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幽霊屋敷へようこそ  作者: Aju


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17 お客様サービス

「それじゃあ、スタッフは夕食にしましょ。出番じゃない妖怪スタッフさんたちは、クーちゃんの部屋で隠れて食べてね。クーちゃんも一緒にそっちで食べたら?」

「九郎って言ってよ、母さん。もうガキじゃないんだからさぁ。」

「なあに? カワイくていいじゃん。わたしもそう呼んでもいい?」

 美柑がからかい半分で言う。

「鬼乃崎の部屋にはオレが行きますよ。みんなとこの先の打ち合わせも少ししておきたいし。」

 プロデューサーと演出家と監督を兼任する樹がそう言って自分の分を持って歩き出すと、今夜のキャストたちがぞろぞろとその後についていった。ナナシなどは、袋いっぱいのクッキーを持たせてもらって嬉しそうに笑っている。


 笑って・・・いるんだよな? あの顔は・・・・。

「なんか、単独の出現より今の行列の方が妖怪屋敷っぽい凄みがあるなあ——。」

 九郎が暖炉の前で、あんかけオムライスのスプーンをくわえながら呆れ顔でつぶやいた。


 妖怪たちがいなくなるのと入れ替わるようにして、高校生3人組が廊下から居間に入ってきた。

「あ、暖炉燃えてる。」

「すげ! カッコいい。」

 3人とも、すぐにスマホを構えて動画を撮影し始める。

「近くに来て、薪くべてみる?」

 九郎が3人を誘う。

「お客様ですよ、九郎さん?」

 幸子がキッチンから注意した。いつの間にか、お鈴さんの姿は消えている。

(あ、いっけねー。年下だと思って、ついタメ口になってしまった・・・)


 しかし、高校生たちは気にしていない。というより、学校で行った「山の生活」でのキャンプファイヤーと豚汁作り以外、直火なんて経験したことがないのだ。

 まして暖炉で薪をくべるなどという経験は生まれて初めてのことになる。飛ぶようにして暖炉の前に来て、九郎の手ほどきで恐る恐る薪を入れては、それを互いに動画に撮り始めた。



 もっとも、兄貴風を吹かした九郎だって、ここに来るまでそんな経験はない、という点は変わりない。ついこの間、ヤモさんに火の世話のしかたを教えてもらったばかりである。

「火は生き物だで。薪というエサを上手にやらんと、暴れ出したり弱って消えてまったりするでな——。」

 火勢のコントロールは難しい。機関車みたいに焚くと薪の消費が早いだけでなく、暖炉自体が傷む。といって、薪を継ぐタイミングが遅すぎると消えてしまうし、いっぺんに入れ過ぎても消えてしまう。

 機能の整った商品である薪ストーブとは違い、大正時代の建築化されたそれは人の手業てわざを必要とした。

「男と女の関係とおんなじだぎゃ。こう、薪と薪を近づけると燃えてな。離すと冷めるんだぎゃ。くっつき過ぎても燃えんくなるでな——。」

 そんなヤモさんの例え話は、いい年をしても油ぎっていた父親の言を思い起こさせて、九郎はちょっと辟易した。

 九郎がそっち方面に淡白なのは、そういう父親を嫌がっているせいもあるのかもしれなかった。



「鬼乃崎さん、上手いっすねぇ。やっぱ、使い慣れてるんですね。」

 1人が感心したように言うので、九郎は少しお尻の座りが悪くなった。

「いや・・・、実はオレも最近教えてもらったばっかりなんだ。」

「誰に?」

 高校生が聞くと、九郎は意味ありげな目をした。

「この家の家守りさん。サンショウウオみたいな顔したおじさん——。誰か、もう見てるんじゃない?」

「え・・・・?」

 それから九郎が、ひょいと廊下に通じるドアの方に顔を向けると、高校生たちもつられてそちらに目を向けた。


 さっき閉めて入ってきたはずのドアが、少しだけ開いている。そしてその隙間、ちょうどドアノブの高さあたりに・・・

「・・・目・・・?」

「え・・・?」

 高校生のうちの1人、卓が大急ぎでスマホを構える。 と、それは、すっと廊下の奥へ引くように消えた。


「ああ、ヒロくんだよ。ここにいる唯一の幽霊。まあ、地縛霊だね——。シャイな子なんだ。あとは幽霊じゃなくて妖怪ばっかり——。」

 九郎がこともなげに言う。

「こ・・・これも、演出ですか?」

「まあ、演出と言えば演出です。お客さまサービスですよ。だって、皆さんそれが目的でここ予約されたんでしょ? もちろん、全部本物ですよ。上手く動画撮れるといいですね。」

 銘良が思わずポケットの中の護符おふだを握りしめた。

「大丈夫ですよぉ。」と、キッチンから美柑が声をかける。

「ここにいるのは害のあるモノたちじゃないから。」


 そこに、撮影や録音の機材を部屋に仕掛け終わった敷島英司と金森香純の2人が入ってきた。

「お、暖炉炊いてる!」

「ステキぃ! 雰囲気あるぅ——。」

「僕たちも混ぜてもらっていい?」

「どうぞどうぞ。」

 九郎が自分のスツールを空けて、もう1つスツールを引き寄せて並べてからキッチンの方へと下がっていった。


「お2人ですか?」

と高校生の銘良が聞く。

「2人だよ。」

「あの・・・来る時、廊下で・・・、誰か見かけませんでした?」

「何か見たの?」

 香純が目を輝かせる。それを見て銘良は少し言い淀んでから、恐る恐るという感じで言葉を継いだ。

「子どもの幽霊・・・とか、黒い服に黒い帽子の男の人・・・とか・・・。」

「さあ? ここに来るまでの廊下では誰にも会わなかったな。僕が見たのは、玄関で出迎えていた和服姿の美人。ここのスタッフの説明では『尾裂き狐』だそうだ。ちょっと目を離した隙に消えちまったけどね。」

「わたしは黒い毛の生えた目玉を見たよ。家具の隙間にサッと隠れちゃったけど、探しても見つからなかった。ゴキブリみたい。」

 そう言って香純が笑った。

「つまり、同じものは誰も見てないんだ——。」


 5人の会話を、このペンションのスタッフという3人がにこにこしながら見守っている。

「あのスタッフは・・・、人間・・・だよな?」

 暖炉の薪が、パチン、とはぜた。ラップ音に似ている。



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