47 反撃
いやあ、ここらあたりから、下書きが誤字だらけ、誤変換だらけ・・・
複数回見直しては居るのですが、発見された場合はご協力のほど、よろしくおねがいします。
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秀家を伴い本陣の物見台に戻ってきた。
夜襲なのであちこちに篝火はあるが肉眼ではほとんど何も見えない。
「伝五、東野山砦や光春からなにか連絡は来ているか?」
「光春殿はまだ何も。東野山砦はかなり大規模な襲撃のようですな。三方向から合計七千を超える敵だろうと連絡がきています。」
「普通なら確実に落とされているな。」
「まあ、一番敵側に突出している砦ですからな。その分造りも強固ですし、交代の後詰めは五千が二隊。それこそなにか新兵器でもなければ落ちませぬ。」
「しかしこれだけしつこく攻撃されては、戦局が動いても東野山砦からの追撃は無理だな。やはり。」
「そうですな。最初官兵衛殿に東近江路の追撃一番手がいきなり本隊と知らさせた時は無茶なと思いましたが必然だったのですな。」
「総力戦だからな。本陣といえど遊ばせておく余裕はない。配置場所も一番動きやすい街道沿いだしな。」
「徳山則秀殿を打ち取れたとか。」
「討ち取ったというよりも、死体を確認できたという感じだが。」
「上杉謙信殿は良い時代に死にましたな。」
「そうかもな。」
今の時代まで生きていれば、名乗りも無く爆殺されておしまいだろう。それとも時代に合わせて戦い方を変えただろうか。
「これからは専門家の時代…でしょうか。」
秀家が口を挟んでくる。自分がどうあるべきか考えるのは悪くない傾向だ。
「秀家殿もすでに専門家の道に立っていますぞ。政の専門家の道に。いずれ戦場は官兵衛や真田殿のような軍略家や島津義弘殿のような、指揮統率の専門家に任せる時代になりましょうな。その後方で政の専門家が国を支え、技術の専門家が兵器や民が使う道具を開発する。馬借などは物を運ぶ専門家に変わり商人は相場や商品の偏りを正す専門家になってゆく。自分はそう思っていますぞ。」
「なるほど。それで左大弁様は早くから雑賀衆や忍び衆を重視され河原者や山の民とも対等に付き合われていたわけですか。」
「左様。そもそも彼らを武士より下に見下す根拠などありはしませぬ。公家もまた然り。公家をありがたがる意味も有りませぬ。主上はこの日ノ本の旗頭、神輿であれば、根拠は十分で御座るが。」
「左大弁様。どうやら、光春殿のほうも始まったようですぞ。」
遠眼鏡で湖岸をみていた伝五がいち早く教えてくれる。
「ほう、すでに湖上の船からの銃撃が始まっていますな。早くも湖岸まで殺到してきているとは。道無き山中を突破してこの速さ。我が明智勢でも無理ですぞ。」
「うむ。そんな無茶な機動を俺は要求しないからな。信玄公ではないが、当たり前の事を当たり前にして、普通に勝つのが一番良いと思っている。人外の機動力を発揮したり、人外の武力に頼っているとどこかに無理がきているもの…俺はそう考えているのでな。」
「はっはっ。人外で御座るか。おお、しかし、その人外どもに光春殿も手を焼いておるようでジワジワ湖岸を引いていますな。」
「ほう?左右からの銃撃を受けながら、狭い湖岸の細道を光春相手に突撃し続けられるとはの。」
「かなりの重装備の先鋒なのでしょうな。よく体力が続くもの…。ん?おや賤ヶ岳砦の細川忠興殿が敵の後方斜め左から突き入れましたな。なかなかの勢いですぞ。ですが、ああ、あれは前田利家殿か。後詰めの前田勢が細川殿を支えているようですな。」
