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7・初めての授業

「しつこいわよ。あんたの君主に性格が似てるわね。いいと言うまで通い続けるつもりなの?」


「俺の夢は魔法使いに魔法を教えてもらうことだったんだ」


「知らないわよ。そもそも、この前、意地汚ぇクソ魔女って言ってたわよね」


「そ、それは……言葉の綾というか、愛情と尊敬の気持ちの裏返しというか……」


「素直じゃない人は嫌いなの、さようなら」


 勢いよく扉を閉める。墓を取り戻したその日から金髪はずっとこの調子だ。恐らく、城で与えられた仕事をこなしてからこの森に通っているんだろう。私が迂闊に家までたどり着ける魔法を教えたせいでこうなった。だから責任の一端は私にあるかもしれないけれど、しつこすぎる。


「なぁ、頼むよ。もう自分で成長するには限界な気がするんだ。俺はもっと強くなりたい」


 何回も聞いた言葉だ。金髪以外の魔法使いからも聞いた。長寿な魔法使いがやることなんて限られてくる。強さを求め続けるしかない。魔法使い同士の殺し合いなんていたる所で行われている。


 魔法使いの体は高値で売れるから人間からも狙われるし、魔法使い同士の争いも苛烈だ。人間と接することなく暮らせる場所だって限られているし、魔力を手っ取り早く増やすなら他人から奪うのがいい。生き残るために強くなり、強くなるために争うしかない。争いを避けるには争うしかないのだ。


「魔力量が増えなくなった。あんたならいい練習方法を知ってるかもってジスさんが……」


「赤髪ねぇ、あの人は人間のくせに魔法に詳しいから怖いわ」


 私の声は赤髪には届かない。家のなかの音は外に漏れないが、金髪の声が大きすぎるせいでとにかく、家のなかでやるべきことを済ませないと。掃除はしたし、洗濯もした。外で育てている薬草に水をやりたいけれど、外には金髪がいる。だめだ。何も思いつかない。そもそもこの森で一日のほとんどを過ごしていることが多いから、家にいて出来ることなんて魔法窯で煮込むこととか、上品に刺繍をするとか、料理をするとか……今やりたい事じゃない。


「なぁ、いないのか? せめて返事だけでもしてくれよ。俺を弟子に__」


 本を読んでればいつの間にか金髪の声は聞こえなくなっていた。やっと帰ったのかと思って、上着を羽織る。


「まずは足りない魔法植物を収穫して、まって。意外と量が足りないわね。金髪に手伝わせようかしら」


 その時に危険な植物や動物を教えておけば、けがをすることもないだろう。この森には危険な生き物も毒のある植物も、数えきれないほどたくさん生えている。私の大切な薬品を私以外に使うのは惜しい。


「金髪……あら、大丈夫?」


「おい! こいつはいったいなんなんだ!」


「魔法植物を食べたオオカミ、かしら。私のお庭の植物、食い荒らしちゃってねぇ」


 目の前の金髪は息があがった状態で私を横目に魔法を放っている。どうやら周りの植物に影響がない範囲で魔法を繰り出しているようで、小規模な魔法ばかり出していた。


「ちょうどいいじゃない。金髪、魔法を教えてもらいたいんでしょ。今教えてあげる。実践を通してね」


「はぁ? 今? こっちは毒浴びて死にかけだぜ」


「ちょうどいいハンデよ。魔法植物を食べた動物は高確率で後天的魔法動物になるの。後天的に力を得た魔法動物は能力を使いこなせないからそこまで脅威じゃない。怖くないわよ」


 私の話を聞くためか、金髪は攻撃を受け流していた。


「そうか? 俺は結構きついけど」


「慣れてないからよ。ここの生き物は特殊だから。普段は何してるの?」


「騎士団所属魔法使いだから対人ばかりだ。たまに魔獣の討伐に」


「それに加えて魔法の自主練ね。悪くないわ。魔法動物の弱点は体のどこかに生えている。キノコよ」

「キノコか……!」


 受け流していた攻撃が金髪の頬をかすめた。さすがにちょっとやそっとのことじゃ声を上げないらしい。魔法使いにしては珍しく近接戦も得意なようだ。


「見つけたぜ! 尻尾のところにキノコが生えてるな!」


「それを魔法で燃やすか、剣で切り落とすか。どちらかできれば消えてなくなるわ」


『アクイラ・ロペス。燃えろ』


 金髪の人差し指にはめられた金色のリングがきらりと光る。彼の手から放たれた炎はオオカミの尻尾に生えているキノコを燃やし、オオカミは遠吠えを一度してから灰になり目の前から消えた。


「どうだ! 俺にもできたぞ!」


「上出来ね。周りに被害が少ないのは大きな加点ポイントだけど……」


「だけど?」


「あなたの声が大きいからオオカミがあなたの存在に気が付いたのよ。この森はとても静かだから。そこは減点」


「くそっ! そこかよぉ……ヘイズは褒めてくれるんだぜ。俺の声がデカいからどこにいるか分かりやすいって」


「別に普段から静かにしてなんて言ってないわよ。この前魔法を教えた時、髪をほどいてたでしょう。魔法使いを名乗るなら冷静にスマートに魔法を使わなきゃ」


 これは完全に持論でなんの根拠もないけれど、どうせならかっこよく魔法を使いたい。見てくれが綺麗でかっこいい方が強く見えるし……とにかくいいことばかりなのだ。



「あなた素質はいいわよ。人間のそばにいるんじゃなくて一人で生きたほうがいいと思うけど。人間のペースに合わせてたら成長も緩やかになるわ」


「俺は一人でいるのが嫌いなんだ」


「ずっと一人ってわけじゃないわよ。私だって一人で暮らしているけれど、友人がたまに遊びに来るし、私だって遊びに行くわ」


「……お前には家族がいただろ。俺にはいない。俺は、親に売られた。家族よりも雇用関係を信じてる。友情よりも、主を信じてる。契約は友情よりも強固な関係だ。契約から生まれる友情だってあるだろ。だからヘイズの近くにいる。あいつらは俺を捨てないし」


 ロペスは空を見上げた。なにか思い出しているのか目を閉じたら開いたり、思いを馳せてるみたいだった。


「根本が分かり合えないのなら私に弟子入りするのはなおさらやめた方がいいわ。あなたが一人で生きていくようになったら弟子として取ってあげる」


「そうだな。人間なんてすぐ死んじまうし。100年後くらいにまだ師匠がいなかったら弟子入りするか……でもたまにはこうやって教えてくれよ」


「……気が向いたらね。死にそうになっていたら教えてあげる」


「ところで、あんたの師匠は誰だったんだ?」


「馬鹿ね。婆様と母様よ」


 師匠であり家族だった2人はもういない。私は金髪を手当てするために、自宅へ向かった。金髪はその後ろを無言で着いてきた。


 結局、頬の擦り傷しか目立った外傷はなく、私は金髪の能力の高さを思い知った。もし、敵になることがあったら最初に殺さなければいけない。そんなこと考えたくもないけれど、人間側についている魔法使いは考え方が特殊だ。


 もしものために、私は金髪を殺す方法を考えなければいけない。とても胸が締め付けられて、複雑な気持ちになってしまうが、生き抜くために必要な準備だった。

 読みやすいように行間を空けました。マイペースに更新していきますので今後もよろしくお願いいたします。

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