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光秀、下天の夢を見る  作者: 狸 寝起
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24 高槻法論

しかし徳川と犬猿の仲になる真田が信州に居て助かった。真田昌幸は策士だが筋を通す人間だ。自分より弱小と見るや牙をむく家康とは相容れぬ。同じ信玄崇拝者だが、まるで違うのが面白い。

真田昌幸に思いを馳せてニヤつく俺だったが高槻に近づくに連れ自分の眉間にシワが寄るのが判る。


「日向守様、どうやらアレもそのようですな。」


「ふん。よくもまあ、これだけ教会を造りまくったものよ。」


高槻領内二十の教会とあるように、どこに居ても教会らしき物が目に入る。城付近まで進むと公開での吟味の申し付け通り、広場に舞台が設けられている。その舞台から白装束の男が出て来る。高槻兵を部下に任せて先に帰城していた高山右近だ。


「前右府の時の二番煎じは通じぬぞ。」


右近に言い渡す。荒木村重謀叛の折にいち早く村重を見限り信長に帰順した右近だが、その時はみすぼらしい身なりで信長に謁見し許されているのだ。もしかすると後の伊達政宗の白装束もこの時の右近を見習ったのか。


「全ての責はそれがしにござれば、何卒宣教師達にはご寛容を…」


「判っておらぬな。此度こたび吟味ぎんみはお主の目を覚まさすのも目的の一つよ。宣教師の正体、お主も心を無にしてしかと見極めるが良い。」


言い捨てて舞台へ歩を進める。見回すと大勢の群衆の間に等間隔で明智の兵が警戒に当たっている。庄兵衛や利三が手配したようだ。群衆の中には伊賀者も混ざっているはずだが見分けは付かない。舞台袖の来賓席には京から来た公家や秀吉と官兵衛の姿も見える。中川清秀や島左近も部隊が落ち着いたら来るのだろう名札のついた空席があるじを待っている。逆側の袖は仏教や神道など、キリスト教に敵対的な立場の宗教関係者のようだ。なにを勘違いしているのか、期待を込めた視線を送ってきている。


「こちらがスパール・コエリョ準管区長様、あちらがルイス・デ・アルメイダ司祭です。」


右近が二人の宣教師を紹介する。

スパール・コエリョ。

ヴァリニャーノの後継者。すでにに日本を去ったヴァリニャーノは穏健派の宣教師で個人としては本国のローマ法王や大方のイエズス会士と異なり奴隷にも反対の立場のはずだが結局は本国の方針には逆らえない。その後任のコエリョはごく並の宣教師で普通に日本侵略の意図を隠している。

ルイス・デ・アルメイダ。

この人間はちょっと毛色が異なる。なにせ元々が迫害されていたユダヤ系だ。商人でもある。というか、ユダヤ系は差別されていたため賤業とされてきた金融や商業しか就業できなかったのだ。ユダヤ系でありながらもユダヤ教原理主義をすててキリスト教社会に溶け込もうとした結果、今、宣教師としてここに居る。


「コエリョ デゴザイマス。」


「アルメイダ です。ひゅうがのかみ さま。」


商人のアルメイダのほうが日本語に堪能だ。素の能力もアルメイダのほうが勝っているように見える。


「遠路九州から呼びつけてすまぬな。此度はいろいろと問い正したい事があって来てもらった。最初に申しておくが、儂は嘘偽りが殊のほか嫌いだ。我が問いには正直に本当のことを申すように。おお、そうだ、嘘偽りは断じて申さぬ事を、この大群衆の前でその方らの神に誓うが良い。」


