39-1 車懸り?
下書きが長くなり過ぎていたので、2話に分割しました。
誤字のご連絡有りがとうございました。助かります。これからもよろしくお願いいたします。
湖北の手配りを終えて坂本城に戻ってきた。
湖北決戦を睨んで当分はこの坂本城が居城になる。光慶も呼び出し細かく打ち合わせの後、蒲生賦秀の元へ送り出した。蒲生賦秀とは世代も近いので入魂になってくれればと願う。
「左大弁様。大和の島様がお見えでございます。」
ほう、左近か。
「通せ。」
「お忙しいところお邪魔致しまする、殿。」
「いかが致した?」
「鉄砲騎馬隊についてご相談したく。ご存知の通り、現状の鉄砲騎馬は急速に移動し停止、銃列を造って一斉射、その後突撃という手順でござる。」
鉄砲は鞍につけてあるホルスターに収まるが槍はそうはいかない。そのため銃撃のときには止まって地面に槍を刺し銃撃後に再び槍を手にして突撃する事になるのでこのような手順になる。槍でなく太刀という手もなくはないが、それでは戦闘力がかなり落ちてしまう。
「うむ。鉄砲足軽よりは機動力があり、単独でも白兵戦ができるのが強みだな。」
「はっ。されど、それではまだまだ十全に鉄砲騎馬の利点を発揮できておりませぬ。現状では側面からの奇襲は行えても正面突破にはあまり適しませぬ。」
「いちど止まらねば撃てぬからのう。さりとて、槍を捨てては突撃もままならぬ。」
「然り。そこでこんなものを勝手ながら試作してみました。」
見せられたのは拳銃とライフルの中間よりやや短い、旧ドイツ軍のP08拳銃の銃身を少し延長したような火縄銃だ。
「これは…片手で打てるように工夫したのだな。」
「ご明察。通常の種子島よりはやや射程で劣りまするが、左大弁様がいま改良させられてござる螺旋を刻んでおります。そのため、射程も七割は確保出来ていまする。鍛冶達も銃身が短い分、螺旋加工が楽と申しています。ご許可を得ればこの短い銃身の銃から量産して螺旋加工の技術の精度を上げてゆきたいと鍛冶達も申しております。」
片手で銃が打てれば鉄砲騎馬の運用が劇的に変わる。騎走しながら流鏑馬のように銃が打てるので騎馬の足を止めることなく突撃に移れるのだ。
「一石二鳥だな。勿論許可しよう。さらに銃身が短く騎乗の邪魔にならぬので左右各1丁を鞍に収納せよ。これで一戦で二回即座に銃撃が可能になる。訓練が大変だが、やれるな?」
「おお、連撃が可能になる…と。訓練はまだ数ヶ月も有る事ですし余裕で身につきましょう。元より流鏑馬の名手を集めておりますれば。」
「足を止めることなく槍突撃に移行できるとなれば、側面奇襲だけでは勿体ないな。う~ん……!!……左近!!」
「はっ!」
「車懸りぞっ!」
「…………………?…………………」
「どうした、左近。車懸りだ。知らぬのか?」
「………はて………何のことやら??」
くそっつ、やはり車懸りの逸話は後世江戸時代の創作だったか。怪しいとは思っていたんだ。車懸りが実際に実行されて劇的な破壊力が有ったのであれば、他の猛将も実行しないはずがない。仕方ないな………
「いいか、左近。車懸りとはこういう事だ。」
左近の眼の前で簡単な説明図を描いてゆく。
「最初はこんな隊形だろ…」
「で突撃しつつ先頭が射撃するだろ…」
「で、つぎにこうなってだな…」
「また後ろに回り込んで第2射に入る…」
「このように、ぐるぐる回りながら次々新手を繰り出して、一点突破を図る戦術なのだ!」
「おお!、これが車懸りで御座るか!凄い、素晴らしい戦術ですなぁ~」
ふう…。左近が意外にもノリの良い男で良かった。冷たく否定されるかと思ったが。
「どうだ、やれそうか?」
「全く問題ありませぬ。単純に騎馬で追撃するのが当たり前だったのですぞ。それが突入直前まで突入地点の敵を連続で撃ちまくるのです。全員が一通り打ち終わる頃には敵陣を切り裂いて乱入出来ているでしょうな。」
「そうかっ!。これが可能になれば敵の殿部隊を一瞬で打ち砕く事ができるだろう。これはとんでもない事になるぞ。」
「殿部隊がその役目を全く果たせず壊滅すれば、どんな大勢力でも一戦で崩壊してしまいますぞ。」
「何も知らず、いきなり当たる柴田勢が気の毒になるな。」
「しかも他大名では真似することができませぬ。畿内の鉄砲生産を占めて数を揃え、雑賀の職人を味方につけ繊細な加工を施し、その上で左大弁様の知恵が重なってやっと実現ですからな。」
島左近を鉄砲騎馬の指揮官に抜擢したのは大正解だったようだ。
やはり現場を知悉している士官は頼りになる。
島左近に量産許可の書状を与えて計画を実行に移させるのだった。
…くくく。後世に『車懸り』の名付け親になるか、この光秀が。…
自然と顔が綻んでしまう。
きっと今、俺はすごく下品な顔になっている事だろう。