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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
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65 下天の夢

お陰様で完結まで毎日更新できました。多数の誤字、勘違い箇所のご連絡ありがとうございました。また、多くの感想もお寄せいただきまして大変励みになりました。謹んでお礼申し上げます。

完結して改めて振り返ってみると、明智光秀は案外良いポジションだったんだなと。まず本人の能力が良く極端に不運でもない。領地の丹波も絶妙な位置です。本能寺の変のタイミングも秀吉のイレギュラーさえ乗り越えれば結構良いタイミングだった。家臣も良いですしね。次作ではもっと不遇なキャラを予定(あとがき参照)しています。次作も本作同様にご贔屓のほどよろしくおねがいします。

家康切腹から2ヶ月が過ぎた。

気が抜けた訳でもなかろうが、木曽川の戦い以降体調を崩して坂本城に引きこもりがちだ。国政は光慶を旗印に蒲生賦秀、真田信幸・信繁の兄弟、小西行長、宇喜多秀家、長宗我部信親など次世代の若手を中心に素案を造り、各国当主が集まる当主会議に(はか)る形ができつつある。

九州では島津勢を主体に長宗我部、毛利勢を加えた連合軍に明智海軍も参加して大友などキリシタン大名討伐戦が始まっている。戦力差もあって(ほど)なく平定されるだろう。


かめ寿じゅ。そなたも懐妊したのだな。」


「有難うございます、御前様、起き出されて大丈夫ですか?」


「うむ。今日はなぜかスッキリとしているのでな。すまぬな。なかなか満足に構ってやれず。」


「何を仰せですか。山崎より此の方、立て続けの大戦を戦い抜かれた後です。ゆっくりお休みください。」


「全くだ。この数年息をつく間もなかったな。ん?おお、左ではないか。」


珍しく普通に庭の垣根を越えて”左”がなにやら壺を抱えて入ってくる。


「少しよろしゅうございますか?」


「どうした、改まって。はて、その壺は…出来たのだな。」


「はい。山葡萄の酒、見事できました。」


「早速戴こうではないか。かめ寿じゅそなたも、一口程度なら良かろう。」


「ありがとうございます。」


3人での即席酒盛りが始まる。


「うまいっ。なかなかの出来ではないか。山葡萄のしっかりした風味がじつに良い。」


「確かに。これは売れまするな。」


「ああ。そうだ、忘れぬうちに言っておこう。葡萄が豊作で酒を作りすぎたときは無理に安売りせずに焼酎にすると良いぞ。」


「葡萄で焼酎でござるか?」


「ああ。これが不思議と美味くてな。葡萄の甘みが凝縮されて、あま~い香りの良い酒になるのだ。」


「まあ、御前さま。まるでいつも飲んでいるようなお話ですこと。」


「ははっ。そうだったな。」


「左大弁様は…いや………」


「ふふ。左はすべてお見通しよな。左よ…皆がだれでも甘い香りの良い酒を飲める世になるかのう…そうだ、丁度よい”左”そなたに預けておこう。そなたの判断で頃合いを見計らい光慶に渡してやってくれ。一度にわたしても消化しきれぬのでな。」


ここ2カ月で書き上げた、思い出せる限りの未来知識を書き込んだ絵図面の束と説明書きだ。


バルバス・バウのような思いつきさえすればすぐに利用できるものも有ればレーダーのような完成するまで数段階のブレークスルーが必要なものまで様々だ。とくに農業革命につながる知識、連作の回避や品種改良の仕方、そのための遺伝の仕組みなどは丁寧に書いてある。土木作業を劇的に改善するブルドーザーなど建設機器は蒸気機関が出来れば実用化も見えてくるので細かく書いた。逆に戦車などは書いていない。陸戦兵器はわざと少なくした。有ると大陸進出したがる人間が出てきそうだからな。逆に到底無理とも思える海軍装備、魚雷やスキップボムの活用、水中弾などは過剰なほどしっかり説明してある。飛行機は外しておいたが気球は簡単に作れるので詳しく書いてある。索敵重視の思想が根付けば大きな失敗はなくなるだろう。


「それから、用間(ようかん)、間諜の用い方や諜報活動だな、それが如何に大切であるかを強く書いて既に(ひろ)に渡してある。光慶が帰陣しだい直接渡す手筈だ。読めば”左”に様々(さまざま)尋ねて来るだろうから教えてやってほしい。日ノ本の指導者はどういう訳か古来用間(ようかん)の使い方が稚拙だし、軽視する傾向がある。これを放置していては危ういのでな。」


(それがし)などに左様な大役を…」


「隠さずとも良い。主の目には儂の策もほとんどが見えていたであろう。主には王佐の才が有る。光慶の代では陰働きではなく、重臣となれ。用間(ようかん)を専門にあつかう組織を造り、その(おさ)となるのだ。それが必要な時代になる。」


「…(にわ)かには信じられませぬが、左大弁様のお言葉なれば、否やはありませぬ。」


「うむ。頼んだぞ”左”。」


「はい。必ずや。………左大弁、さま?」


「思えばこの二年と少し、夢の中を走り抜けるようであった…少し眠らせてくれ。」


「あらあら、左大弁様。まだお昼前ですよ。」


「………かめ寿じゅ様。左大弁様は我らに全てを託され…帰られました………。」


明智左大弁光秀、享年57歳[かぞえ]。

その死に際は側室の膝枕で穏やかな寝顔であったと云う。





(次作の予告です。)

明智光秀が意外にもそこそこ恵まれていたキャラだったので、次作は光秀よりずっと不遇の石田三成を予定しています。石田三成の場合は前半生は順風満帆なのでそこから始めては面白くない。関ケ原で敗死する直前、開戦当日の朝から始めようと思います。というのも、関ケ原の戦いの仕込み段階から始めるといろいろ楽勝しちゃうので。三成は武運最悪という星の下に生まれているので、そこも重視して他の武将では出せない風味に仕上がったら良いな…と。

次作もよろしくおねがいします。


次作:三成、かがり火を消させず

https://ncode.syosetu.com/n2959hy/

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― 新着の感想 ―
[一言] いやー、あまりに面白くて一気に読めました。 ストーリーとテンポの両輪が小気味よく回転している感じです。 他のなろう歴史作品と比べて、一話辺りの文字数がやや短めであったことで一気に読まされてし…
[一言] 一気読みするほどにハマリました 次回作も楽しみにしてます いずれは独眼竜政宗が天下をとるのも書いてほしいですね 意外とすくないので>プロの作家の架空戦記込でも
[良い点] 面白くて1日かけて読破しちゃったわ 前作、次作も続けて読ませてもらいますね [一言] 本当は光秀死後の世の流れやwiki的なものも読んでみたいけど この後味の良さを失うのも勿体ないんだよな…
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