59 作戦開始
ご覧いただきまして、ありがとうございます。
おかげさまで、評価・ブックマーク、Twitterの”いいね”など、急増していて !! しています。
(勿論、誤字のご連絡もありがとうございます。)
感想も多数書き込んでいただいており、全てに返信を書いているのですが、
あれ?これ、返信書いても誰も見れないような気がする…
事にいまさら気が付きました。
(そういえば他作品に自分が書いた感想も「返信が書かれました」連絡とか無かった。)
なにか返信見れる方法が有るのだろうか? 謎だ………
「さて、頃合いだな。官兵衛…光春、そして島津義弘殿を呼んでくれるか。我らもそろそろ、岐阜殿(織田信孝)との芝居を始めるとしよう。」
「いよいよですな。」
…
…
「光春これに…島津様も来られておりますぞ。」
光春の後ろには島津義弘が静かに立っている。
「うむ。此度は我が明智勢最強の槍である光春に一芝居打ってもらいたい。」
島津義弘に目礼し、まずは光春に話を振る。
「徳川勢を釣り出すのでござるな。されどあの慎重な家康殿、並大抵では釣れそうもござらぬが…」
「そうよな。よって芝居の相手は徳川ではない。岐阜(信孝)殿だ。」
「?」
「まあ、二人とも座ってくれ。我らがわざと岐阜城を囲まず、威嚇するだけで放置しているのは知っていよう。」
「勿論。そのため岐阜城から家康宛に毎日の如く救援の催促が出ているため、家康殿も引くに引けぬ状態とか。」
「そのとおりだ。そこで此度は兵を進め城下の井ノ口の町で信孝殿と合戦の芝居をしてもらいたい。」
「は?合戦の芝居?…でござるか?」
「井ノ口の町に実際に火をつける事は出来ぬので、柴や材木を適当に積み上げ火を付けるもよし、空鉄砲を打って派手に音をたてるもよし、たまには足軽同士をぶつけて死者が出ぬ程度で引き上げさせるもよし…。」
「お、お待ちくだされ。足軽をぶつけてはそのまま合戦になってしまいますぞ。」
「普通はな…。だが相手もぶつけて暫くしたら引くように予め命じられていれば、無事に別れることが出来るだろう。」
「…つまり、信孝殿と話が出来ている…そういう事でござるか。」
「そういう事だ。だが万が一という事もあるので光春に頼むのだ。」
「馴れ合い戦の約束を違えて本気でかかってきた場合は本気で撃退せねばならぬ…と。」
「難しい役目だ。他には頼めぬ。」
「まあ、さほど問題はありますまい。岐阜勢が本気で突っ込んできてもせいぜい五千ほど。同数でしばらく支えていればお味方数万が殺到しますので。で、いつまで馴れ合いを?」
「家康の首を取るまでだ。」
「?は?」
「馴れ合い合戦には町民達にも観戦させて信孝殿の奮戦を世に広める。」
「…。寡勢の岐阜殿があれほど頑張っている。家康はなにもせず見殺しにするのか、最低の奴だ…と日ノ本中に噂をばらまくと…」
「ああ。そうなれば、三河へ逃げる事は流石に出来ぬ。そこで我ら本隊がゆっくり前進して長良川と木曽川の中間付近まで出る。すでに塹壕は掘ってあるのでな。」
「三河、遠江、駿河を侵食されつつある状態の家康は後がない。信孝勢が掃討されるまでに最後の決戦の機会になるここで出てくるしか無い…と追い込む…。」
「そうだ。そして家康勢が壊滅してなお奮戦している信孝殿。さすが、信長の血をひくだけの事はあるものよ…となって戦を終えて降伏後も大名として存続できるという訳だ。」
「ついでに不出来な信雄殿はなにもせぬまま首になるのですな。」
「信雄殿が残っていてはまたぞろ織田家の跡目争いで揉める。だが首に迄する必要は無いので、そうさな…高野山にでも入ってもらうぐらいか。信雄殿をわざわざ還俗させてまで担ぐ物好きも居るまい。」
「徳川家は族滅でござるか?」
「族滅にはせぬ。それでは三河遠江がなかなか落ち着かぬ。が、徳川敗亡までに真田殿に遠江・三河を席巻してもらい甲斐の徳川領のみ無事に残る状態を造る。徳川は秀忠殿に纏めさせ、その甲斐一国に減封する。地縁・血縁のきつい三河遠江からは切り離す。」
