だけよ」


 「でも……今は何が何だか分からないの。私が森で拾われた子供だとして、なぜ死神に追われなければならないの? お父さんが一番知っているでしょ。私が何の取り柄もなく、存在感も薄い、ただの女の子だって」


 その言葉に、ヤニスは微笑んだ。


 「確かに、お前の“存在感の無さ”は一級品だ。覚えているか? 昔、お前と隠れんぼをしたとき、全く見つけられなくて、ミリアのみんなで大騒ぎになったんだ。結局、お前は家の中に隠れていただけだったのに」


 久しぶりに聞く何気ない日常の話が、エーレを優しく包んだ。ヤニスは続けた。


 「マイクも、あいつはあれで恥ずかしがり屋だから表には出さないが、本当にお前を気にかけているんだ」


 実際、エーレはそんなことには全く気づいていなかった。マイクはついさっきまで、ただの父の友人で、どちらかといえば苦手な存在だった。


 「お前を引き取って俺が戦士を辞めると言った時、責任を感じたのか、あいつも戦士を辞めた。表向きは“ルカのため”だと言い張っていたが……実はお前のためでもあるんだよ」


 「……そうなの?」


 エーレは少しだけ微笑んだ。マイクのぶっきらぼうな態度と、その裏にある優しさが少しだけ見えた気がした。


 「そういえば……ずっと気になっていたのだけど」


 エーレは少し躊躇いながら、これまで聞きづらかった疑問を投げかけた。


 「マイクの奥さん、つまりルカのお母さんは……誰なの?」


 ヤニスは一瞬悲しげに目を伏せ、静かに答えた。


 「あいつの母親はマートル……ルカを産んだ時に亡くなったよ。それが、マイクの妻だ」


 エーレはうっすらと予想していた答えに、小さく「そっか」と呟いた。


 「だが、何にせよだ!」


 ヤニスは急に声を張り上げ、エーレの目をまっすぐに見つめた。ヤニスの大きな眼には、疑いようのない父としての優しさと決意が宿っていた。


 「今、俺たちが何に巻き込まれているのか、さっぱり分からん。だが、そんなものはさっさと解決して、またいつもの日常に戻ろう。あんなに大きなケンタウルスがいて、こんなにも美しい泉があり……どうやら森も俺たちの味方らしい。これほど頼もしいことはない」


 その言葉に、エーレの胸の中に少しずつ暖かさが戻った。


 「それに、頼りないかもしれんが、俺もマイクもお前を全力で守る。もし恐怖に押しつぶされそうになったら、目を閉じて思い浮かべろ。みんなの顔、ミリアの町、そして俺たちの家……そして何気ない日常を」


 エーレはそっと目を閉じ、思い浮かべた。ほんの昨日まで当たり前にあった日常。きっと事情を知っていたにも関わらず、優しく声をかけてくれていたミリアの人々。大好きな本に囲まれた自分の部屋。


 その時、想像の中の本棚の一部が強く光るように感じたが、エーレにそれに気を留める余裕はなかった。今や彼女の瞳からは大粒の涙が溢れ出し、止まらなかった。


 だが、その涙は決して悲しみからではなかった。


 これまで受けてきた多くの愛が、思い出と共にエーレの心に流れ込み、先程まで押し寄せていた恐怖や不安を全て押し流してくれた。


 エーレは今、ただ“生きている”という事実が堪らなく嬉しかった。



 泣き崩れる娘を胸に抱きしめ、ヤニスは少し恥ずかしそうにしながらも、エーレの涙が自分の不安や恐怖をも洗い流してくれるのを感じ、安堵した。


 親子を包み込むように、森はゆっくりと夜の帳を下ろしていった。

 速報!エーレはマイクの事が少し嫌いでした。

笑い声に濁点付くキャラって、大体女の子に嫌われがちだよね。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

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是非続きもお楽しみ下さい。


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登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・ルカ(マイクの息子)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(泉?)

・アキレウス(昔の英雄)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元精霊の魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(森の中の何やら訳ありな泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

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