18 好調な滑り出し
出だしはいい感じに成功した。と言っていいだろう。
翌朝のチェックアウト時には、オタクの男女2人組も高校生3人組も、至極満足そうな顔をしていた。
「いい絵が撮れた。これほどの成果は今までにも珍しい。年明けにもう一度訪れたいのですが、2月ごろの予約には空きがありますか?」
敷島英司が玄関で幸子に聞いた。
「ええ、まだまだ、その辺でしたら。ここはまだ始まったばかりで知名度も低いものですから——。ぜひ、おいでください。」
「わたしは、23、24の連休なら間違いなく仕事休める。」
金森香純がスマホのカレンダーを見ながら英司に言うと、
「うん、そこなら僕も休みは確実に取れると思う。」
と返した。
「それじゃあ、22日から2泊で予約お願いします。金森、このあと日泰寺に寄っていこうよ。」
2人が出ていくと、幸子が小さくガッツポーズをした。いい出だしだ。このペースで予約が埋まっていけば、素泊まりだけでも後藤くんや塩津さんにも少しはいいアルバイト料が払えそうだ。
ここに喫茶を加えれば、当面の生活費くらいはなんとかなるかもしれない。宿泊用の部屋数も増やした方がいいかしら——。
「クーちゃん、あんた納戸の方に移らない?」
「は?」
高校生3人組は、9時半頃の遅い時間に居間に現れた。
「よく眠れました?」
九郎がお茶を準備しながら聞く。
「眠れるわけないっす。これだけ怪奇現象が起きちゃ・・・。」
朋平卓が眠そうな目をしばたたかせながら、それでも嬉しそうな表情で答えた。
「動画、いっぱい撮れましたよー。見ます?」
葛西銘良がスマホをかざして見せる。九郎はそれを一緒に見てやった。
もちろん、九郎には見慣れた妖たちばかりである。入念にこの日のために繰り返したリハーサルどおりではあったが、スマホの動画に撮られるとまた一段と怪奇な雰囲気を増していた。
撮影者が変わると、こんなにイメージが変わるんだな・・・。
そんなことを思いながら、頭の隅で(オレならこれをどういう映像作品に編集するか)と考えている自分に内心で苦笑した。
「驚かないですね。ここに住んでると、普段からこういうのってフツーなんですか?」
小松涼太が、不思議なものを見るような目で九郎を見て聞いた。
「ん? まあ、家守りのヤモさんや幽霊のヒロくんとは一緒に住んでるわけだし、他の妖怪もヤモさんの友人だしね——。」
「あの・・・、鬼乃崎さんは・・・人間・・・ですよね?」
銘良が聞くのを後ろから「おい、失礼だぞ!」と卓が小声で注意したのを見て、九郎は笑い出した。
「人間だよ。一応、名美に通う大学生だよ。スタッフを手伝ってくれてる後藤さんも塩津さんも同じ名美のデザイン科さ。よかったら来年の学祭、遊びにおいでよ。」
高校生たちが出立する頃になって、ようやく美柑や樹が起きてきた。樹は明け方近くまで「指揮」をとっていたらしく、寝不足気味の顔をしている。美柑は単に夜型で、朝が苦手なだけだ。
「冬休みは予約まだ空いてます?」
「クリスマスは塞がってますけど、年末に近いところやお正月明けはまだ空いてますよ。」
銘良の問いに幸子が答えた。
「カウントダウン・イベントとか、やりますか?」
卓が言うと、幸子は目を丸く見開いた。
「それは考えてなかったわぁ。それ、やるのアリね。どう、クーちゃん?」
「うん。それ、楽しいかもしれないね。後藤、どう思う?」
「いいと思う。思う・・・けど・・・」
「けど?」
樹が残念そうな顔をした。
「オレは正月は実家に帰らないと・・・。」
「わたしは家が犬山だから、近いけど・・・。さすがに大晦日外泊はなあー。お父さんが許さないだろうなー。今日だって、美里亜ンとこで課題やるってウソついて出てきたんだし——。」
美柑も残念そうな顔をする。
大晦日。日泰寺の除夜の鐘をBGMに、幽霊のヒロくんとヤモさんたち物の怪仲間と一緒になって、賑やかに怪しげに盛り上がって新年カウントダウン。
ぜ———ったい、楽しそう!
「ハロウィンより、絶対盛り上がるよね——! 日本の物の怪だもん。」
言いながら美柑は、空中に視線をさまよわせる。親になんとか言い訳できないか考えているらしい。
「あの・・・」と卓が靴を履こうとしていた足を床の上に戻して口を開いた。
「ハロウィン・パーティーには妖怪や幽霊も参加するんですか?」
「昨夜よりはハッキリと姿を見せるんじゃないですかね。彼らは賑やかなの、好きですから。」
樹が答えた。樹の演出では、人間に化けられる者は全員姿を見せて参加することになっている。ヤモさんやナナシちゃんみたいにどこから見ても人間に見えない物の怪は、現れたり消えたりしながら怪異感を盛り上げることになっている。
「まだ、参加枠ありますか?」
卓が腹を空かせた猫みたいな目で九郎に聞いてきた。
「まあ・・・、宿泊は埋まってますが、パーティーの参加だけなら3人くらいはなんとかなると思いますけど——。平日ですよ?」
九郎が念を押すと、銘良が即座に答えた。
「夕方からですよね? 僕は大丈夫です!」
「僕も来れる。」と卓が続くと、涼太が無念そうな顔をした。
「僕はムリだ・・・。その日は塾がある。」
「サボれば? 1日くらい休んだって大丈夫だろ。」
「ダメなんだよ。出欠表が模試の成績と一緒に親に送られるから——。」
結局、銘良と卓の2人が追加でパーティーの参加を予約することになった。