「甲斐…でござるか。いささか気の毒ですな。」
甲斐は武田信玄末期と勝頼の代で疲弊しきっている。その後も安定せず一揆多発地帯なのだ。
「ついでに信孝殿は美濃から尾張半国程度に移封だ。交通の要所の美濃に居座らせる事はできぬ。」
「それもすでに話が付いているので?」
「当然だな。」
「解り申した。徳川との決戦場に立てぬのは残念でござるが、引き受けましょうぞ。左大弁様もくれぐれも気を抜かぬようにお願い致す。家康は野戦に絶対の自信を持っていますぞ。すり潰されるを座視するとも思えませぬ。」
「その通りだ。なにか必ず藻掻いてくるであろうな。」
光春が下がり、黒田官兵衛が秀家と光慶を伴って入ってくる。光慶と蒲生賦秀は昨日、明智光忠と入れ替わって到着したばかりだ。
「聞いていたのかな。」
「は。お二方には聞かせたほうが宜しかろうと…。」
「手間が省けて助かる。では光春が始めたら三日ほど間を開けて前進するぞ。その手配りだが、蒲生殿と島左近、それと宇喜多忠家殿もこれに。島津殿も今暫くそのままに。」
島津義弘が ”そういうことか” と訳知り顔で軽く頷く。
………
………
四半刻(約30分)後、呼ばれた一同が顔を揃える。皆の前には予想される戦域図が広げられている。
「皆、よく集まってくれた。これより家康勢との決戦について話すのだが…島津殿もそのまま聞いて下され。」
島津義弘が頷く。
「まず宇喜多殿は秀家殿を総大将、忠家殿を副将に……ここをお願いしたい。」
「…なるほど、そこは必ずや仕掛けてきましょうな。」
「うむ。真田殿の侵攻に歩調を合わせて本隊は米野まで出るので、その最後の移動の時に本隊から分離してくだされ。」
二人が頷く。
「光慶と賦秀殿は此処だ。」
「…此処ですか…此処はいささか…」
光慶がやや不満げな気色を見せる。だが、蒲生賦秀が抑える。
「光慶殿、こういう一見なにも無さそうな場所ほどきついのが来るとしたものですぞ。」
「なるほど。そういうものですか。賦秀殿のお見立であれば疑いは無し。拝命いたしまする。」
「うむ。賦秀殿、この通りまだまだ経験不足の光慶ゆえ、良しなにお願いする。」
「なんの、戦場での細かな進退など総大将の気に掛ける事ではござらん。光慶殿は、この賦秀を信じて任せて下さる。部将からすれば理想的な大将でござる。されば、此度の主将は光慶殿で宜しかろうと存じまする。また、そうでなければ無用の障りが生じますぞ。」
光慶が驚いている。
だが、蒲生賦秀の云う事もその通りなのだ。主将で勝ち戦をこなした事実は重い。
「賦秀殿、お心遣い痛み入る。光慶、大きな借りである事、忘れるでないぞ。」
光慶が黙って蒲生賦秀に頭を下げる。
「最後は左近だ。左近には、此処から…」
地図をなぞりかなり遠くを指し示す。
「…此処になる。意味は解るな。」
「おお!まさに我が隊なればこその働き場。しかと承った。」
宇喜多主従、光慶と蒲生のコンビ、島左近、それぞれに作戦を伝える。
そして細かな摺合せの後、各々の陣へと去っていく。
「義弘殿、我が仕掛けはご覧戴いた通りでござる。ご質問が有れば、なんなりと。」
「ようわかった。ご丁寧にあいがとごわす。こいで、思う存分に戦ゆっ。ご安心して見ちょってくれん。左大弁様に恥はかかせもはん。」
「宜しくお願いいたす。」
言い残して座を立つ島津義弘を、あっけにとられて官兵衛が見ている。
ふふ。さすがの官兵衛も島津義弘相手では口を挟むことが出来ぬか。
「…左大弁様。島津殿はあれでよろしかったので?」
「官兵衛。島津殿はああでなければ成らぬのだ。あの御仁に細かな指図は無用。こちらの作戦さえしっかり伝えておけば良い。実際の戦場の状況を加味して最善の1手を最高の間合いで打ち込んでくれよう。あの闘気。必ずや大功を立てられるだろう。」
なおも半信半疑の官兵衛だが、中央軍出陣にむけて準備を整えるのだった。