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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
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62-3 夜明け

真田信繁。なぜ信繁が真田一族で一番有名なのか謎です。実績でいえば、昌幸>幸綱(幸隆)>信之>信繁とおもう。とくに昌幸については過剰に貶める面があります。徳川に寡勢にもかかわらず幾度も煮え湯を飲ませたので江戸時代の軍記物で悪く書かれたのでしょうか。秀吉が『表裏比興の者』と呼んだのは誉め言葉だったのに、どういうわけか、司馬遼太郎さまなども悪い意味を込めておられるように感じますし。(司馬さんは昌幸嫌っていたと思う。)戦後であっても勝者視点が王道だったのかな。でも勝者は十分に実を得ているのだし、いまさら称揚してもねえ。

「だれか、有る?」


「信繁これに。」


「おお、真田殿か。今何時(なんどき)かな。」


(とら)(こく)(午前4時頃)かと。」


「…そろそろか。太田殿の陣へ参る。供をせよ。」


真田信繁を連れて太田定久の居る最前線槍隊直近の陣地に入る。


「これは、左大弁様。」


「着弾観測は出来たか?」


「は。夜のうちに敵陣側からすこしずつ手前に寄せて、塹壕線の向こうギリギリから2~3丈に着弾するように設定しております。」


「手間をお掛け致した。今日は決戦となるだろう。敵が突っ込んできたら即座に塹壕(ざんごう)の鉄砲隊は左右に引き上げさせる。槍隊なども塹壕線より前に出ぬように命じておくので遠慮なく打ち出してくだされ。打ち方だが、恐らく敵の槍兵の補充よりも再装填のほうが早いと思うが、敵の槍兵の補充が終わって隊列が落ち着くのを確認してから撃ってほしい。」


「なるほど。一定間隔で撃つと、砲撃が終わった事が察知されますからな。敵が詰まってから撃つほうが効率は良いです。が、その分味方の槍隊の負担が増えますが、よろしいので?」


「そこは考えてあるので安心されたい。」


「判りました。では敵兵が詰まるごとに撃つということで…」


頷いて、本陣物見櫓へ足を向ける。


「太田殿が砲撃と云われましたが?」


「まあ、砲は砲で有るが、ちと毛色が変わっていてな。まあ、嫌でも見る事になる。」


「あ、左大弁様。お早いですな。」


「今日も利三か。あまり無理はするな。」


「有難うござりまする。されど、さすがに今日は外せませぬ。」


頷いて利三に並ぶ。


「今、太田殿に会って細部を詰めてきた。徳川が突撃開始すれば即座に塹壕の鉄砲衆は左右の備えに引き上げさせよ。」


「?撃たずに引くのですか?」


「ああ。左右備えに引き、左右から撃たせる。」


「なるほど、そのほうが角度のある射撃になりますな。」


「まあ、それも有るが…。それから左右の備えも正面も全軍誰も塹壕線を越えてはならぬ。その場で打ち払うのみだ。」


「は?左右は前進して鶴翼の陣 で包み打ちされないので?」


「追撃がはじまればそうなるが、徳川勢に余力が残っているうちは出てはならぬ。それに出る必要もない。」


「?今一つ判りかねますが、そういうことであればご指示があるまで塹壕線から前には出ぬように申し付けまする。」


「うむ。そのかわり、正面の槍隊が疲弊した場合に速やかに左右から交代が出来るように準備させておいてくれ。」


「左右備えから斜めに銃撃が有るとはいえ、正面の槍隊だけで、()()支える…と。」


「戦意旺盛な者には不満もあろうが、すぐにその意味は判る。とにかく、(めい)が有るまで塹壕線より前へ出てはならぬ。これを徹底してくれ。」


利三が指示に降りてゆくのと入れ違いで官兵衛が上がってくる。


「おや、今日は真田殿もお揃いで。」


「はい官兵衛様。ちょうど宿直(とのい)に当っていましたので、お供させて戴いております。」


「それはまた、運がよろしいですな。このいくさを間近で見た事、必ずや信繁殿の血肉となりましょう。」


「…やれやれ。これから大勢死ぬというのに楽しそうだな。官兵衛は。」


「左大弁様も本当は楽しいのでは御座らぬか?大勢殺す手前、手放しで喜べぬお立場。なれど内心では新兵器の威力に期待されておるはず。」


「そういう官兵衛こそ、その新兵器がもたらす殺戮を目にして見苦しく吐きなどせぬようにの。」


利三が戻ってくる。


「おや、さては、また官兵衛殿をいじっておられるのですか。」


「此度は良い勝負だがな。」


(あの、利三様。お二方は(つね)からこのように?)

(左様。お互い(なぶ)り合いを楽しまれてござる。)

(…はぁ…左様で…)

(されど、ちと今日に限っては、気配が違いまするが…)

(それは?)

(いつになく真剣というか、重いというか…)

(ほぅ…)


「”左”か。どっちだ?」


「尾越の北、木曽川西岸にて酒井忠次率いる約五千、宇喜多様と衝突…」


此処に居る皆に聞こえるように配慮したのだろう、常に無くはっきりと聞こえる声で”左”が答える。


「やはり先ずは尾越からでしたな、左大弁様。しかし五千か。気張りましたな。」


「官兵衛の見立てとはちと異なったの。」


「はぁ。尾越は陽動と割り切って三千五百が程と思うておりました。本命の東に六千五百から七千と。よほど徳川の兵に自信が有るようで。」


「さすがに一万の宇喜多勢が尾越のすぐ北で待ち構えているとは思うまいからな。さらにその上で我が右備えを抜かねばならぬ。戦力差が元々大きいので多めに兵を与えたのだろう。とにかく一部分でも我が本陣に届き、側面を脅かし乱れさせれば正面から中央突破しやすくなる………そういう程度の大雑把な読みではないかな。」


「よろしいでしょうか。家康殿は何故にそこまでの自信をお持ちなので御座いましょう?」


真田信繁の疑問は当然だ。回答をせよと、目配せして官兵衛に振る。


「…経験…でしょうなぁ、信繁殿。徳川は長年武田と相対しており、その強さが基準となって居りましょう。そこに時々信長様から手伝い戦に駆り出され上方の兵とも交戦しております。その経験が上方の兵は弱いと思わせるのでしょうな。」


「なるほど…されど、宇喜多様の軍勢は自分が見た限り練度も高くかなりの強兵でしたが。」


「左様。なので、儂の見積もりより多い五千を送り出した事が家康殿の思惑に合致するやもしれませぬ。」


「三千五百では此処まで届かずとも五千であれば、届くと…」


「有りえぬ事でもありますまい。のう、左大弁様。………左大弁さま?」


「…ん………さて、どうかのう………」


場を微妙な空気が支配して皆が沈黙する。実はもう1手仕組んであるがこれは官兵衛にも明かせぬ。怪しい気配を察して追求せぬ官兵衛は流石に切れる。

しばしの沈黙。それぞれ改めて今の状況を最初から思い返しているようだ。


「夜が開けますぞ。」


東の木曽山地の稜線を朝日が昇る。天候は無事に晴天になりそうだ。

さて、予想より多めの敵だが。やりすぎるなよ、秀家殿、賦秀殿。




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