この世界では前田利家はちゃんと仕事をしていると。となると…
「すでに最前線は大岩山砦の麓まで来ていますぞ。」
「大岩山砦の中川清秀はどうしている?」
「中川殿は…どうやら麓近くから斜めに射撃戦を仕掛ける感じですな。ちょっと意外ですが。」
中川清秀は史実で討ち死にしているので事前に言い含めてある。できるだけ突撃せずに銃撃で側面から削れと。しかしこれだけの多重防御を一手で突破するとは、恐るべき突破力だ。佐久間盛政。
「光春はどうしている?」
「光春殿は…どうやら予め配置していた湖岸の馬廻りの陣にいま入ったようですぞ。」
さて、ここからだな。本当に手に余って引いてきたなら稻城も使うだろう。だが、わざと此処まで引き込んできているのなら追撃の邪魔になる稻城は使わないが…
「左大弁さま、どうやら敵の足も流石に止まったようですぞ。」
「稻城は使ったか?」
「特別明るくなっておりませぬ。稻城は使っていない模様。」
稻城を使っていないか。ならば撤退してきたのは半ば以上擬態だな。深く引きずり込んで殲滅する。光春もやる気満々だな。
「おお、敵勢の足が止まったのをみて、光春殿も中川殿も槍合わせに入りましたぞ。正面と左からの挟撃でこれは長くは保ちますまい。後ろの前田殿も細川殿を支えるので手一杯の様子。」
細川忠興は汚名返上の機会と奮い立って居るのだろう。
佐久間盛政は予定が尽く狂って歯ぎしりしておろうな。
元々予想外の方向からの奇襲でいきなり砦を奪う予定だったからな。それを十重二十重に囲まれさらに深く引き込まれる間も撃ち据えられている。ここまでよくぞ耐え抜いたと言うべきだろう。
「よし、では我々も動くとしよう。島左近の大和勢を中央先鋒の直ぐ後ろへ配置替えだ。準備完了次第中央先鋒は左右に開いて島隊の進路を開けるぞ。」
全体の陣形が太長い、先端だけ凹んだ見慣れない形にかわってゆく。凹んだ部分に島左近の鉄砲騎馬二千が配置される。
戦死した徳山則秀に変わって不破 直光(勝光?)が部隊の収拾に乗り出してきているようだが…ふふ。とんだ貧乏くじだな。
本隊の陣形が変化しているうちにも光春と中川隊が敵の余呉湖奇襲部隊を突き崩して追撃状態になりつつある。こちらの敵将はやはり佐久間盛政である事も確認された。
「おお、どうやら完全に追撃に入った模様ですぞ。突っ込んできた道をそのまま追い立てる感じですな。」
「…左…海津城と国吉城、それに若狭の小浜城に伝令だ。『出番だ』………と。それから小浜に来ている吉川元春殿に、良しなにお願いすると伝えてくれ。」
「なっ!吉川元春殿ですと!」
「うむ。これは小浜城と国吉城にだけ伝えてある。山陰の日本海沿いの進撃の先鋒は国吉城の並河易家に努めてもらうが、後詰めと占領地の慰撫などは吉川元春殿に譲ろうと思ってな。若狭の羽柴秀長殿は戦場には出さぬ約束だったので、だいぶ前からこの状況になれば吉川元春殿に小浜城に来てもらうように話をつけてあったのだ。吉川元春殿であれば、仮に易家が突出しすぎて危機に陥っても必ずなんとかしてくれるだろう。」
「…勝てる訳がない…」
秀家がつぶやいた。猛将柴田勝家の身の上に自分を重ねて考えているのだろう。だが
「秀家殿。たしかに兵力、陣形、兵器・兵糧の質と量、情報、全てで上回っている我が方ですが、それでもやって見なければ本当の勝敗はわからない…それが戦ですぞ。仮に目の前の相手が柴田勝家殿でなく、上杉謙信公であればどう思われる?」
「あ!」
「なるほど、あの御仁であればこの状況でもひっくり返されるかもしれない…そう思わせる何かがありますな、左大弁様。」
