表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/47

9 経済危機

 さて、そんな鬼乃崎邸も、ただ賑わっているだけでは済まなくなってきた。

「もっと・・・。もっとクッキーちょうだい・・・。」

 消え入りそうな声で催促するナナシに、幸子がすまなさそうに謝った。

「ごめんなさい。小麦粉、切れちゃって——。先週10kgの袋、買っておいたんだけど・・・。」

「ええ? そんなに?」と九郎が驚くと

「だって、ナナシちゃん、よく食べるんだもの。」

「そりゃあ、あかん。」

と、ヤモさんが慌てた様子で言った。

「わしら、母上殿にご馳走になってばかりだったで。皆も、次からは何か食べるものを持ち寄ろまいか。人間界では食べ物を買うにもお金がいるでな——。」

「お供えでいいのかえ?」

「ああ、かまわんだろ。わしらが食べる分にはな——。母上殿への手土産には、ちゃんとしたもんを持ってこなかんぞ。」


 すると狐のお鈴さんが脇から

「わたしが作りましょうか? お金。」

と、こともなげに言ったので九郎は思わず聞き返してしまった。

「それ、使ったあと葉っぱになったりしないよね?」

「あら、どうしてわかったの?」

(なるんかい・・・!)


「私が宝石を1つ置いていきましょうか?」

と、今度は矢田さんが鞄の中から大粒のエメラルドを取り出して、テーブルの上に置いた。

「い・・・いや、そんなのもらっても換金の方法わからないし、それに出どころだって疑われるかも——。盗品じゃないかってさ。」

「いやだなぁ(笑)。 盗品に決まってるじゃないですか。」

 ・・・・・・・


 九郎は呆れた。物の怪はやっぱり物の怪だぁ。

「オレ、バイト探してるから。」

「まだ預金通帳にもお金ありますから。ナナシちゃん、明日また小麦粉買ってきておくね。」

「いや、母さん。通帳のお金食いつぶしてったら、そのあとどうすんだよ?」

「わたしだってパート探してるわよ♪」


 それまで黙って聞いていた後藤樹が、にわかに口を開いた。

「お化け屋敷やったら? 本物がいるんだし——。あ、いや、『お化けの出るペンション』の方がいいな! わざわざお化けの出るホテルとか探して旅する人たちって、けっこういるんだよ。流行はやると思うぜ。」

「いや、おまえはそうだろうけど・・・。」

 チッチッチ。と、樹は指を振った。

「オレたちは少数派ではあるけど、異端じゃないんだぜ。今や、心霊スポット巡りは巨大産業に成長しつつあるんだ。この界隈のビジネスについちゃ、オレは一家言あるよ。」


「それは、私も耳にしています。」

 矢田さんが真面目な顔で言った。

「わざわざお金を払って物の怪や幽霊に近づく人間たちがいるって——。状況によっちゃあ、けっこう危険なんですけどねぇ。ま、その点、この家は危険はないですけどねぇ。なにしろ集まってるのが私らみたいなものですから——。」

 そう言ってから矢田さんは、ハタと手を打った。

「いいんじゃないですか。ビジネスとして成立すると思いますよ。『本物が出ます』うん、需要あると思いますね。これは営業マンとしての勘です!」

「『出なかったら返金します』くらい付けると、インパクトあるかもね♪」

 樹もすっかり悪ノリしている。

「ナナシちゃんは透けることができるから、オレが撮った動画でPV作ろうぜ。で、同好の士のSNS通じてオレが拡散してやる。」

「面白そうだなも。わしも消えることができるで、なんなら出演するで?」

と、ヤモさんも乗り気だ。


「おい、樹。ここはオレの家だぞ?」

 九郎が呆れ顔で言うが、樹は怯まない。

「わかってるって。だから、おまえが儲けるんじゃないか。 でもって、たくさん儲かったらオレにも企画宣伝担当として分け前よこせよ?」


 樹はもうすっかりプロデューサー気取りになっている。

 もともと樹はデザイン科の中でも「デザイナーになりたい」というよりは、映画やアニメのプロデュースをやりたい方だった。

 どちらかというと「企画」が好きなタイプなのだ。

「いいんじゃない? パートに出るより面白そうだわ。わたしはお食事を作ればいいのかしら♪」

「それはすぐには無理ですよ。調理師免許取らないと、食事の提供はできないはずです。とりあえずは、宿泊とお茶くらいで——。少しずつ業務を拡大しましょう。」

「わかったわ。じゃあ、まずハーブティーで♪ 庭にハーブ植えようかしら。」

 母親の幸子まで乗り気になったのを見て、九郎はこのまま樹の企画に巻き込まれることを覚悟した。


 オレはどうも自己主張が弱いなぁ・・・、と九郎は思う。この幽霊屋敷を押し付けられたのだって、結局はそれだもんなぁ——。

 これまでの人生だって、自分の意志を通したのは美大に進んだことくらいだった。こういう主張の弱さで、デザイナーとかやれるんだろうか?



 ギギイィィ・・・という音がしてしばらくすると、玄関で声が聞こえた。

「今日はまた、良いお天気で——。」

「わたしもまた来ちゃった——♪」

 源蔵さんと美柑が一緒に玄関に着いたらしい。その声を聞いて、樹が張り切った顔を見せた。

「おお! メンツがそろってきたなぁ♪」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