一瞬コエリョの顔が曇る。アルメイダは元々誤魔化すつもりが無いのだろう、あっさりとちかいを口にする。


「わがかみのマエに嘘はイイマセン。アメン。」


コエリョに目をやる。目の会ったコエリョが慌てて誓いを述べる。


「ウソ、イイマセン、カミ ミテイマス。」


「よかろう。ではこれより吟味を始める。個々の案件はのちほど問いただすとして先ずはデウスの教えそのものについてだ。よいな。」


ぐるりと周囲を見回す。皆が頷く。


「最初に宣教師はデウスの神を大日如来として布教を初めておろう。大日如来は仏教の神であって断じてデウスの神ではあるまい。申し開くことが有れば述べよ。」


コエリョとアルメイダが目を見合わせコエリョが説明する。


「スミマセン。セツメイ シカタわからない このクニの神のナマエ ツカウシカナカッタ。」


「ならば今後一切大日の名は勿論、デウスの教え以外の神の名を使うことは禁ずる。異論はあるまい。尤もそち達の神には名がないのであったな。それも確実に信者に説明して誤解なきようにする事を命じる。よいな。」


名無しでは布教に大いに障害になるだろうが知ったことではない。すでにこの時点で群衆がざわついている。名が無いとはどういう事か、理解が追いつかないのだ。

コエリョとアルメイダが困った顔をしていたが諦めたのか承諾する。


「さて、いよいよ本題だ。お主達の神は世界にだた一人だけしか居らず、唯一絶対で全知全能…そのように聞くが相違無いか。」


「ソウでゴザイマス。」


「お主達の教えでは他の神は断じて認めぬ。ここは肝心な部分ぞ、しかと答えよ。この世もあの世も、ありとあらゆる世界で神はただ一人、お主達の名無しの神だけである…それで良いのだな。」


若干不安に成ったのかコエリョとアルメイダがお見合いしているがアルメイダが答える。


「はい。そのように、私も祖国で教えられておりマス。」


「ふむ、そうであるか。もしも本当にその通りだとするとおかしな事になるのだが、南蛮人は疑問に思わぬのか?」


「ドコカ、おかしいデスカ?」


「全知全能の神であるなら元々この世を大楽園で作れば良いだけであろう。何故にわざわざ戦や飢饉のある住みにくい世に創る必要がある。お主らの神は嫌がらせが大好きなのか?」


群衆の一部から『罰当たり者!』などと喚き出す物が出始める。しかし大方の群衆はその応えを固唾を飲んできいているようでうるさい者を皆で抑え込んでいるようだ。

…しばらく考えてコエリョが答える。


「ソレは ワレワレモ ワカリマセン。キット カミサマ ナニカ カンガエ アルオモイマス。」


「ほう、お主達も知らぬ分からぬと申すのだな。ではローマ法皇とやらはどうだ、彼が一番神と親しいのであろう。その者にも神はなにも教えぬのか?」


「………タブン キイテイナイ オモイマス………」


「そうか。お主らの神は随分と冷たい神のようじゃな。ただ黙って信じろ…それだけではないか。それではもしもだ、その神と思い込んでいる者が悪魔であったとしても、見分けがつかぬのではないかのう?」


「イエ ズットムカシ カミサマ コドモ ツカワサレたデス。キセキ ミセタ ミナニ。」


「それが騙されておるやも知れぬと申しておるのよ。考えても見よ、全知全能で有ればわざと不都合を造っておいてそれを神の子、『イエス』とやら申すのであろう、その者に直させれば良いだけの話じゃ。何のことはない、自分で穴を掘って自分で埋めただけ。元々神とやらが居らねば何もなかった平穏無事な平地ではないのか?」


此処に至ってコエリョとアルメイダの顔に脂汗が浮いている。元より証明の仕方が無い事を突いているのだ。まともに答えられる訳がない。まあ、彼らが明確に否定出来ないことを並べ立てて人々を丸め込んできたのだから、それを裏返しただけだが。それ故にこの追求を否定することは自己否定につながってしまう袋小路なのだ。

