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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
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58 滞陣

いつも誤字のご連絡ありがとうございます。

時々は以前の稿も読み返して逐次訂正しているのですが、まあ、あるわあるわ。

見つけられた場合はなにとぞご連絡よろしくおねがいします。

美濃で対陣してさらに2ヶ月が過ぎた。

相変わらず、徳川勢は木曽支流、河田こうだの渡しの向こう。こちらは長良川河渡の渡しの手前だ。

その中間の北側に岐阜城の信孝が五千の兵で籠もっている。いや、籠もっていることになっている。

信孝は本当は七千や八千なら動員できたが兵数が多いとそれだけ兵糧が消費されるため五千に抑えたと家康に報告している。だが、実態として明智側が城を囲んでいないため、常時補給のし放題だ。

明智、徳川、共に戦いようがない距離を開けての異常な睨み合いになっていたが、ついに変化が起きようとしている。


挿絵(By みてみん)


「左大弁様。ようやく北条勢が興国寺城を抜きましたな。流石に数ヶ月も籠もっていると火薬が尽きたとのこと。」


「官兵衛か。秀家殿も早いな。儂も今朝聞いたばかりだぞ。」


「僅かですが、この官兵衛にも伝手がありますでな。全部を駿河に入れております。」


「なるほどな。まあ、徳川自体の継戦能力はさほど高くない。攻城戦を嫌うのもそこらに原因が有るのだろうな。」


「確かに。それから、真田殿はいつでも二俣城に手を付けられると繋が来ていますぞ。」


「ふふ。真田殿は慎重だな。明智本営だけでなく、その方にも連絡を入れたか。」


「複数繋を別に入れておけば、途中で妨害されても何れかは届きますでのう。」


「…官兵衛は自分の事になると鈍感だな。悪い癖だ。」


「?」


「真田殿とお主、甲乙つけがたい知略で日ノ本の双璧であろう。そのお主が常時 われの側に居て、独立して真田殿が大功を立てつつ有る状況だ。こういう場合普通の参謀であれば…」


「!…そうか。真田殿は痛くもない腹をこの官兵衛が邪推しないように連絡を密に入れている…そういうことでござるか…。」


「知略さえ振るえれば世捨て人で構わぬお主と異なり、真田殿は食わす家臣も増えたからな。毛ほどの傷もできぬように手を打つのは当然であろう。まあ、儂は微塵も真田殿の二心など有りえぬ事を知っているがな。」


「以前からお聞きしたかったので御座るが、左大弁様は何故にそこまで真田殿を信用されているのでしょうや?」


「ふむ…。そうよな、どこから話せばよいか…。官兵衛は武田の滅亡が確定したのは何時だと考えて居る?」


「そうですなあ、大方の者は長篠の敗戦と思うでしょうが、この官兵衛の目には御館の乱かと。あの時景勝を見捨て、景虎を北条と共に支援していれば、甲相越の三国同盟が成り前右府の攻勢にも十分な対処が出来たはず。毛利同等程度には抵抗できたのではありますまいか。」


「ふふ。まあ、従来の武田の勢力に近い状態を望むのであればそうだな。だが、本当に武田の滅亡が確定したのは、最後の最後、勝頼が敗走の末に郡内ぐんないの小山田を頼ると決めた時だ。あの時、実は真田が勝頼を引き取る準備にかかっていた。勝頼も内心では真田の元に行きたかったようだが、縁戚でもある重臣の小山田を無視できず小山田の誘いに乗り裏切られ滅亡が決まった。この時過去のしがらみを一切切り捨て、真田を頼り真田に丸投げして、勝頼自身はただの神輿となる覚悟を決めれば、武田は滅ばなかったであろうな。」


「なんと…左様な事があったとは…。成る程、滅亡に瀕した主君、それも碌に献策も聞き入れなかったのに、それでも最後まで忠義を尽くすのが真田殿と言う事ですか。世評とは大違いでござるな。」


「世評は策士に辛いからのう。」


史実では真田昌幸の評価が上がるのが徳川相手の第一次上田合戦だ。が、この世界では第一次上田合戦はもう発生しない。現時点での世間の評価は真田昌幸は信玄の参謀だった一人であり、勝頼の代ではあまり重用されなかった男…といった程度だ。信州周辺ではその知略は鳴り響いていても全国的な知名度は小さい。


「駿河に北条がなだれ込むとなれば、最早徳川は支えきれまいな。」


「左様ですなあ。されど、徳川勢は地縁がきつくしぶといので北条も手こずると思えますぞ、左大弁様。」


「だろうな。なれば、真田殿の遠江進撃は半月ほど遅らせるが良いか…」


「ち、ちょっとお待ちくだされ。左大弁様、官兵衛様。北条勢が手こずると判っていて何故に真田殿を半月遅らせるのか、訳が分かりませぬ。」


疑問を呈してきたのは横で聞いていた宇喜多秀家だ。あれ?話が飛躍していたか?


「ん?話が飛んでいたか?」


面倒なので、官兵衛に目配せして説明させる。


「秀家殿。駿河でごたついていれば、徳川勢はどう動きますかの?」


「徳川勢は、なけなしの遠江守備兵を割いて駿河の援軍に出さざるを得ませぬ。」


「左様。で薄くなった遠江の守りは放置でしょうや?」


「三河からも守備兵を割いてすこしでも遠江に補充…せねばなりませぬ。」


「ですな。されば?」


「されば、三河の守備兵は半減までは行かずとも二割か三割は減ってしまい…真田様は遠江から三河の薄い守備陣を蹂躙しやすく…あぁ…」


「そして、今、真田殿と北条殿、何れに大きな功を立てさせたほうが左大弁様の意向に沿いますや?秀家殿。」


「それは勿論真田殿…そうか。徳川本隊以外の多くを駿河で北条勢が拘束している間に真田殿が遠江から三河を貫く。根無し草になる徳川本隊は破れかぶれの決戦に打って出るしかなくなる。戦後は北条殿の功は小さく真田殿の功が大きくなる…徳川は事実上消滅…」


「よく読み解かれましたな。もうほんの少しで、この官兵衛とも互角近くに策が練れまするぞ。秀家殿、いまのような大きな戦略を見通す事が大名当主として一番大切な事で御座る。戦の現場は互角以上の戦力を整えれば、あとは現場の知恵者や勇者に任せればおおむね問題ありませぬ。」


「は。官兵衛様、御教示有難うございます。」


「なに、秀家殿なれば、時間はかかってもご自分で気が付かれたはず。筑前殿が目をかけられただけの事はありますな。」


「おいおい、儂も秀家殿には期待しているのを忘れるなよ。では "左" 頼んだぞ。」


(承知…)


「大和の島左近にも連絡を。『出番が近い』と。秀家殿は宇喜多勢の出撃準備に入ってくだされ。此度は主将ですぞ。」


「はっ。」


「左大弁様、伊勢の蒲生殿と光慶様を呼び寄せられるが良いのでは。」


「それは………。官兵衛。ちと過保護に過ぎると思いこのいくさでは見送ろうと思っていたが………。」


「それは考えすぎというもの。戦場に立つからには危険の無い戦場などござらぬ。誰も後指を指しはしませぬ。」


「そう云うものかのう………。では、光忠(明智光忠)と交代で呼び寄せるとしよう。」


「そうなされませ。どのような形でも実績を残した事実は大きゅうござれば。」


官兵衛に借りが出来るが、敢えて借りておくか。そのほうが官兵衛も居心地が良かろう。




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