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5・往訪

 それは、私がこの森に生えるブラッドベリーで自家製ジャムを作っている時のことだった。


 __ドンドンドン


 母様から譲ってもらった小さな鍋にたくさんのベリーを入れてぐつぐつ煮込む。焦げ付かないようにたまにかき混ぜながら、砂糖を追加していく。ちょうど母様の手記に書いてあったから久しぶりに作ってみたらあの頃の味で、嬉しくなった。


__ドンドンドン


「今日は風が強いわね」


 そう、すっかり忘れていたのだ。少ししたら来訪者が来るということは覚えていたけれど、まさか今日だとは思わなかった。片手に収まるほどしかいない知り合いは家に来るときには必ず前日に連絡をよこしてくるし。


__ドンドンドン


「なんか様子がおかしいわね。確認しに行くしかないわ」


 __ドンドンドンドン


「あぁ、もう! うるさいなぁ……って、あら。クソガキどもじゃない」


「黒の魔女! ちゃんと魔法使えたぞ!」


「この年になってクソガキとは複雑な心境ですね」


「ごきげんよう。例のもの、持ってきましたよ」


 目の前にはこの前の三人組……ヘイズの手にはこの前の契約書が握られていた。サインには国王の名前とヘイズの名前が書かれていた。


「貴方の予定さえよければこれからあなたの母上の墓へ向かいましょう。馬車を待たせています」


「その必要はないわ。時間かかるでしょう。私が運ぶ。少し待ってて」


 私は三人を外で待たせて準備に取り掛かる。ジャムも作りかけのままにして、魔女の正装に着替えるために上の階へ上がった。


「確かここら辺に……色付き魔女の集会以来着てないから場所が微妙だな」


 タンスを漁ってみる。あった。真っ白のシャツだ。首元にほどよくフリルが付いている。アンティークボタンが上品でお気に入りだ。


 次に、裾に刺繍が入っているスカート。刺繍が細かくて、布の質も上等なもの。ベルトを締めてブーツをはく。最後に魔法使いのローブと帽子をかぶる。魔女の必需品のとんがり帽子だ。ここにも花の刺繍が施してある。


 最後にお出かけ用のバッグを肩にかけて、お出かけ用の箒を手に取る。クロヤマの木で作られた特注品だ。


「待たせたわね」


「あぁ、本当に準備が長くて……いてっ! なんだよ、ジスさん!」


「部下の教育をした方がよろしいのでは? 赤髪さん」


「……申し訳ありません」


「大丈夫ですよ。ほんの五分待っていただけですから。それにあなたの魔法で連れて行ってくれるのでしょう?」


「えぇ。時間が惜しいもの。待たせて悪かったわね。その気持ち分も含まれていると思ってちょうだい」


 馬車のところへ行く。三人と御者を馬車の中に押し込む。私は魔法のチョークを持って地面に魔法陣を書いた。魔法陣が完成すると、白い線が浮かびあがる。今回は運ぶものが多いし、重さも相当ある。馬のことも考えて完璧な調節が必要だ。杖を握りしめて三回ふる。


『アーテル・シンザ。空間よ、移動せよ』


 唱えた瞬間、周りの景色が一変した。目の前にそびえたつ大きなお城。それは、空を飛ぶときに見えるオクルス王国一大きなオクルス城だった。


 一応馬の様子を見に行ったが特に問題はなさそうだ。石畳の地面を歩いて馬車の扉を開ける。


「着いたわよ」


「本当に一瞬なんですね」


「えぇ。今回は呪文まで唱えたから正確にたどり着いたわ。適当にやると、民家のてっぺんにつくこともあるし」


「魔法道具でここまでできるようになったら便利なんですけど。魔法武器の開発ばかり進んで困ったものですね」


「俺もこれくらいできるようになればなぁ」


 三人が出てくる。周りを見渡すと、何人かの騎士が控えていた。


「ヘイズ様。ご無事ですか!」


「あぁ、これから例の場所に行ってくる。陛下の許可はいただいているから、みんな元の位置に戻ってくれ」


「かしこまりました!」


 そう言って散っていく。白の騎士としてのヘイズはずいぶん好かれているらしい。


「陛下はお忙しいですから、本日は謁見することはできません。私が案内します」


 ヘイズがそういうと、先陣を切って歩き出した。


 私は緊張でお腹が痛かった。ずっと一人でいるとこんな緊張することもないから、久しぶりに緊張由来の腹痛に苦しめられている。100年以上前に亡くなった母はどこに眠っていたのか。生家を離れて旅をしたのに、まさかこんなに近くにいたなんて。


 しばらく赤いカーペットが引かれている廊下を歩く。何度か角を曲がって階段を下っていく。薄暗く不気味な道を進んでいくと、やがて大きな扉にたどり着いた。


「ジス、例のものを」


「かしこまりました。こちらをどうぞ」


 赤髪は懐から一本の鍵を取り出した。その鍵は妙な雰囲気を纏っていて、不気味だった。なんて言い表したらいいのか分からないけれど、その鍵の存在は世界の理を捻じ曲げているような気がした。


「その鍵は呪われているの?」


「ロペスと同じことを言いますね。彼もこの鍵を見た時に何か変な呪いがかかってるのかと聞いてきたんです。これは魔法道具ですよ」


 そう言ってから鍵を差し込むと、大きな扉に黄金色の魔法陣が浮かび上がる。鍵をひねるとその魔法陣は強い光を発して消えた。そして、カチャッと鍵の開く音が聞こえた。


「この先に、貴方の母上がいらっしゃいます」


「まさか」


 私はドアを恐る恐る開く。中は真っ暗だった。中へ入ろうとするとピリッとした空気が肌を突き刺した。この先に眠っている魔法使いの魔力が漏れ出しているみたいだ。こんなに強烈な魔力を浴びれば人間の体にも影響を及ぼしそうだ。その空間は何もないのにだたっぴろい。奥の方に墓石のようなものが見えて急いで確認に行く。母様であってほしいのに、母様であってほしくなかった。

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