ちらりと右近に目をやると下を向き考え込んでいる。多少は疑問を感じだしているのだろうか。群衆にも動揺が広がっている。


「ワ、ワタシタチ カミサマ シンジル ウタガウコト イケナイ…」


「ふ。まあ、信じたいなら好きに信じればよいがの。日の本の民が左様な怪しげな神だと気がついても信じるとも思えぬが。では次だ。」


改めてコエリョとアルメイダを見る。コエリョは若干目が泳いでいる。


「お主らの神の書物、古い方だが ”人を殺すな” と書いてあるはずだ、そうだな?」


「オオ、ヨクシッテオラレマスネ。 ヒトコロス イケマセン。」


「だが可怪しいな。お主らのローマ教皇、たしかウルバヌス二世 だったか、は五百年前に戦争を仕掛けておるではないか。しかも相手もお主達の信じる神と同じ神を信じておる者だったのに。しかも一度ならず、最初の五百年前の攻撃から二百年近くに渡り何度も何度も攻め込んでおるだろう。当然とてつもない人数を殺しておるが、教皇が神の名の元に殺し合いを主導して居るのはどういうことだ?言い訳があるか?然と答えてみよ。」


所謂十字軍の愚行である。これには右近も初耳だったようで顔を上げ驚いている。やはり聞いていなかったか。

反射的にコエリョが答える。


「アレはイキョウトデス。ワタシタチのカミヲ、カッテニトッタ。」


「ほぅ?異教徒は人ではないのか?異教徒なら殺して良いのか?そもそも神はお前たちの物なのか?お前達の許しを得ねば信じてはいけない神なのか?」


知らない人も結構いるが、実はキリスト教の神もイスラム教の神もユダヤ教の神も同じ神だ。切り口が異なる同じ果実のようなもので、そのため同じ一神教という窮屈な縛りができてしまっている。


「同じ神を信じる者に対してですら斯様な無慈悲な事も為す。まして南蛮人でもなければ異教徒だらけの日ノ本など、僻遠の地でなければすぐにも攻め込んできたはずだ、そうであろう、しかと答えよ!」


「ソ、ソノヨウナ ツモリ アリマセ…」


「黙れ!、たばかりりを申すなと最初に命じたであろう。天竺のゴアを盗み、マラッカを攻め取ってるのをこの日向守が知らぬとでも思うて居るのか。日ノ本の侍があまりに多く容易たやすく攻め取れぬので下手に出ておるだけであろうが!」


おろおろするコエリョの横でアルメイダがため息をついている。仕方ないと思ったのかコエリョに変わってアルメイダが対応する。


「ひゅうがのかみサマ。確かにイエズス会でもソウイウ者居ます。デスガ、ワタシはそんなコトシマセン。」


「アルメイダ殿はそうであろうな。なにせ、ユダヤ出身であるからの、貴殿は。さぞ理不尽な思いもされてきた事であろう。商人の顔を持つのも他の職に就くことが禁じられておった故よの。そういえばユダヤ人も同じ神を信じておるのに、酷い扱いを長年受けておると聞く。デウス教とは実に狭量な教えよのう。そうはおもわぬのか?」


ユダヤ人とは何だ?商人は賤業なのか?ざわめきとともに、あちこちでボソボソ話している声が聞こえてくる。

アルメイダはアルメイダでユダヤ人の件に触れられて顔色が変わっている。まさかいきなり憐れまれるとは思わなかっただろう。


「イ、イエ。モウフルイ ムカシ。…イヤ イマモ デモ ワタシ カミさましんじています。」


アルメイダもだいぶ辿々(たどたど)しい。余裕が失せている。


「まあよい。どんな無慈悲で偏狭な神だろうがお主達が信じたいというのだ。好きにせよ。だがその信仰を他者に強要してはならぬ。信じねば地獄へ行くなどと脅してもならぬ。良いな。」


「ハイ、キモにメイジテ オボエテオキマス。 日向守サマ ハ、ゼンブシッテマス。コワイ人。」


「うむ。アルメイダはソレで良い。だがコエリョ。貴様にはしかと申し渡しておく。日ノ本の民を利用してからに攻め込む計画など、この日向守が許さぬ。すぐにでもゴアに遣いを出し教皇にも諦めさせよ、よいな!」


