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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
51/72

48 圧力

結局、左近は夜明けから午前中に数回出撃を繰り返し、次々出てくる柴田方の防御陣を突き破り最後の備え、勝家側近のめんじゅうかつてるを打ち取り柳ヶ瀬まで一気に貫いてしまった。

今は柳ヶ瀬宿で大休止に入っている。


「見事な大活躍だったな、左近。」


「なんの。最後のめんじゅうかつてるに手こずらなければ勝家を打ち取れたものを。き奴め、この短期間にどこで手に入れたのか、噂に聞く南蛮の全身鎧のようなものを装備して出できより申した。銃も効かず槍も通さず足止めされてしまい…。動きが鈍いのでもしやと思いつき、かなさいぼうを部下から借り受けて叩き潰すまでだらだらと抵抗されましてな。」


挿絵(By みてみん)


かなさいぼう…鬼の絵などでよく描かれているバットのような形状に突起が付いた鉄棒だ。古典的な武器だがこの時代でも最上義光もがみよしあきなどは好んで使っていたと云う。


「フルプレートメイルか。あれは動きが鈍いので火攻めが有効だが、それにはあらかじめ準備が要るのう。それで打撃武器でプレートメイルごと叩き潰した訳だな。まさしく、鬼に金棒か。叩き潰される間、めんじゅうかつてるも左近が鬼に見えた事だろう。」


「はっはっつ。鬼とはこの上なき光栄。しかし左大弁様は流石で御座る。南蛮の武具にも精通しておられる。あれはフルプレートメイルと呼ぶのですな。あまり実用的とも思えませぬが、もし一小隊全員が装備しておればかなり追撃の邪魔になりますな。」


「確かにそうだが最初から敗退を見込んで戦をする訳でもあるまい。重く動きが鈍くなるので進撃には全く向かぬ。油を掛けられて火攻めにされたら手も足も出ぬ。主力装備にするのは現実的ではなかろうな。」


左近が地面にへたりこんだままうなずく。流石に連戦で疲れ切っているようだ。


「して、左大弁様。今はどの部隊が追撃を?」


「柳ヶ瀬から先は長宗我部殿にお願いした。実際どの部隊も結構手一杯だった。宇喜多殿もほぼ全軍が東野山砦の戦いに参加していたのでな。」


「おお、そう言えば東野山砦は横目で見ながらも無視しておりました。どうなり申したのでしょうや。」


「東野山砦は小西隊と宇喜多隊のほぼ全軍が交代する激戦だったが、勝家本隊が押し込まれるのを見て敵が引いたぞ。だが、小西行長がなけなしの動ける者を募りその退路を待ち伏せた。撤退中の山路正国を新型銃で遠距離狙撃して討ち取ったと、つい先程報告があった。」


「ほお、退路を読み狙撃とは。此処数日の戦闘で小西殿は山岳戦の技術を身につけられたようですな。」


「うむ。元々器用な男だ。飲み込みも早いのだろう。先代の宇喜多殿に見込まれるだけの事はある。」


隣の秀家がちょっと嬉しそうだ。間接的に実父が褒められているわけで口元が緩んでいる。


「しかし、柳ケ瀬への道半ばまでは激しく抵抗してきましたが、急に手応えが無くなり最後にめんじゅうかつてるが出てきましたが、何故でしょうや。」


「それは、あの狼煙だな。夜が明けて一時いっときほどして余呉湖西の山中から狼煙が上がった。恐らく、奇襲失敗を連絡する狼煙だろう。」


「なるほど。左様でしたか。」


「だが東近江路の進撃が楽になった分、勝家の撤退が早い。光春達が合流する山陰道方面軍の進撃と歩調が合わず、越前まで逃げられてしまいそうだがな。」


「確かに。されどそれならそれで、こちらの被害も最小ですみ申す。勝家殿本人は楽に逃げれる分、置き去りに成る佐久間勢と前田勢、それに敦賀の守備隊は逃げられますまい。」


