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4・対価

「ロペスの追跡を逃れるとは、順調に成長しているようでなによりです」


「ロペスはこういう補助的な魔法よりも攻撃魔法が得意だからね。まだ僕の逃げ足の方が上かな」


「最近やっと防音魔法が形になってきたばっかりなんだから勘弁してくれよ。魔法だってほぼ独学でがんばってるんだから!」


「ヘイズ様の御身に何かあったら怒られるのは俺とロペスなんですよ」


「そもそも私だって騎士なのだから守りなど必要ない。お前たちのことは、仲間として信頼してるよ」


「だったらヘイズに敬語を使わないとキレてくる奴らをどうにかしてくれ! 敬語ってのはどうも性に合わない。70も年下だし」


「私は構わないと言っているんだから。砕けた口調でいいよ。そこに関してはジスからもお咎めはないだろう?」


 どうやら金髪は敬語を使うことが相当苦しいらしい。たしかに、硬派な見た目でもないし似合わない。だが、人間の社会で生きていくなら必要不可欠なものなのだろう。

 ただ、書庫の中で喧嘩するくらいなら出て行ってほしい。喧嘩と言えるのかも怪しいが、言い争いは聞きたくない。


 とりあえず、小さなユニコーンを本の間に挟む。すると、もう一度開いた時にはユニコーンの姿は消えて、背表紙にその姿が刻まれていた。


「うるさいわね。本がびっくりするじゃない」


「ここにある本は意思があるのですか?」


「さぁね。私が本だったらこんな言い争いは聞きたくないだけ」


 そう言うと、金髪はバツが悪そうな顔をした。


「俺、先に外出て頭冷やしとく」


「いってらしゃい」


 ヘイズは笑顔で見送っていた。


「さて、お見苦しいところを見せて申し訳ありませんでした」


「魔法使いが人間の社会で生き抜くのは難しいと思うわ。一度拾ってしまったのなら、貴方が死ぬまで面倒を見てやって」


「そのつもりですよ。その前に旅立っていくような気もしますが。彼は人間になりたいというよりかは魔法使いになりたがっていますから。残念ながら人間の僕にそれをかなえることはできません」


「ヘイズ様。お時間の方が」


「おっと、夕刻過ぎまでレディの家にお邪魔するわけにはいきませんから。手短に済ませましょう。そちらの条件をまずはお願いしてもよろしいですか?」


「貴方みたいな子供にレディ扱いされるのも笑えてしまうけど」


 腕を組み考えてみる。何が最善か。この人間たちは信用はできないけれど、契約をするくらいならいいかもしれない。人間の様子をうかがいつつ過ごすことができる。デメリットは、人間に家の場所がバレてしまうこと。貴重な資料をとられる可能性があること。考えだしたら止まらない。


 それでも、母の骨をこの森に埋めることができるのなら、なんて考えてしまう自分もいる。


「母の墓をこの森に運ぶ許可を取ってきてくれるのなら、そちらの条件はある程度は受け入れるわ。この書庫に入る許可というのも、与えてもいい。代わりに私の仲間の監視を受け入れてくれるのならね」


「では、王国の研究に合流してくださる話はいかがでしょうか?」


「ひと月に一度、ならいいわ。その代わり、私が人間に故意的に傷つけられた場合、対価をよこしなさい」


「ふむ。では、貴方が人間に腹を刺されたときは僕も自分の腹を刺しましょう。毒を盛られれば、僕も毒を飲みましょう」


「ヘイズ様っ……!」


 赤髪は焦ったようにヘイズに声をかける。私はまっすぐにヘイズのことを見つめた。ヘイズも同じように見つめ返す。新緑色の瞳は揺らぐことなく私のことを見ている。目力が強くて、なんだか居心地が悪い。


「分かったわ。それなら手を打ちましょう。契約書を出すわ」


 杖を一振りする。黒の魔女として恥じない高級感のある材質に。決して舐められないように。誇りだけは失わないように。最高級の材質の紙にサインをする。赤髪に手渡せば丁寧に受け取ってくれたが、その目には不満をにじませていた。


 感じる。『我が主と何という契約を結んだのだ……!』という圧を。こちらも負けずに睨み返す。私の味方は私しかいない。白髪と違って忠実な部下なんていない。自分が最高のパートナー。孤独さえも武器として戦うしかないのだ。


 そのまま二人を外へ案内する。外では金髪が待っていた。よく見ると騎士の正装と同じ紺色のローブを纏っていた。魔法使いらしいといえば魔法使いらしいのかもしれない。かくいう私もいひざ下丈のスカートに白いシャツ。典型的な魔女の軽装だ。


「その……さっきは熱くなりすぎた。お前にも立場があって、なんでもできるわけじゃないもんな」


「いえ、私もあなたが伸び伸び修行できるように頑張ります。話し方の件も文句を言ってくる人には良く言って聞かせますから」


「水を差すようで悪いけれど、あなたたちが帰る前にそこの金髪に私の家までたどり着けるように魔法を教えなきゃいけないから少し借りるわよ。先に帰っててもいいけれどどうする?」


「見ています。離れたところで」


「時間はかからないわ」


 金髪は緊張してるみたいだった。しかし、ハーフアップにしていた髪を下ろすと、切り替えたみたいだ。顔つきが変わった。


「そうやって切り替えるのね。まぁ、そこまで難しくないから緊張しなくてもいいけど」


「初めて本物の魔法使いに教わるんだ。緊張くらいさせてくれ」


 そうして、授業がスタートした。授業と呼べるかも怪しいけれど、単純な魔法を組み合わせただけだからかすぐにマスターした。一瞬この魔法を教えるかどうか迷ったけれど、悪用されたらまた別の魔法をかけなおせばいい。いちいち森の目の前まで行くのも狙撃される可能性があって怖かった。


「これで大丈夫ね。悪用したら末代まで呪うから」


「色付きの魔法使いが言うと冗談に聞こえないな」


 彼らが再びこの森に来たのはそれから一週間たってからだった。


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