これには右近も公家も、秀吉まで腰を浮かしかけている。聞いていた民衆はなおさらだ。自分たちが徴兵される、それも遠い異国となれば信仰どころの話ではない。あちこちから非難の怒号が宣教師に浴びせかけられる。

コエリョは最早魂が抜けたような状態だ。アルメイダは諦観しているのか、ユダヤ人だけに虐め耐性があるのかさほど動揺していない。右近は…立っていたはずの地面が底なし沼になった気分…といったところか。


「さて、これからは個々の案件について詰めていく。」


もううんざりだ…という顔でコエリョが虚ろな顔を上げる。秀吉も公家も民衆もまだこれからと気付いて徐々に喧騒が収まってゆく。


「九州の民を始め、日ノ本の民が南蛮人に攫われて奴隷として遠い異国に売られておるであろう。その手引をうぬら宣教師もしておろう。正直に申せ。」


再び周囲が騒然とし始める。もう、集まった民衆は敵意剥き出しだ。多少のことではぬえのようにのらりくらりしている公家の目までが据わっている。


「ウルヒト イルカラ カウダケダ。」


コエリョがやけくそで言い放つ。もう完全に居直ったな。布教は諦めたか。


「馬鹿を申せ。最初から奴隷として攫う目的で奴隷商人まで連れてきておろうが。」


「ウルヒトガイナケレバイイダケ。」


「抜かせ。人攫いをして居ることも知らぬと思うてか。しかも貴様たち宣教師の慰み者にする目的も知っておるぞ。貴様の屋敷を家探しさせたいか?」


「…シッテイルナラ キクナ。」


「ふん。もう十分であろう。皆のもの。コエリョ、貴様は日ノ本から永久追放だ。二度と足を踏み入れたなら即座に磔に処す。堺から三日以内に出立せよ。勿論奴隷は置いてゆけ。九州にも立ち寄ってはならぬ。死にたくなければな。」


民衆から歓声が上がる。出ていけの大合唱だ。コエリョがよろよろと立ち上がり舞台を降りる。いろいろな物が投げつけられ当たる度によろけるがなんとか引き上げたようで視界から去る。


「さて、邪魔者は居なく成ったな。やっとこれで前向きな話に入れる。」


アルメイダが驚いて顔を上げる。周囲の者も驚きいぶかしんで静かになる。


「よいか、儂は信仰そのものは各人がすきにすれば良いと思うておる。嘘偽りや脅迫でなく、納得しての信仰であればの。だが、宗教がこの世のまつりごとに口出しするのは許さぬ。あの世の事はすきにすればよいがこの世のまつりごとはわれらが為す。」


ここで周囲を見回す。当然だ…という顔の武家。

よくぞ申したと勝手にうなずいている公家。ふふ。公家は長年強訴に苦しめられてきたからな。

話が違うと困惑顔の僧侶や神官達。

アルメイダはすでに諦観の境地か。

右近は…また下を向いてしまっているな。世俗の欲が無いのは良いが為政者がこの時代にこのような姿では領民が困るのだ。いや、まてよ、領民の無いポストを作れば此奴の負担がなくなり能力だけ活かせるのかもな。そう言えば史実でも晩年はどこぞの客将扱いで相談役のような立場であったか…。

まあ良い。それより今は話の続きだ。


「だが、完全に南蛮と縁切りも良くない。からの明国を見れば判るだろう。鎖国では国そのものが停滞してしまうのだ。アルメイダ。ポルトガルが奴隷に手を染めず純粋に交易を望むのであれば歓迎致そう。宣教する場合は政に口出しせねば許すが…ふふ。今日の顛末はすぐに日ノ本中に知れ渡る故、難しいぞ。」


「…ワカリマシタ。日向守さまのオオセのトウリに。」


「うむ。日ノ本と交易する事はポルトガルにとっても良い事になる。アルメイダは長く本国を離れておる故知らぬだろうが、今カリブ海ではブリテンの私掠船が暴れまわりイスパニアの船が次々と沈められておる。」


