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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
61/72

57 真田

いつも誤字のご連絡有りがとうございます。

ほんと、助かります。

これからもよろしくお願いします。


昨日あたりから急に露出が上がったのか、多くの方にお読みいただいているようです。

お陰様でモチベーションも上がって、なんとか、嘘っぽいけど木曾3川の図も造れました。

ありがとうございます。


挿絵(By みてみん)

【一応描いてみたものの、東西方向に引っ張られる感じで歪みまくりました…川の太さも適当です。間違いだらけだと自分でも思う…でも無いのです。1586年以前の地図が。あるのはわかりにくい古い時代の模式図と流路だけ線引きしたような、川の太さも不明の図とか…まさか、この時代にこんなに直近で地形変動が有ったとは予想外でした。

とにかく、当時の川は関ケ原の戦い時点よりずっと複雑に絡み合っていて、支流だらけだった模様。】


ーーーーーーーーーー


大久保忠世との舌戦から一ヶ月ほどが過ぎた。

塹壕線は揖斐川を越えて、長良川の手前まで前進している。もう、岐阜城も目と鼻の先だ。だが岐阜城の兵は出てきていないし、こちらも付け城なども作っていない。商人も普通に岐阜城下の井ノ口の町に出入りしている。

大兵を抱えているので井ノ口の町には入らず、塹壕線の内側に臨時施設を移転させているが、兵士には交代で自由に井ノ口の町に出入りを許している。


(左大弁様…お休みの所、失礼します。)


む。左 か。


「よい。で、如何いかがした。」


「三河沖に停泊中の新式軍船が夜襲されました。」


「ほう。で、首尾は?」


「小舟で奇襲してきた敵は全滅。重治砲で一瞬で壊滅した模様。」


やはりな。そんな奇襲など通用せぬことぐらい予想出来たはずだが…


「一撃で殲滅したのでは相手の指揮官も生死不明であるか?」


「戦死した敵の指揮官は小浜民部(景隆)の模様。」


民部左衛門か。元は伊勢の北畠に仕えていた。北畠滅亡後駿河に進出した武田信玄の元に流れ駿河が家康領になってからは徳川家康に仕える事になった、相当に運が無い海賊衆だ。

大方、沿岸部を明智海軍に荒らされた家康に『海賊衆は何を手をこまねいておるのだ!』とでも叱責しっせきされたのだろう。家康にはそういった酷薄な部分があるからな。手の出しようがないと解っているのに部下に責任転嫁したに違いない。金のかかる水軍には常々否定的な思いも有ったかもしれぬ。ていよく切り捨てられたか。


「旧武田水軍を吸収した徳川水軍だが、ろくに装備の更新もされていなかっただろう。それで我が明智海軍に挑めとは、家康の器の底が知れるのう。」


”左”は黙っている。小浜民部同様の扱いをされてきたのが大方の忍び衆だ。いまさら感想もないという事か。あるいはとっとと家康と手を切らなかった小浜民部が悪いとでも考えているか…。


「よし、ならば小浜民部へのせめてものけだ。明智水軍に徳川領沿岸部への攻撃強化を伝えてくれ。小早も使って浜名湖の奥まで徹底的に掃討するのだ。東海道は常時ジーベックで砲撃して使用不能に追い込め…と。小浜民部が微力ながらも徳川海軍をそれなりに支えていたと分からせるのだ。()()()()の家臣達や領民にな。その情報工作は任せる。」


「御意。」


「真田はどこまで来ておる?」


「各地の土豪を糾合しつつ、諏訪で一旦停止中。」


なるほど、諏訪でとどまったか。ここで方向が分かれるからな。そのまま信濃を南進して飯田城を抜き天竜川沿いに下り遠江二俣城に圧力を掛けるか、甲斐に侵入して下山城を抜き富士川沿いに駿河を伺うか。明智本体がどこで最終的に徳川本隊と決戦するかを見極める算段だろう。明智本体が尾張と三河の国境付近まででるか、美濃尾張の国境付近までしか出ないか不明だからな。

尾張と三河の国境付近で決戦となった場合に真田が二俣城や、あるいは美濃方面へ向かう要衝の岩村城に手をつけていれば、家康は側面が気になり腰をすえて明智本体と戦えない。それは作戦的には成功であるし常道でもあるが、戦略的には失敗だ。三河まで撤退する口実が出来てしまう。

特に岩村城に向かった場合は根本戦略がぶち壊しになる。


「真田には、明智本体は尾張三河の国境でなく、濃尾国境で決戦に誘い込む事に成ろうと連絡してやってくれ。さすれば二俣城へ向かうはずだ。真田が甲斐へ向かうとこれ幸いと甲斐の守備兵を引き上げられ徳川の反撃密度が上がってしまう。北条と手切れしてまで強引に切り取った甲斐だ、明智勢が迫らなければ甲斐の守備兵を引き戻す口実がないので、そのほうが家康を困らせる事になろう。」


