46 迷子
成長・・・というのはどういうものなのだろう。
ヒロちゃんはこの先、背が伸びたりするのだろうか? 大人の女性になったりするのだろうか?
それとも、このままの姿で心だけが未来へ向かっていくのだろうか。
矢田さんの言う幽霊の成長って、どういうことなんだろう?
九郎はこのところ、取り留めもなくそんなことを考えている。
まさか満足して成仏して消えちゃったりしないよね?
美柑がちょっとだけ口にしたことに、九郎もやっぱり少しだけ不安を覚える時があった。
「あの子はまだ成仏したりはしませんよ。」
矢田さんが帽子を持ち上げながら言う。
「幸子さんや九郎さんたちと一緒にいることが楽しいみたいですからね。」
いつか、執着するものが何もなくなれば、あの子も成仏するかもしれませんがね——と矢田さんは言う。
たしかに、まあ、人間だっていつかは死んでいなくなるし・・・。そのことを不安がっても仕方はないよね。
今は、一緒にいられる時間を大切にしよう。そういうことだよね。
ヒロちゃんは、この頃すっかり鬼乃崎家の家族みたいになってきた。一緒にお茶したり、九郎や美柑たちともふざけ合ったり、喫茶のお手伝いをしたり——。
初めに会った時には、こんなに快活な子だとは思わなかったなぁ——。
幸子は、娘ができた、と言って喜んでいるし、九郎も妹ができたみたいで悪い気がしない。
オレ、あの家族 の末っ子だったもんなぁ——。
ああいう世界の「兄」や「姉」たちとは、どうにも肌が合わなかった。九郎にとっては、ヒロちゃんは初めて身内と思えるような「妹」だった。
季節も秋を迎えた頃、久しぶりのスタッフ全員集合会議にやってきた美柑が『ペンション幸』への道を歩いていると、少し先の曲がり角で樹がうろうろしている。
「あ、塩津。」
と樹が救われたような顔をした。
「ここで、よかった・・・よね?」
美柑が怪訝な顔をした。
「何してるの、後藤クン?」
「あ、なんか、ちょっと・・・迷っちゃって・・・」
「しっかりしてよ。まだボケる年じゃないでしょ?」
「人間20歳過ぎると老化が始まるって言うぜ。」
樹は皮肉を混ぜて言い返しながら、美柑の後に続いた。よく考えたらこいつ現役合格だから、まだ19じゃん。
ぎいぃぃぃ・・・
と美柑が坂の途中にある門を開けると、樹が妙な顔をしている。
「おっかしいなぁ・・・。さっき、この坂を下ったと思ったんだけどなぁ・・・。」
「?」
「ヤモさん。」
玄関を入るなり、美柑がヤモさんに尋ねた。
「なんか、変な結界張った?」
「わしゃあ、この家を悪いもんから護る結界しか張っとらんぎゃ。」
それを聞いた美柑が、にかっと笑ってふり向くと樹を指差した。
「悪いもん。」
「誰が!」
「後藤さんは、悪いもんではにゃーで?」
ヤモさんが不思議そうな顔をした。
「なんかあったの?」
九郎が聞いたので、美柑はさっき樹が道に迷っていたことを話した。
「迷うか? こんな単純な道で。しかも、しょっちゅう来てるのに——。」
九郎が笑いかけたが、美柑はちょっと真剣な顔をしている。
「ん——。それなんだけど・・・。ちょっと気になることがあって・・・。」
ぼ———ん。
と柱時計がひとつ鳴った。この家に元々あったものを、九郎が修理したものだ。
「遅いね、美里亜——。」
美柑が椅子から立ち上がった。
「ちょっと見てくるよ。あの子も後藤クンと同じになってるかもしれない。」
しばらくして美里亜が美柑と一緒に玄関に入ってきた。
「ごめん、ごめん。なんか、門を見落としちゃって・・・。」
え? それって・・・・?




