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8 謀に先達あり

「今の王妃さん、二番手の聖女やったって知ってる?」

 突然の話にフィーネもイーダもエルゼも首を横に振りながら、興味津々で身を乗り出した。

「王妃さんが選ばれた年な、ほんとはダントツに力の強い聖女候補がおったんよ。その人、聖堂の司祭に騙されて王都に連れて来られて、知らん間に聖女の判定受けさせられることになっててん。丁度王子さんも適齢期で、選ばれた聖女と王子が結婚するて聞いて慌てたらしいわ。その人には結婚の約束した恋人がおったから、選ばれんように聖女の判定の時、ちょっとしたトリック使(つこ)てん」

「トリック?」

「王子との結婚(ねろ)てた聖女候補に魔道具渡して、力底上げして聖女になってもろたんよ。もちろん自分の力は隠してな。そん代わり巡礼の時は手伝いに行く約束して。巡礼に祈り手がつくようになったんは、今の王妃さんが聖女になってからなんよ。…知らんかった?」

「うっそぉ!」

「まさか…」

「ほんまほんま。約束通り、巡礼のたびにかつての最強聖女候補が祈り手になって一緒について行ってるんやけど、…それ、私の母親」

「まじで???」

「お母様本人から聞いたのなら、信憑性あるわね…」


 王妃は自分でさえ二番手だったのに、それよりもなお力の弱いフィーネが聖女として後を継ぐとなれば、それはそれは心配だろう。

「裏ボスがいるんじゃ、私程度の力じゃ心配よねぇ。もっと強くなれって愚痴る訳だ…」

「いや、うちの母からしたら『鍛えてなんとかなる思てんのやったら、あんたこそ鍛えんかい』て言いたいところや」

 それには一同大きく頷いた。


「今回はフィーネさんはもう聖女に認定されてしもてるけど、魔物から守るために力使い切ってしもたってアピールしたら、今の王妃さんやったら聖女選び直すんちゃう? あんた、今日あんな無茶な力の使い方するから、多分半年ほどは碌に力使われへんで。あんたの力はどう見ても攻撃とか防御に向いてないんやから」


 結婚から逃れるには、聖女でなくなればいいんだ。

 そんな簡単な方法を伝授されて、フィーネは諸手を挙げて喜んだ。そしてそれに希望を見いだしたのはフィーネだけではなかった。

「わ、私、ユルゲン様とは幼なじみで…、ユルゲン様が聖女を娶ると聞いて、私が聖女になれたらとがんばってたのだけど…。でも私では力不足で、聖女になれなくて…。それは私のせいで、フィーネ様が悪いわけじゃないのだけど…」

 目を潤ませながら告白するイーダ。この一年間、ずっとフィーネに同行していながら、王子を思う気持ちなどみじんも感じさせなかった。しかし心の奥ではずっとフィーネを羨んでいたのだろう。近くにいながらよそよそしく、ほとんど話をすることもなかったのはそのせいだ。


 フィーネはイーダの手を取った。

「もし私の力が戻ったら、巡礼の時は私が祈り手になってついて行く。だから、代わろう、聖女」

「代わろうって…。そんな簡単に…」

「私が見たところ、フィーネさんもイーダさんも力の強さはそんなに変わらへん。確かにフィーネさんの方がちょびっと強かったけど、力使い過ぎた今やったらイーダさんの方が勝ってる」

 イーダは、クリスの言うとおり自分とフィーネの力の差はそれほど大きくないという自負はあった。それだけに、あと少しで届かなかった聖女の座を、ユルゲン王子の妻になることを諦めきれなかったのだ。ずっと羨むだけで、聖女を貶めることもできず、黙って妬んでいただけ。そんな気持ちを持ち続けて、聖なる光の力を発揮できるわけがない。


「母に魔道具借りれるか聞いてみるわ。フィーネさんには、後で力制御する方法教えたる。新しい聖女が決まるまで、上手に力隠すんよ」

「わかった。がんばる」

「…協力する代わり、王都より西側に住むんはやめてな。絶好調のあんたが祈って、周りの(もん)まで祈りだしたら、しょぼい魔物がおらんなって困るんよ」

「言うほど効果、あるかなぁ」

 しょぼい魔物と限定されはしたが、赤猪に突進されて自分の魔物除けの力には懐疑的になっていた。住むところにしても、派遣されれば西部の教会に行くことだってあるかもしれないし、西の人と素敵な出会いがあれば、定住だってないとは…、…。

 虚しい妄想に、思わず溜息が出た。


「…あと、リーンハルトに色目使(つこ)たら許さへんで」

 少し顔を赤くしながら釘を刺したクリスに、フィーネはクリスの本当の狙いがわかった。

「あ、そういうことか。…ごめん! もうあきらめた!」

 聖女でなくなるなら急いで恋人を見つける必要もない。

 フィーネは中途半端な気持ちでリーンハルトを狙っていた自分を反省した。クリスには申し訳ないことをしてばかりだ。


 辺境領の騎士達は聖女にとっとと帰ってもらいたいだろうし、王の騎士達はとっとと王都に戻って旅から解放されたいだろう。フィーネの男運のなさ、ここに極まれり。

 しかし、聖女をやめられるかもしれないと思うと、王都に戻るのも少しは気が楽になっていた。


 横でこれから行われる(はかりごと)の段取りを聞いていたエルゼは、

「私は協力できないわよ、黙っていてあげるけど」

と言って企む三人に微笑んで見せた。

「この旅が終わったら、大聖堂のお勤めやめて結婚するんだぁ。私、アロイス様にプロポーズされたの」

「!!」

「ええっ!」

「いつの間に…」


 やはり今回の聖女の旅は御利益ありだ。


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