29 妖怪動画
YouTubeのアカウントのフォロワーが遅々として増えない。
「何がいけないんだろう?」
オンライン会議で、ノートパソコンのモニターの中の樹が困り果てた顔をした。九郎も美柑も答えは見つけられない。
「俺の編集、まずいかなあ・・・。」
「いや、それはないと思う。鬼乃崎クンの編集は秀逸だと思うよ。だって、ほんとリアルにホラーだもん。」
美柑がすかさずフォローを入れるが、だったらなぜフォロワーは増えないのか?
「だからじゃない?」
と美里亜が発言した。
「だから——、って?」
「だって、このコロナの不安の中でさ、そんな暗いもの見たい人少ないと思うよ。後藤クンは自分がそういう趣味だから、判断にバイアスかかってるんだと思うな。」
美里亜の歯に衣着せぬ物言いに九郎は少しハラハラしたが、オンラインでは突ついて止めるわけにもいかない。
しかし、樹は今回は反論せず、ただうなだれただけだった。彼がいつも言っている「プロは結果を出してナンボなんだ」という言葉が、そのままブーメランになって彼自身に返ってきていた。
「だからぁ」と美里亜がさらに調子に乗った。
「わたしが『歌ってみた』やってあげるよ! 後藤クンは『ペンション幸』と関係ないって言ってたけど、スタッフがやるんだから全く関係なくはないでしょ。コロナが終わったら、わたしのステージ見たくて来るお客さんだっているかもしれないじゃん。なんだったらメイド服でモップをマイクに見立てて・・・」
「あんた、目立ちたいだけでしょ? 美里亜——。」
美柑が冷ややかに美里亜の残念な一人暴走をさえぎった。
「なにさ。わたしだって鬼乃崎クンのこと心配してるんだからね? ダメもとで、やれることやってみたらいいんじゃないの? このまま学費払えなくなったら、鬼乃崎クン中退になっちゃうよ?」
そうだ。甘く考えてる場合じゃないんだ・・・。九郎は、こんなふうに言ってくれる仲間がいることを心底ありがたいと思った。
「うん・・・。やれることやってみよう。」
九郎がそう言うと、樹も力なくうなずいた。
「あの・・・」
と幸子が珍しく九郎の後ろから顔をのぞかせて、パソコンに向かって発言した。
「お鈴さんのお料理レシピなんてどうかしら? 盛り付けだってきれいだし。わたしだったらフォロワーになっちゃうなぁ——。」
「あっ・・・・。」
ほぼ全員が、同時に口を開けた。
明るく楽しい妖怪動画。———しかも、役に立つ。
「いける! それ!」
樹の目に輝きが戻ってきた。
「ヤモさん——?」
九郎がヤモさんを探そうと振り返った目の前にヒロくんがいた。鼻と鼻がくっつきそうになって、お互いにおっとのけぞる。
そのあとヒロくんは、そんな偶発的事件が面白かったのか、にこっと笑った。
「それ、いい・・・と思う・・・。」
九郎は驚いたなんてもんじゃない。
ヒロくんが自分から意見を言うなんて、天地がひっくり返るかというほどのことじゃないか!
これまでは聞かれたら答えることはあっても、自分から意見を話したりしたのを九郎は見たことがなかった。
九郎のそんな表情を見てか、ヒロくんはぱっと顔を赤くして後退ろうとした。そんなヒロくんの背中を受け止めるようにして、ヤモさんがボワッと現れた。
「呼んだかやぁ?」
ヒロくんは後退りを阻止されたが、同時に「助かった」と言う顔でヤモさんの大きな体の後ろにそそっと隠れた。それから、顔だけを出してこちらを見る。
その仕草がおかしくて、九郎は思わず、くすっ、と笑ってしまった。
「ヤモさん。お鈴さんに連絡とれる?」




