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幽霊屋敷へようこそ  作者: Aju


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16/47

16 演出

 エプロンを着けたスタッフに案内されて薄暗い廊下を通り、今夜泊まる部屋に案内されるまでの間に、高校生3人組はそれぞれ奇妙なものを目にした。


 3人は同じ愛知県内の高校に通う、廃墟×心霊現象オタク仲間である。SNSの同好仲間からの情報で、膝元の愛知県内にホンモノがあるらしい——という情報を得て検索した結果、3人の意見は瞬時に一致、その日のうちに電話を入れたのだった。


 SNSの情報に最初に接した朋平ともひら (すぐる)が、ここに到着早々最初に怪異なものを目撃した。この手の情報のキャッチが早い、という特別なアンテナでも持っているのだろうか。

 友人の1人、葛西かさい銘良(めいら)が宿帳に記入しているとき、なにげに目をやった薄暗い廊下の奥に異様なものを見たのだ。

 巨大な頭にひ弱そうな手足——。そう、まるで大きな胎児が自分で立っているような異様な化け物だ。しかも、半分透けている。

 卓は思わず、角膜のかすみを取るように目を瞬いた。その一瞬で、その奇妙な化け物は、ふうぅ、と消えた。


 2人目の目撃者は葛西 銘良である。部屋まで案内される途中3人の先頭に立って歩いているときに、案内する女将さんの肩越しに廊下の先を、ふっ、と横切って消える人影を見たのだ。

 黒いスーツに、時代がかった黒い山高帽。ただそれだけではあったが、奇妙に人間らしくなかった(・・・・・・・・・)


 3人目の小松こまつ涼太(りょうた)は、部屋のドアを開けて女将さんがスイッチの位置を葛西に教えているときに、ドアの陰になる部屋の隅の薄暗がりの中に妙なものが居るのに気がついたのだった。

 そいつは大きな顔に丸っこい体をしていて、紋付の羽織のようなものだけを着ていた。

 顔はまるでサンショウウオのようで、目と目の間が異様に広く、大きな一文字の口は少し笑っているように両端が上がって緩やかな曲線を描いている。

 スイッチがバチンと鳴って、部屋の明かりが点くと薄暗がりは消え、それもいなくなった。

 そのあたりの天井の隅に、蜘蛛の巣が付いている。


「今・・・・」

 荷物を下ろすより先に、涼太が口を開いた。

「そこに・・・、何か、いた・・・。」

「怖いか、小松? 帰る?」

 銘良がややからかうように言うと、涼太は少しムッとした顔で言い返した。

「オレたち、それを求めて来てるんじゃないか。」


「僕も見たよ。葛西が宿帳書いてる時に、廊下の奥にでっかい頭の妖怪が立ってたのを——。」

 卓が、自分は冷静だ、と言わんばかりの落ち着きはらった調子で言った。

「それって、紋付の羽織みたいなの着てた?」

「いや、白っぽい浴衣みたいなのだったな。頭がやたらデカくて、半分透けてた。」

「つまり・・・」

と銘良が引き取る。

「3人とも、それぞれ違うものを見たわけだ。」

「葛西も見たのか?」

「廊下案内されてるときにね。おばさんの肩越しに、ヘンな人影が廊下の先を横切るのが見えた。真っ黒な服着てさ。なんて言うの? ほら、昔の映画に出てくるみたいな帽子かぶってさ。それも真っ黒なんだ。」

「それ、宿泊客かもしれないだろ? オレたちが見たのとは、次元が違くない?」

「なんて言うか、人間っぽくなかった。——まあ、いずれわかるさ。そういう宿泊客がいるかどうか。」

 銘良の言葉を受けて卓がやや冷ややかに言った。

「僕や小松が見たものだって、ディズニーランドでは普通に見られる現象だからね。まだ本物かどうかわからないよ。ただのお化け屋敷って可能性も・・・。」


 その時、ドアをノックする音が聞こえた。入ってきたのは若い男性スタッフで、カップ4つとティーポットを乗せたお盆を持っている。

「いらっしゃいませ。ここの住人の鬼乃崎です。スタッフも兼ねてます。こちらのカップに入っているのは、庭で採れたレモンミントです。」

 若緑色のかわいい葉っぱが1枚ずつティーカップに入れてある。

「ポットの紅茶はアールグレイです。お好きな量を入れてお召し上がりください。」


「僕ら、3人で全部ですよ?」

「ああ、4つ目はお供え用です。少しだけ分けてくださいね。」

 そう言って、鬼乃崎と名乗ったスタッフは、1つのカップに少量の紅茶を注いだ。

「居間で暖炉焚いてますから、よかったらおいでください。お食事は出せませんが、お持ち込みのものはそこで召し上がっていただいて結構ですから。」

 言いながらそのスタッフは、4つ目のティーカップを部屋の隅の時代がかった家具の上に置いて、そのあと出ていった。


「お供え・・・ね。」

と涼太が言うと、すぐに卓が受けた。

「演出だな。」

「冷めないうちに飲もうぜ。」

 3人は椅子に座って、テーブルの上の紅茶をカップに注いだ。


「いや、ほんと美味しいんですよね。ここのお茶。」

 突然聞こえた声に驚いて3人が声のした方を見ると、どこからいつ入ってきたのか着物姿の男性が「お供え」のカップを持ち上げている。

「あんた、誰? それは、おそな・・・」

 銘良が途中まで言ったところで、3人とも凍りついた。


 着物の男はカップの紅茶を、くい、と飲んだのだが・・・、カップを持っているはずの手首から先が、ない。

「いやあ、やっぱり美味しいですねぇ。ご馳走様でした。」

 カップを家具の上に、ことん、と置くと、口にミントの葉をくわえて、落語の中の人物みたいに両手を袂につっこんだ格好で、ひょい、と歩き出し、そのまま壁の中に吸い込まれるようにして消えた。


「い・・・い・・・今の・・・!」

「だ・・・誰か、動画撮った?」

「いや・・・・急だったし・・・・」

 コンコン、とノックの音がした。

「はひ!? 」

「入ってもよろしいですか? スタッフで、神主見習いの塩津と言います。」




 美柑が高校生3人に護符おふだを渡して戻ってくると、九郎は暖炉の火の面倒を見ていて、幸子さんと樹はスタッフの夕食の支度をしていた。

 なんと、お鈴さんも堂々と尻尾を出して手伝っている。

「大丈夫なの? そんなに堂々と現れちゃってて——。」

「だって、お鈴さんの料理、覚えたいんですもの♪」

「大丈夫だよ、見られたって。むしろ、お客さんは喜んでくれると思うよ。リピートの動機づけもできるしね。食事の提供態勢が整ったら、またぜひおいでください——ってね。」

 樹が、これもアドリブのうち、といった顔つきでふり返りながら美柑に言った。


「それよりさ。護符おふだなんか渡して大丈夫なの?」

 九郎が薪を暖炉に入れながら、美柑に聞く。

「あれ? 鬼乃崎クン、聞いてなかったんだ。大丈夫。わたしがテキトーに模様描いただけのただの紙切れだから——。」

「・・・・・・・(°▽°); 」

「演出だよ、演出。」

 キッチンから樹が面白そうに言う。

「そうだよ。本物なんか使うわけないでしょ。ナナシちゃんたちに、もしものことがあったらどうすんのよ?」



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