左近の見立ては道理だ。とくに深入している佐久間前田両隊はいかに精強でも離脱困難だろう。


「うむ。おそらくだが、金ヶ崎、手筒山の双子城に孤立無援の籠城になるであろうな。敦賀まで逃げおおせれば…の話だが。」


そのとき不自然に風が流れて左近が振り向く。流石だな…


「よい、左近。味方だ。」


左近を片手で制して現れた”左” に報告を促す。


「離脱中の前田利家隊の一部が刀根を越えて勝家隊に合流する模様。勝家本人も状況を完全に把握するも間近かと。佐久間、前田の本隊は金ヶ崎城へ向け撤収、籠城する模様。」


「吉川殿は?」


「すでに金ヶ崎城に到着目前でしたが、わざと敵勢を入城させる様子。北之庄方面への包囲のみ開けて半包囲陣を形成中。光春殿などとも半日もせず合流しまする。」


「猛将との評判なれど、策士ですな。吉川殿。」


「左近の云うとおりだ。ミエミエでも勝家が籠もるはずの北之庄方面への退路が開いていれば離脱する者が出る。怯懦きょうだによる離脱にしろ、勝家への忠義での離脱にしろ…な。その背を撃たせれば味方に被害なく敵を刈る事が出来る。『本当の忠義は金ヶ崎を死守して北之庄で孤立しない事だ!』と声を枯らせて佐久間が叫ぼうが押し留められまい。」


「長宗我部勢が椿坂を一気に超える勢い。」


「さすがに剽悍な土佐兵だな。では我々も軍を進めて後詰め致すとしよう。左近はもう前に出ずとも良い。十分に部下と馬を休ませ弾薬も補充の後に合流せよ。この戦の大勢はすでに決した。」


左近が頷く。左近達大和勢を柳ヶ瀬に残置して長宗我部勢の後を追い追撃に厚みをもたせる。これまで最前線で頑張った小西や池田に手柄の機会を与えたいが疲弊しているので中軍以降を追走させる。なかなか予定通りにはいかないものだ。


「東近江路は流石に良く整備されておりますなあ、左大弁様。」


追撃戦に入り、伝五と代わって本陣付きに戻った斎藤利三が話しかけてくる。


「ふっ。せっかく伝五にも楽をさせてやろうと本陣付きにしたのに放り出して先鋒に加わりおって。」


「はっは、それは褒美ではなく罰ですぞ。伝五にいくさを前にして本陣で動くな…では。」


「困ったものだ。本陣付きが出来るのが利三だけでは先が思いやられるわ。」


「なに、光慶様の代になれば蒲生賦秀殿や此度見事に戦いをこなされた小西行長殿も居られます。ご心配には及びますまい。」


「うむ。実は他にもてが無いわけでもないしな。」


真田昌幸の二人の子息を狙っているのだが今の時点では全く世に知られていないので利三から名前が上がらないのは仕方ないか。特に目をつけているのは有名な真田信繁ではなく、兄の真田信之のほうだ。光慶の世代では総合的な国力勝負の時代になるので機略縦横の作戦家よりも政治力の高い側近が必要になる。極端な話、凡手の連続でも物量で押しつぶすほうが確実な時代になる。勿論両名とも得られれば最善だが、家名存続も有るのでどちらか一名しか無理だろう。となれば優先すべきは信之か。


「長宗我部勢に伝令を。栃ノ木峠を越え今庄までの進撃で一旦留まるように。今庄で軍を分け越前一帯を制圧せねばならん。やれるな利三。」


利三が頷いている。分派する腹案は仕上がっているようだ。

越前の勝家が倒れれば加賀はまた混迷するだろうが今は放置だ。能登、加賀は小勢力乱立に逆戻り、越中の佐々成政と越後の上杉景勝は睨み合いで膠着するのでこれでよい。越前の仕置が済み次第いよいよ美濃・伊勢・尾張を視野にいれねばならぬ。

………その前に秀吉との宿題だな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際、真田幸村ってゲームの虚名で有名ですからね ↑ 実際に武将として知名度あれば 大阪の陣でもう少し幸村の提案は通ってたはず そうなれば徳川はもっと苦戦してたでしょうね 能力値には◯◯の野望…
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