「岐阜城より、毎日の如く、家康本陣へ使いが走っています。」


「ふふ。信孝殿もなかなかよくやる。おっと忘れてしまうところだった。信雄殿は如何に?」


「信雄殿は桑名で逼塞ひっそくしたまま動き無く。」


「安濃津を落とした蒲生殿と光慶は安濃津にとどまっているのだな。ならば良し。」


「南伊勢を平定した大和衆は伊賀から大和に戻り、再整備の後本体に加わるとの事。」


「左近はまだ戦い足りないようだな。」


左は黙ったままである。事実以外は口を出さないという事だろう。塹壕戦とは云え、最後の最後は総攻めになる。そのときにはまた出番もあるだろうから、しっかり再整備して後で加わる判断は正しい。


「もうすぐ夜明けだな。少し早いが前線を見に行くとしよう。秀家は起こすな。今日の宿直とのいは誰かな?」


「真田信繁、これに。」


真田信繁はこの戦にあたって連絡係を兼ねた人質、そして秀家同様に明智の軍容の見学のため出仕してきている。不要と断ったのだが、真田昌幸に軍議の後で強引に押しつけられた。昌幸は武田家で若年から出世したため人間関係で苦労したのだろう。其の甲斐もあって信州方面軍の総大将に抜擢しても誰からも文句が出ていない。俺としては信繁よりは長男の真田信之のほうを希望したいところだったが、流石に嫡男を寄越せとはいえない。まあ、戦場での戦術なら真田信繁が適任だが、細かな戦術を競うような戦いにはならないからな。この戦では。


「おお、真田殿か。お父上は流石の大活躍だな。諏訪でとどまった判断も見事だ。安心して任せられる真田殿のような方が三人も居れば、儂も楽隠居できるのだがな。」


「…ご冗談を。」


「ふふ。そう固くなるな。貴公と信之殿、そして秀家殿、蒲生殿を儂は次世代の核になると期待しているのだ。その中に光慶も入れてもらえれば有り難い。」


「恐れ多きことに御座ります。」


「では、供を頼めるか。明け方でちと寒いが、たまには良かろう。」


「はっ。」


真田信繁、のちの真田幸村を伴って前線の射撃櫓へ向かう。所々に当直の兵が居て軽く挨拶しながら歩く。


「信繁殿。せっかく来ていただいたのだが、たぶん、信繁殿がその力を披露する場はこの戦では有るまい。この戦はすでに詰んでいるのでな。」


「はい。それは父からも聞いております。父が申しておりました。明智様は秀吉殿との山崎から丹波への機動戦直後から、何故か真田を贔屓にしてくださり、取り立てて頂いた。とても遠い所まで先を読まれているので、お側で学べと。」


「はは。それは真田殿にこそふさわしいが。真田殿が信濃の山奥でなく、摂津や和泉で生まれて居れば、三好を飲み込み今頃は天下人で御座ろうが。ああ、しかし真田殿には左様な野望は無いから全く違う世の中になっているであろうか。」


「………」


「信繁殿はデウス教、キリスト教とも言うようだが…あれをどう思われる?」


「デウス教ですか。話には聞いたことがありますが実際の信者は見たことが御座いませぬ。」


「高槻で一撃加えはしたが、これからも何度でも日ノ本に食い込もうとするだろう。まつりごとにも口を挟んでくる面倒な連中だ。次世代ではまた衝突する場面もあろう。そのつもりで信繁殿にも注視しておいてもらえると良いのだが。」


「解りました。いずれ父にも伝えておきましょう。」


「父君は心配なかろう。いずれ内政を司られることになる、信之殿にはしっかり伝えておいて欲しい。」


「兄ですか。なるほど、解りました。特に兄を名指しされていた事、しかと伝えます。」


その後も通り過ぎる時に目にする陣地の構造や狙い、攻める立場ならどう攻めるかなど、やり取りしながら最前線へと歩を進めてゆく。


「今日の当直は庄兵衛か。」


「おお、左大弁様、お早いですな。信繁殿もお揃いで。」


「運良く当直の宿直だったので、お供させていただいております、溝尾様。」


「で、どうだ。」


「塹壕はもうすぐ合渡まで届いてしまいそうですなあ。ですが、徳川勢は木曽川支流の河田を超えるそぶりは有りませぬ。」


「そうか。まあ徳川の動きはどうでもよい。このまま対陣を続けて、背後の徳川領がじわじわ縮んでゆくのに何時まで耐えられるか見物していれば良いだけだ。」


とは言ったものの、あまりに対陣が長くなると流通にも支障が出る。美濃は日本のへそのような場所で此処で流れが止まると日本全土の血の巡りがおかしくなる。そろそろ無理やり動かす算段をするか。




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