〜招かれる者と招かれざる者〜
ケンタウルス再登場。
娘との出会いはすぐそこか。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
少しばかり時を戻し──
ケンタウルスは岩山の頂から広大な森を見下ろし、真紅の鳥から告げられた不吉な予兆を捉えた。彼の鋭い眼差しは、山道を進む一台の馬車に向けられた。
彼は人類の発明したこの乗り物を心の底から嫌悪していた。人間という未熟な生き物が、美しき馬の背に乗り、さらには荷車を引かせる……。それはケンタウルスにとって、見るに堪えないほどの醜悪な光景であった。
表情に羞悪の色を浮かべながらも、すぐに思考を切り替えた。
たとえ馬車が忌むべきものであっても、ただ道を進んでいる限りには、森にとっては特段珍しいことではない。
だが、真紅の鳥が警告した“予兆”は他にあるはずだった。
ケンタウルスは静かに目を閉じ、馬車を中心に森の気配を探った。
そして、すぐにそれを察知した。
(何故“奴ら”が森の中にいる? しかもこの数に今まで気づかないとは……いったいどうなっている?)
思考が巡るよりも早く、ケンタウルスは岩山を駆け降り、気配の向かう先へと猛然と駆け出していた。
鬱蒼と生い茂る木々をかき分けることもなく、彼の進む道は自然と開かれていく。
森はケンタウルスを守護し、彼の進行を妨げるものは何一つなかった。
だが、その走りの中で、彼の胸には得体の知れぬ疑念が広がっていく。
(元来“奴ら”が群れをなすことはない……その上人間の命など、一体で十分なはず。なのにこの数……いったい何が起きている?)
さらなる疑問が次々と浮かぶ中でも、ケンタウルスの速度は衰えることはなかった。
その時、不意に気配の流れが変わった。
ケンタウルスは即座に全身の筋肉を使って立ち止まり、再び目を閉じて気配を探った。
そして、彼は驚愕した。
(森が導いているだと? いったいどうなっている? 人間の乗った馬車に、森が道を開くなど……)
信じ難い事態に、ケンタウルスは激しく動揺した。
「森よ! 何をしている? あの導きの光源の主は誰だ!」
声を張り上げて問いかけたが、森は静まり返り、返答はなかった。
抑えきれない怒りを抱えながら、ケンタウルスは再び駆け出した。光源の主を突き止めるために。
その頃、ヤニスとエーレはひたすらに森の中を駆け抜けていた。
道中、エーレを若馬の背に移し、ヤニスは腰に差していた短剣で荷台を切り離した。
大切な物資ではあったが、二人が無事に辿り着けなければ意味はない。
「このまま真っ直ぐ進んで良いのか?」
ヤニスは老馬を先導し、エーレを乗せた若い馬に並んで問いかけた。
「ええ……もうすぐ……そんな気がするの……」
頼りない返事にヤニスは思わず声を荒げた。
「そんな気がするってお前、ああクソ、何なんだ全く!」
しかし、すぐに父としての優しさを取り戻し、精一杯の言葉を娘に投げかけた。
「とにかくしっかり捕まっていろ! この道の先に女神様でもいるって言うなら、必死で連れて行ってやる!」
その時だった。
ヤニスたちが進む先に、一つの影が現れた。
それは先程から追いかけて来ている“影”と同じように見えたが、その陰影は一段と濃く、禍々しさを増していた。
「クソ……前にもお出ましか。優秀な軍師がついてるらしい」
ヤニスは皮肉を呟き、影を睨みつけた。心を冷静に保とうと、無意識に手綱を握る手に力がこもる。
ケンタウルスは高さ三メートル超えです。
前脚を上げたら四メートル近いです。
お気をつけて。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・?(ケンタウルス)
・エーレ(平凡な娘)
・ヤニス(エーレの父)
・マイク(伝説の英雄)
・ルカ(マイクの息子)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・?(梟)
・?(影)
・?(声)
・?(光源の主)
・?(新たに現れた影)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)