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幽霊屋敷へようこそ  作者: Aju


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14 初めてのお客さま

 いよいよ土曜日。午後4時には、初めてのお客さまがチェックインする。

 さすがに朝から幸子もソワソワしていた。

「お部屋にお花も飾らなきゃね。あそこ、蜘蛛の巣付いてるけど、本当にお掃除しなくていいの?」

「いいんです! これくらいは有った方が——。」

「後藤くんがそう言うなら・・・。」

 幸子には、お客さまをお迎えするのに、蜘蛛の巣の付いた部屋でいいのかしら——という心配があるのだが・・・。こと、初日のお客さまについては、最も近い感覚の持ち主の樹がそう言うのだから、ここは信じるしかない。

「タオルやバスタオルは人数分揃えたわよね? あと、見落としは・・・・」


「女将さん、少し落ち着きゃあ。わしらも張り切って手伝うで——。」

「あ、はい・・・。ありがとうございます。」

「ヤモさん・・・」

 九郎が少し苦笑いしながら、母親の気持ちを代弁した。

「お化け提供のサービスはヤモさんたちで充実できると思うけど、ほら、一応ペンションとしてお金もらうんだから、宿泊施設としてのサービスも提供しなきゃいけないから——。(^_^;)」


 ギ、ギイイィィィ・・・と音がして、玄関で明るい声が聞こえた。

「おはようございまぁす。よいしょっと。」

 大きな紙袋とカバンを玄関の上り框の上に置いて、美柑が、ふう、と息をついた。

「覚王山は坂キツいわぁ。人数分のエプロン、持ってきたよ。『幸』のロゴも入れてきたから。」

 土日は大学は休みだから、樹も美柑も「スタッフ」として手伝うことにしたのだ。


 大学では、飯島美里亜をはじめ数人が手伝いを申し出た(学祭の模擬店のようなノリもあっただろうし、「配当」の話に惹かれた部分もあっただろう)が、樹がやんわりと断った。

「最初の軌道に乗るまでは、リハを繰り返したメンバーだけでいきたいんだ。失敗するわけにはいかないから。」




 夕方4時前、最初に門の前に立ったのは20代と思しき男女のペアだった。

「目立たない看板だね。」

「いいね、こういうの。趣味がいいよ。経営者は僕らと同類かな?」

 門は閉まっている。その先にイーゼルが1つ立ててあって、そこに小さな黒板が乗せてある。黒板にはカラーのチョークで文字と植物の絵が書いてあった。絵がおしゃれで、そこだけが「ちゃんと営業している感」が出ている。


『いらっしゃいませ。ご予約のお客様は、門を開けてお入りください』


 男性の方が門に手をかけて押すと、ギ、ギイイィィ・・・と音がした。

「いかにも、だな——。演出かな?」

「本当に錆びてるみたいだよ。わたしたちの趣味にはぴったりだけど。」

 女性が嬉しそうな笑顔を見せた。

「堂々と幽霊を売りにした宿が、日本にできたとはね。」

「ホンモノだと思う?」

「少なくとも、建物は本当に廃墟っぽいよ。ネットにあった動画も本物っぽかったしね。期待できるんじゃない?」

「古い建物を買い取って演出しただけの心霊ビジネス——っていう可能性もあるけどね。」

「僕らの目を誤魔化すのは簡単じゃないよ。ただのお化け屋敷だったら、ネットで暴露してやるさ。オタクを舐めちゃいけない。」



「いらっしゃいませ。ご予約のお客さまですね?」

 幸子が玄関で立ったままのお辞儀をして出迎えた。なぜか、その隣でお鈴さんが和服姿で三つ指をついている。

「予約した敷島です。」

 女性が、ちらっとお鈴さんの方に目をやった。

(あの人が女将さんかな? 女将さんが座って出迎えているのに、スタッフが立ったままって・・・、怒られないのかな?)


「こちらの宿帳にご記入ください。」

 幸子が、玄関に置かれた小さなテーブルの上の宿帳を指し示しながら言うと、男性も女性も、同時にそちらに顔を向けた。宿帳の表紙は和紙で出来ていて、和綴じになっている。

(へえ。おしゃれだな。)

 女性がそんなふうに思ってからまたあの女将さんが座っていたところに視線を戻すと、そこに女将さんの姿はなかった。

 目を離したのは、ほんの一瞬のことだ。足音も、ドアを閉めたような音も聞こえなかった。薄暗い廊下は、奥まで人影はない。

 宿帳を勧めたスタッフ(幸子のことだ)は、まるで初めから自分以外の人なんかいなかったような顔つきで、敷島と名乗った男性が記入するのを眺めている。

(え? 今の・・・。 いきなり・・・?)


 宿帳に書かれた名前は、「敷島英司」と「金森香純」という名前で、それぞれ千葉県と埼玉県の住所だった。

 九郎が部屋に案内している間に、ハーブティーの準備にキッチンに戻った幸子は、戸惑った表情をしている樹に(ほらね♡)という顔をして見せた。

「デートに・・・使う・・・かな?」

 樹は自分のオタク度に対する自信が、少し揺らいだような顔をしている。

「お茶、オレが持ってっていいですか?」

 自分の目で確かめようと思ったのだ。


 そうこうしているうちに、今日2度目のギイイィィ・・・が聞こえた。

「あ、出迎えなきゃ。後藤くん、お茶の方お願いね。」


 幸子が玄関に出迎えてみると、やってきたのは高校生くらいの男子3人組だった。一番最初に電話をくれた人たちだ。

「いらっしゃいませ。」

 今度はお鈴さんは出ない。

 代わりに、1人が宿帳に記入している間に薄暗い廊下の奥にぼうっと現れたのはナナシちゃんである。これはもう、どこから見ても「人間」ではない。

 高校生の1人の顔色が変わるのを、幸子はニコニコしながら見ていた。


 全てはリハーサルどおり。

 いらっしゃいませ、初めてのお客さま——♪



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