5 その子
「また来ていい? 今度は1人で。できたら、ちゃんとお話ししてみたいし——。」
美柑が真顔で九郎に言うと、皆がどよめいた。
「おお? 美柑、告白か? これは!」
「違うよ。鬼乃崎クンじゃなくて、ここに居る子。」
皆の冷やかしをにこりともせずに受け流して、美柑が言った。
「シャイな子みたいなんだ。大勢で来ると隠れちゃう。」
今度は別の意味で、また皆がどよめいた。
「子どもなの?」
と、美里亜がちょっと腰が引けたような声で聞いた。
「うん。ここで死んだみたい。」
美柑を除く7人の背筋が、ざわっ、と粟粒立つ音が聞こえた。
「そ・・・そか・・・。じゃっ・・・、次回は、オレは遠慮するわ・・・。」
ガタイの良い佐伯真人が哀れなほどにビビりながら後退ったのを見て、他の皆に笑いが少し起こったが、今度の笑いにはちょっと強がりの匂いがする。
「いいじゃん、憑けて帰れば? サグビー部の人員不足、補えるかもだよ。」
美里亜の茶化しに幸子が怪訝な顔で聞いた。
「サグビー部って?」
「あ、サッカー部とラグビー部が一緒になってるんです。対外的に試合する時に、人数足りないもんで——。」
真人が頭をかきながら答える。
「サッカー部が7人、ラグビー部が6人しかいないんです。『入ったその日からレギュラー』って鬼乃崎・・・くんも誘ったんだけどね——。」
「あら、九郎、入ればよかったのに。」
「オレが小さい頃から球技ニガテなのは知ってるだろ? 丸いボールでさえ捕れない打てないなのに、変形したボールなんか——。」
そこに美里亜がまたちょっかいを入れた。
「別にボール触んなくても、走ってるだけでいいんじゃないの? ベンチに人がいるだけでも格好つくんだろうし——。それにぃ、鬼乃崎クン入部したら、オマケでもう一人増えるかも、だよ。」
「や・・・やめろよ!」
真人がまたビビるのを見て、美里亜と何人かが笑おうとしたが、美柑が真顔でそれを制した。
「そうだよ。やめた方がいい。本物を前にして、そういうことは冗談でも言わない方がいいよ。こういう現象に耐性の弱い人は、特に——。」
何人かの喉まで上ってきていた笑いが、そこで凍りついた。
「それに」と美柑は続ける。
「その子はこの家から出られないみたいだけど、他にも出入りしているモノがあるようだから———。」
やっぱり、何言われても相続放棄すりゃよかった・・・。
九郎は、膝の力が抜けそうになりながら思った。救いを求めるような視線を美柑に向ける。
「ま・・・また来てくれる? 近いうちに——。い・・・いろいろ、相談したいんだけど・・・。」