表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

ex ほんまもんの聖女

備忘的設定裏話

西の辺境伯邸にて

 聖女フィーネは巡礼の旅の帰路で魔物に遭遇し、人々を守ったが、聖なる力が弱まったために聖女を退くことになった。

 新たな判定が行われ、その結果新しい聖女にイーダが選ばれた。

 人々は時を置かず決まった新たな聖女を歓迎した。


 …という王都からの報告と、さほど時を違えずフィーネからクリスに宛てられた手紙が届いた。


 シュルシュト辺境伯夫人カタリナは報告書の想定通りの内容に、

「うまくいったようやね」

と安堵の笑みを見せた。


「フィーネ、恋人ができたって」

 娘クリスがフィーネからの手紙を読みながら驚いていると、

「せやろな」

とカタリナは当然とでも言いたげな様子だ。

「…何で? 旅の間ずっと恋人探してたのに見つからんかったゆうてたよ」

「王の恋愛禁止の命令が解けたら、声かけてくる男の一人や二人おるやろ。あんなにけなげに祈る姿見て、だぁれもキュンとこんなんてことないと思うで。実際、護衛を超えたあっつーい眼差しであの子見てた子、二人はおったからな」

 …おったっけ?

 全然わかっていないクリスの反応に、こらあかんわ、とカタリナは苦笑した。


「あの子の周り、恋愛運爆上がりやったやろ。『旅の御利益』ゆうて女神様の力みたいになってしもてるけど、あれ、あの子の力やで。思い合う相手を引き寄せる力なんか初めて見たわ。あれ何なん? 自分の恋人探しに力発揮しといて、自分のことになったら弱腰でパワーダウンってのがあの子らしいけど。あんたとあの魔物バカがうまくいってるんもあの子のおかげや。聖女様に感謝しいや」

 クリス自身、フィーネと一緒に短い巡礼の旅に参加した後、リーンハルトとの距離がぐんと狭まったのを実感している。

「感謝はするけど、フィーネ、もう聖女やないやん」

「それは『王都の大聖堂の聖女』やろ? あんな肩書きなんかどうでもええねん。あんなもん、犬の名札や。王家の犬になんか誰がなったところで大したことない。私がゆうてんのは、ほんまもんの女神様の使徒、ほんまもんの聖女ってことや。あの子はすごいで」


 クリスは母よりも強い光の力を持つ人を見たことがなかった。

 フィーネの力も見たが、自分よりも弱く、ほわっと空気の中に混ざり込む、霧のような実にとりとめもない力だった。それが祈りによって聖堂の宝玉に向けられると、液体のように波打ちながら溜まり、濃度を増していった。


「確かに一対一やったら私の力の方が断然強いよ。あの子は自分の力は大したことないけど、周りの普通の人の祈りの力を光の力に変えよるからなぁ。普通の人の力をやで? 信じる(もん)がおる限り、無尽蔵。反則やろ」

 フィーネの祈る力を見た時、人々の祈りの力を受けてフィーネの力が増しているように見えた。しかし、実際にはフィーネ自身の力が増しているんじゃない。周りの力を変換していたのか。これにはクリスも気がつかなかった。

「私が一人で頑張ってもいつか疲れてしまう。年取ったら力も弱なってくる。やのにあの子は自分はちょっとでええんよ。他の人がいくらでも補ってくれるんやから。しかも光の力持ってる人が近くにおったらその力、倍にしよるもんなぁ」

「倍!」

 それを聞いて、巡礼の時の赤猪のことがクリスの頭をよぎった。

「…何なん、なんか心当たりあるん?」

「こないだ、フィーネのお供して赤猪倒した時な。私の光の矢、赤猪刺したどころか、突き抜けてん。いとも簡単に、薄い布に針通すみたいにプスーって」

「突き抜けたん? 赤猪の体を? こっわ! あんな巨体、貫通せんやろ、普通」

 あれが威力2倍の効果だったとしたら納得だ。クリスはあの時フィーネ達を守ったと思っていたけれど、自分もまた守られていたのだ。

 あれが聖女の力…。


「あんたの力は気ぃつけや。あんたは力、強いけど硬すぎるんや。針金みたいな光のビーム、危なっかしいてしゃーない。あんた、小さい頃に聖堂の宝玉割ったん、覚えてる? あれ、ごまかすん大変やったんやで。あんたは聖堂行っても絶対宝玉向いて祈ったらあかんで」

 そんなことあったっけ? クリスは記憶をたどった。

 そう言われれば、昔、宝玉が割れて不吉なことが起こると大人達が大騒ぎしていたことは覚えているが、あれが自分のせいだったとは。

 昔、北の聖堂の司祭が母を無理矢理王都に連れて行ったこともあって、父である辺境伯は聖堂の関係者に懐疑的だ。

 そこにきて不安を口にするだけで動かない司祭達にイラっときて、

「古いもんが壊れるんは当たり前じゃ。新しいのにせいと女神様がゆうとるんじゃ、ぼけ」

と一喝、宝玉を特注させてばーんと寄進して終わったような…。

「前にフィーネと一緒にちょびっとだけ祈ったけど、何ともなかったで」

「それが聖女の力やろ、ほんまもんのな」


 ほんまもんの聖女。

 あんな普通の子が、実はすごい子だった。

 フィーネは聖女と呼ばれなくなっても、これからも聖女であり続けるだろう。…無自覚に。


「でも、王都出て東に行くかもってフィーネ書いとったよ。ほんまもんの聖女が中央におらんでええん?」

「むしろ東で丁度ええわ。これで光の力の使い手がちゃんと配置されたし、うちからも離れてくれるし。十年後の巡礼にはフィーネさんも参加するんやろ? 別に誰が「聖女」て肩書き持ってようが、ほんまもんの聖女が参加してたらええんやから。うちらもそうやもん。女神様は肩書きなんか見てはらへん」


 大聖堂に聖女イーダ。北にエルダ。東にフィーネ。南にセーラ。そして西にはカタリナ、直接は祈りを込められないがクリスもいる。イーダ以外はみんな肩書きを持たない光の力の使い手だ。

 思えばこれは、すごいことでは?

 女神様の采配? それとも…


「自分のこと大事にしてくれる人のそばで、いい子いい子されながらのんびりじんわり力出す。ああいう子にはそれが合うてるやろ。あのまま大聖堂の聖女になったら、あの子多分十年持たんかったで。あの子の光の力が干からびて、女神様の使徒を死なせたら女神様が許さへんやろ。女神様怒らしたらこの国どうなっとったか」

「こわっ」


 本当の聖女の力を見極めることもできず、追い込もうとした現聖女の王妃。しかしだからこそ早々に見切りをつけ、本当の聖女を解放し、今がある。

 禍福は糾える縄の如し。

 全ては女神様の思し召しのまま…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