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6 ごちそう

 町に着くと、すぐにアロイスが宿の手配に向かった。

 クリスが町の門番の詰め所に魔物が出たことを告げに行くと、

「赤猪二匹か! よし、行くぞ!」

と、既に退治は終わっているのに、警備隊の男達十名ほどがテキパキと準備し、現場に向かった。みんな目をキラキラさせている。


 フィーネ達が宿に入り二時間ほど経って、残りの騎士達が戻ってきた。

 あんな討伐があった後なのに辺境領の騎士達はご機嫌で、王の騎士達はげっそりとした顔で戻ってくるのがやっとといった感じだ。


 クリスはリーンハルトの元に行くと、まず謝った。

「すみません。危うく魔核を…」

「いや、あれは聖女様を守るには仕方がないことだ。しかしあそこまでやると肉質が落ちるぞ。あっさりしたのが好きな奴もいるが…」

 ラルフが手にしていた魔核をリーンハルトに渡した。いい笑顔を見せながら、

「俺は白いの好きやな。臭みがなくて」

「いや、肉言うたら赤猪やろ。塩漬け最高! あー、さっぱりしたら飯や!」

 フォルカーは早々に屋外にある温泉に向かった。リーンハルトとラルフ、それに王の騎士も皆温泉に直行した。


 赤猪、塩漬け最高?


 今の会話を聞いていたフィーネは、あまりに想定外な会話に驚いた。

 倒した辺境領の騎士達だけでなく、町の住人も魔物が出たのに怯える、というよりもそわそわしている。

 やがてさっきの魔物がいくつかに分断されて町まで運び込まれると、遅い時間にもかかわらず広場でセリが始まり、あっという間に赤も白も魔物の肉は売り切れた。大きな牙はかなりの高値が付いたようだ。

 その様子を驚いて見ているフィーネに、町の住民が教えてくれた。

「白い方やったら今日にでも食べられるわ。赤い方は血抜きして塩漬けにして、一ヶ月後やね、ごちそうになるんは」

「食べるの? 魔物を?」

「おいしいでぇ。ここんとこ魔物がおらんなってええ肉がなかなか手に入らんかったんよ。赤猪はようつがいで出てきて倒すんは大変やけど、倒せたら二倍や。魔核は大きいし、毛皮は硬くて防具にええし、牙は武器にしたら高う売れるし、薬にもなるし。ほんまありがたいわ」


 魔物が、ありがたい?


 シュルシュトに来た時、フィーネは祈りに来た住民にこう言った。


  皆さん、安心してください。

  この祈りの力がある限り、皆さんは魔物を恐れることなく、

  平穏に過ごすことができるでしょう。


 しかし、ここの住民達は魔物を恐れているだろうか。

 全く恐れていないわけではないにしろ…

 フィーネは、あの時の自分の発言が恥ずかしくなり、顔を隠してしゃがみ込んだ。



 宿で出された赤猪のワイン煮込みはなかなかの美味だった。今日倒したあいつではなかったが、魔物肉は食べられるようになるまで時間はかかるものの熟成させた分味が良く、日持ちもするので保存食としても重宝されているのだそうだ。


 魔物の多いシュルシュトは、魔物を狩り、魔物で潤うたくましい場所だった。


 ここ、…聖女、いらないんじゃない?


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