秀家も伝五も気がついたようだ。つまりはふたりとも猛将ではあるが勝家は普通の将帥、自分の読みで測れるレベルの人間だと知らず知らずのうちに判断している。軍神レベルには遠く及ばないと。
「謙信公まで行かずとも、そう、真田昌幸殿あたりであれば戦わずに黙って引く。引きながら罠を仕掛けて強かに追撃部隊を打ちのめすでしょうな。また、もし筑前殿(秀吉)が相手なら今頃我が陣中や新しく組下に入った国人に調略の手を飛ばしまくって開戦はしていないでしょうな。」
「そうですね、確かに。」
「今回は予め勝家殿専用に仕組みに仕組んだ網で掬い上げようとしているのです。逆に言えば、これで打ち取れなかった場合は我が方の限界が見えてくる切所でもあるのです。余裕で勝てる勝負などありませぬ。」
「ご教示ありがとうございます。経験が無いためか、見方が表面的になりがちのようです。見学させていただいてなければ、本当に愚将になってしまったやもしれませぬ。」
「秀家殿はお見かけした所、武勇は十分でござる。これからは将帥であり国の長として多数の命を預かっている事を常に意識なさるが良いでしょう。されば嫌でも慎重になり、ひいては佞臣も近寄れぬようになりましょうぞ。」
「左大弁様、お話は此処までのようです。光春殿が完全に追撃状態に入り余呉湖畔から山にはいりつつあります。そろそろ遠眼鏡でも見えなくなり申す。」
「そうか。こちらも陣形再編が終わったようだ。法螺を吹け。本軍これより出陣、左近の鉄砲騎馬以外は並み足でゆっくり前進だ。隊伍を崩すこと無く間合いを詰めよ。左近の開けた穴に順次味方を詰め続けるのだ。」
島左近の大和勢鉄砲騎馬二千が突撃して行く。チェーンソーのように縦に楕円を描くような車懸りの突撃だ。先端の兵が順次銃撃するので縦方向に機関銃射撃のような連続した銃撃が続く。さらに旋回して再突撃する間に銃を持ち替え、もう一丁の銃で再突撃する。2丁とも打ち切った頃には槍の間合いに入っている。3週目は槍で乱れきった敵陣を蹂躙する。
俺が示した僅かなヒントから島左近が独自に編み出した突撃方法だ。よく考えたものだ。さすが左近と言うべきか。
「左大弁様!島左近殿とはあれほどの猛将だったのですかっ!まるで敵陣が豆腐のように崩れていきます!」
「秀家殿。島左近は確かに猛将なれど今回は彼の戦術の切れが出たのです。費えは我が明智から出ていますが銃の改良、兵の訓練、陣形や戦術の考案は全て島左近の一存でなされていますよ。」
「なんと!あの初めて見る陣形は左近殿の工夫だったとは!」
「はっはっは、左大弁様、こんな楽な進軍は前代未聞ですなあ。左近殿の開けた穴に、ただゆったり歩いてゆくだけで良い。」
「まあ、今はな。だが伝五。そろそろ左近の鉄砲騎馬も再装填に一旦引くだろう。不破直光が再編成しかけた敵の陣はすでに完全に粉砕して第二陣の金森長近の陣に突っ込んでいる。左近の隊の収容準備もしてくれ。再装填と馬に一休みさせたあとで再び出るはずだ。」
「このまま一気に押し出すのではないのですか?左大弁様。」
「いや。秀家殿。貴殿が柴田勝家であれば、押し込まれた場合の備えを如何されますかな。」
「そうか…普通に最初から押される場合もありますね。されば、柳ケ瀬宿の後方、東近江路の左右に砦を造るか。そこで迎撃する………。」
「そう、それが普通でしょうな。なので今はまだ総攻めの時ではありませぬ。総攻めは勝家が越前まで引くしかない状況になり、実際に引きかけたその時が好機という訳です。今は圧力を掛けて崩れやすくしておいて、光春に押されて敗走兵が誰か勝家の元に到着するのを楽しみに待ちましょう。」