19 ハロウィン・パーティー
「新年カウントダウンイベント、やることになったら連絡ください!」
結局、葛西銘良と朋平卓がそれも「予約」して帰った。小松涼太は正月は家族で父親の実家に行くから、ということで残念そうに見送ることになった。
「やろうよ! カウントダウン!」
3人が帰ると、幸子が目を輝かせて九郎に言った。
「正月、休めなくなるよ? 4日にはもう予約入ってるし、後藤も塩津さんもいないんだぜ?」
「でも、稼げる時に稼がないと——。4月にはクーちゃんの学費も納めないといけないんだよ?」
そ・・・そうだった・・・・。(;´д`)
「オ・・・オレ、2日に帰るって・・・言ってみようかな。」
樹が頬をうずうずさせながら呟いた。
「わ・・・わたしも・・・、後藤クンが参加するなら、鬼乃崎クンちでカウントダウンイベントやるから——って。許可出ないかな——? ウソじゃないんだし・・・。ほ・・・他に、デザイン科からもう1人くらい女の子誘えれば・・・。」
美柑も、淡い希望を見るような目で呟く。
「とりあえず、ハロウィン・イベントを成功させようよ。先のことは、その後で。」
九郎が言うと、樹も現実に返った目になってうなずいた。
「そうだな。まだ始まったばかりだし、2ヶ月も先のことだもんな。」
10月30日、午後5時。
『ペンション幸』でのハロウィンパーティーは、妖しくにぎやかに始まった。名美のデザイン科からは樹と美柑の他にも5人が、それぞれ思い思いの仮装をして参加してきたし、宿泊を含む予約の10人に高校生2人が加わって、人間だけでも21人という大人数になり、そこに妖怪たちが加わる。
鬼乃崎邸の居間がいくら広いといっても、ソファを隅にやり、不必要な家具を片付けて食堂との間の建具を取り払っても、キッチンにまで人が(物の怪も)あふれた。
もちろん食事の提供はできないから、各自持ち寄りの食べ物と飲み物をダイニングテーブルに並べて立食パーティーになる。
皆それなりの仮装をしているので、ペンションの関係者(物の怪を含む)以外には人か物の怪かの区別はつかない。
参加しているのは皆、そっち系の話が大好きなオタクがメインなのだ。それぞれ、実は私は人間ではなくて———。というようなことを匂わせながら楽しんでいるので、なおさら人も妖怪も文目が付けづらい。
お鈴さんなどは初めから尻尾を出して参加しているけれど、彼女を知らないお客さんたちは皆、仮装だと思っているようだった。
そこに紛れ込むようにして、ヤモさんやナナシちゃんのような見るからに異形、という者たちがふわっと現れ、ふわっと消える。
・・・・はずだった。
樹の演出では・・・・。
しかし・・・。そこは、物の怪。
場を盛り上げるようにホラー映画のサントラ盤が BGMで流され、怪談話に花が咲いているうちはよかった。
だが、次第にパーティーが盛り上がってくると、もはやヤモさんもナナシちゃんも消えることをやめて妖怪ダンスの輪の中に公然と加わってしまった。
「それ、着ぐるみですかぁ? すっごくよく出来てますねぇ!」
「クッキー♪ クッキー♪ 美味しいよぉ♪」
「おっほっほっほ! 御神酒もあるでよ!」
人見知りのヒロくんまでがジュースのグラスを持って楽しそうに笑っている。ジュース? いや、まて・・・ほんのり頬が紅いぞ? 心なしか、目の焦点も合ってないような・・・。あのグラスの中身、お酒じゃないのか?
「わあ! この子カワイイ———! キミは仮装しないのぉ——?」
「え? やだ! 消えた? ええ———! 本物の幽霊ぇ——?」
「あれ! あれ! マックロクロスケみたいなの、走り回ってる!」
「マックロクロスケは目が2つだよ? あれは、ただの毛が生えた目玉だぜ?」
「どういう仕掛けになってんだろう?」
「本物・・・?」
樹は居間のすみに押しやられたソファにへたり込んで、ボーゼンとその様子を眺めている。
もはや演出もへったくれもない。樹の書いた台本は、風にあおられた灰のように完全に雲散霧消してしまった。そこにはただ、カオスがあるだけである。
気のせいか空間も広がっているような感じがする。
(あんなところに出入り口あったっけ?)
見たことのない部屋が、居間につながっている。
「どうしたんだ、後藤? 浮かない顔して——。みんな楽しくやってるよ?」
九郎が御神酒の入った湯呑みを2つ持って、樹の隣にボスンと尻を下ろした。
「うん、楽ひい——。ごとうしゃん、ありがろぉ——。」
ヒロくんが樹のもう一方の側にふわっと現れて座り、そのまま樹の肩に頭をあずけてもたれかかった。
九郎が優しげな眼差しで、それを眺める。
「ヒロくんが、オレ以外にこんなに懐いたとこ見るの初めてだなぁ。酔っ払ってるせいかな?」
樹は(子どもに酒飲ませていいのかな?)と一瞬思ったが、よく考えれば幽霊だし、生年月日(詳しくは知らないが)からすれば、オレたちよりはるかに年上だよな——と妙な納得をした。
「なあ、鬼乃崎。あんな部屋あったか?」
「私と源蔵さんで作ったんですよ。」
答えたのは九郎ではなく、矢田さんだった。いつ傍に来たのか、九郎たちの目の前に立っている。
相変わらずクールで、黒いスーツに黒い山高帽姿で、帽子を片手でちょいと上げてみせる。
「物の怪路のからくりを使って、薄明空間にこの居間をつなげたんですよ。だってほら、人と物の怪が多すぎて騒ぐには狭いでしょ?」
「こんなに騒いで、近所から苦情こないかなぁ・・・。」
九郎がちょっと不安そうに窓の方に目をやると、矢田さんがまた帽子をちょいと持ち上げた。
「大丈夫です。ヤモさんがちゃんと結界張りましたから。酔っぱらっててもやることはやってます。外に音は漏れませんよ。」
「つまり、外からはパーティーやってるようには見えないってこと?」
「光や人影は見えますが、音はまったく聞こえません。」
それって・・・・
かえって不気味だよね。
「思いっきり、お化け屋敷だなぁ——。」




