1 聖女誕生
二十五年ぶりの新たな聖女誕生に国は沸いていた。
沸き立つほどの光の力を持ち、祈りを捧げれば邪気を払い、魔物はひるみ、疫病は廃れ、人々は平和と健康を取り戻す。
現聖女でもある王妃は、ようやく現れた次代の聖女にほっと胸をなで下ろした。
新しく聖女となったフィーネは田舎の小さな子爵家の三女だった。他の兄弟と比べるとさほど優秀でもなく、容姿も人並みで、幼い頃から人と違った魔力を持っていることには気がついていたが、それはささやかな力で、生活の役に立つことはほとんどなかった。そんなフィーネは家族から期待されることはなく、ひどく蔑まれるというほとではないにしろ「所詮は」「おまえじゃとても」などフィーネを軽んじる言葉が口をつくのは日常で、地味に劣等感を植え付けられていた。
十五歳になってフィーネの力が聖なる光の力だとわかり、修道女として北の聖堂に引き取られることになった。この時は親も喜んでくれたが、鑑定の水晶の色のぼんやりとした弱々しい力にさほど期待を持たれることはなかった。
「まあ、人様のお役に立てるよう、真面目にお勤めを果たしなさい」
父の言葉にフィーネは小さく頷き、生まれ育った領を離れた。
北の聖堂での暮らしは性に合っていた。毎日他の修道女と共に祈りを捧げ、光の力の使い方を学びながら治癒や浄化の奉仕作業に参加する。先輩の修道女に教わりながら薬を使って傷の手当をし、ちょっとした痛みを抑える程度の施術しかできなくても皆笑って感謝を伝えてくれた。それが自分を必要とされていると感じて、嬉しいと思うほどに力に余力を感じるようになった。
やがて何となく力を使うコツがわかるようになると、その力は開花し、みるみるうちに威力を増していった。
王都にある大聖堂では、年に一度王の前で聖女の判定が行われていたが、二十年以上も選ばれる者は現れなかった。
今年の聖女候補は三人。その中に十七歳になったフィーネも入っていた。
聖女候補となる修道女には、この日のために白地に白い花の刺繍が入った美しい聖衣が与えられた。どこかの金持ちが寄進した品らしい。同じヴェールを被り、聖衣をまとうことで祈る者が誰かを特定することなく聖女を判定するのだ。
聖女候補は一人づつ祈りを捧げ、聖女を見極めると言われる水晶に手をかざした。水晶はほんのりと光を放ち、緩やかに消えていった。
フィーネが両手を胸の前で組み、祈りを捧げると、魔力を持たぬ者でさえその力を感じるほどに周囲の空気は清浄になっていった。水晶に手をかざすと煌々と光を放ち、大聖堂にいた者も、その前の広場に集まった者も共に祈り、その力を称えた。
長く消えない水晶の光に、フィーネが聖女となることに異議を唱える者はなかった。
フィーネはそのまま大聖堂に残り、聖女としての役割を果たすことになった。
しかし王妃は自分が同じ年の頃と比べるとまだまだ至らないその力に不安を感じ、それが時に厳しい言葉となってフィーネに向けられた。決して手を抜いている訳ではないとわかってはいたのだが、長い間聖女の重責を背負い、国のために尽くしてきた王妃にとって若い聖女の祈りの力では、まだ国を託しきれるほどの安心感を持てなかった。フィーネは王妃の前ではいつも項垂れ、まるで叱られている子供のように小言が終わるのをじっと待っていた。
力は日によって強まることもあり、弱まることもある。不安定で自分でもまだまだ自分の力をよくわかっていないのに努力を強いられ、より強い力を求められても、どうすればいいのかわからなかった。