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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
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54 蘇(そ)

「煕、次は誰だったかな?」


「『亀寿』殿ですよ、左大弁様。」


「おお、『亀寿』か。『亀寿』も無事懐妊したな。体格が小さいのでよく見てやってくれ。」


「もちろんでございます。光慶殿の大切な藩屏となられる方です。言うまでもありません。」


此処数日、側室懐妊の知らせが立て続けに有り大忙しだ。一気に側室を設けたので懐妊も一気にくるのは当然であるが。


「でも左大弁様。光慶を懐妊していた時はそのような『』ですか、いただけなかったのに…すこし悔しいです。」


「すまん、煕。あの頃はまだ『』を造れなかったのだ。許せ。」


』と云っているのは自作のクリームだ。本物の『』はたぶんヨーグルトだろうがそこまでは面倒なのでクリームにした。妊婦の栄養補給のためにヤギの乳を飲まそうと思ったがソニア以外は皆気持ち悪がるので遠心分離機を造ってクリームを製造したのだ。一応、加熱殺菌もしている。柿にクリームをたっぷり乗せて与えると珍しいので平気で食べてくれた。一口食べれば甘味があるので大喜びだ。今では皆が首を長くして待っている。だが長期保存できないので作り次第こうやって配って回っている。ついでにお腹も撫でて回ると最初は笑われた。そんな事をするのは俺ぐらいらしい。


「『亀寿』、はいるぞ。」


「左大弁さま、お渡りいただき有難うございます。」


「調子はどうだ、なにか困ったことはないか?」


「『』のおかげでしょうか、普段よりも元気なぐらいです。」


「それは良かった。いつも言うように食べにくくとも少しずつで良いから魚を意識して食べるのだ。米に偏よらぬようにな。」


この時代は玄米食が普通なので、現代程米だけでも困りはしないが、カルシウムがどうしても不足するのが日本食の傾向なので、乳製品で補わせているのは内緒だ。


「はい、ありがとうございます。」


「『』を持ってきた。今日中に食べるのだぞ。腐りやすいのでな。」


『亀寿』がコクっと頷く。そこにふわっと生暖かい風を感じる。


「左 か。動きがあったか?」


「伊勢の信雄殿の求めに応じて駿河、遠江、三河で家康殿が動員を掛けました。」


伊勢の信雄が侵攻される不安に堪えきれなくなったか。お陰で攻め込む口実が出来た。


「家康とるんでいる証拠は?」


「抜かりなく…」


ならば良し。しかし甲斐は動員出来ず…か。


「新領の甲斐では流石に動員出来ぬか。」


「甲斐は疲弊の極みにて。そこに小田原殿(北条氏政)との対陣の負担も有れば。」


鷹揚に頷く。


「岐阜(織田信孝)はどうだ。」


「先の敗戦で疲弊しているからと、家康の誘いを何度も断っていましたが美濃北部の越前美濃街道の抑えと美濃での兵糧の手当を受け入れた模様。」


微妙だな。

これでは丹羽長秀の策が成功して嫌だ嫌だと言いつつ家康を釣りだしているのか、本当に嫌がっているのか判別が難しい。

だが家康の軍勢も近代化が遅れている上、此処近年の出兵続きで軍事負担に絶え難くなっているのは確かだろう。策の成否にかかわらず兵糧支給は家康を美濃まで引っ張り出す為に必要な措置ではある。


「伊勢の信雄どん、いや殿は如何しているかな。」


「すでに数ヶ月前から動員済みにて。ただ、明智海軍が伊勢湾を遊弋ゆうよくしているため、伊勢全体に兵を散らせて居り…」


ほとんどの場所で足止めにもならぬ…無視して良い…と言いたい訳だな…。


「その水軍ですが、信雄殿、安濃津に係留の鉄甲船の再整備を開始。また、家康殿も尾張に係留していた鉄甲船1隻を接収、再整備中。」


鉄甲船は維持費が高い上船足が極度に遅く交易にも使えない。織田信長と毛利水軍との第二次木津川の戦いで使用して以後は半ば放置されていたのだが、ジーベックに対抗できる船がほかに思い浮かばなかったのだろう。それぞれ1隻ずつという整備状況に財政の苦しさが滲み出ている。


「志摩の九鬼はどうしている?」


織田水軍主力をになっていた九鬼嘉隆は史実では秀吉の調略で信雄から秀吉に鞍替えしている。この世界では調略していないのでそのまま信雄に仕えているのだろうか?


「九鬼親子は鳥羽付近に引き籠り独自の水軍拠点を造りつつ有り。信雄殿とは距離を取っている模様にて。」


ジーベックの情報も断片的には耳にして居るだろう。実力主義の色合いが濃い水軍衆で切り替えも速い。増してや信雄とくれば、独立するのが妥当と判断したか。家康に味方せぬ限り、放置で良いだろう。


「海のことは家康も無知だからな。他の手が思いつかぬのだろう。煕、亀寿。家康が動く。軍議ののちに東に向かうことに成るだろう。此度は長期戦になると思う。しばらく帰れぬかもしれぬが許せ。『』の造り方と道具は煕に渡しておく。よいか、日々少しずつ食するのだ。一時に大量に食べても功は無い。煕も食せ。骨が強くなるのでな。本当は家中の者全員に与えたいのだが、山羊の数も限りが有るのでそうも行かぬ。いずれは山羊だけでなく、牛の乳からも造るように成るだろうが、それは光慶に頼んでおくが良い。では煕、頼んだぞ。」


二人が黙って頭を下げる。いよいよ事実上、国内最終戦だ。類をみない戦い方になるので皆に良く理解させねばな。



この続きの下書き3話ほどが消えてしまっていました(泣)

次回は一週間ぐらい間かあきますがよろしくお願いします。

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