「ブリテン?エリザベスのエゲレスが?…デスカ?」


「うむ。エゲレスは今急速に海軍が成長しておる。程なくイスパニアは駆逐されるだろう。その時にはさほど軍事力のないポルトガルも駆逐される。」


「………」


「だが、その場合でもマラッカより日ノ本までは、我が海軍が交易路を守ってやろう。すでに改良ジーベックの建造を指示しておるのでな。エゲレスが如何に強大になろうがこの僻遠の地では補給も修理もままならぬ。ましてや失った船員の補充は不可能だ。こちらがそれ相応の戦闘艦を保有していればエゲレスも侵略を諦め交易での競争を模索するようになろう。」


「…ジーベック!!。日向守さまガ、改良する、ツヨイ、ジーベック……」


ジーベックとはなんだ?という囁きが漏れ聞こえてくる。イギリスの存在も知らない人達だ、アルメイダとの会話に全く付いてこれない。それは秀吉や官兵衛とて同様だろう。


「アルメイダが今この日ノ本に居る、それこそがまさに神仏の計らいであるとも言える。長く虐げられてきたユダヤ人のお主であれば人種で差別する事もあるまい。商人でもあり、話の理屈は通ると信じておる。エゲレスからの将来起こりうる侵略に備えるため、儂は小国であるポルトガルや、もうすぐ独立するネーデルランドと手を組むべきだと考えている。」


ポルトガルが小国だったのか!と観衆がざわめいている。秀吉や公家も意外そうだ。


「ネーデルランド 独立スルデスカ。そうか。そうですネ…。」


「で早速だが、カルバリン砲とカノン砲の実物を一門用意してもらいたい。砲弾は十発ほどで十分だ。」


「? 1門づゝでヨイデスカ?」


「うむ。だいたいのことは判っておるが実物を鍛冶に見せるほうが、話が早いのでな。どうせ大幅に改良せねばならぬが。まあ、数年もすれば鉄砲同様、日ノ本で普通に使われるようになろう。」


「…ソウデスネ…。 この国のマスケット、ポルトガルの数十倍アリマス。カルバリン砲もスグ ツクレルデス。」


もう誰も話についてこれすアルメイダと二人の話になってしまっている。アルメイダ自身、もうイエズス会の宣教師の顔でなく独立商人の顔になっている。


「よし、話は纏まった。公家衆の方々、お聞きの通り今九州は未曾有の危機でござる。すでに攫われし良民も多数でござれば、何卒奴隷売買の禁止の綸旨を賜りますよう、ご尽力をお願い申しまする。」


皆が一斉に公家衆を見る。呆けていた公家衆が慌てて頷いている。さすがに此度は公家衆も態度を明瞭にするしかない。ふと見ると足元で右近がまだ下を向いたままだ。


「右近、どうした。アルメイダすら現実と向き合っておるのだぞ。もう見て見ぬ振りは必要あるまい。」


「…日向守様はむごうござる。某はもう、未来永劫救われぬ……。」


「ふん。主は小なりとは言え領主であろうが。自分が救われたいと思う以前になぜ自領の良民を己が手で救おうと思わぬのだ。教会を造る金があるなら一反でも新田を作れ。悩む暇があるなら半時でも領民の不満を聞け。まずはそれからよ。」


「されど、もう、誰もこの右近の話など聞いてはくれますまい…皆と共にデウスに救われる夢は潰えました。」


「しょうがない奴よの。まあ、いきなりだ。自分の足でまだ立てぬと申すなら時をやろう。中川瀬兵衛清秀やある!」


一人の男が進み出る。


「…瀬兵衛まかりこしまして御座りまする。」


ぬしは右近と領地も接し縁戚でもある。右近が立ち直るには暫しの時が必要と見た。当座右近は瀬兵衛預かりと致せ。儂はまだ右近を見捨てては居らぬのだ。」


「日向守様のご厚情、この瀬兵衛しかと。必ずや立ち直らせましょうぞ。」


右近を中川清秀に任せ舞台を降りる。そのまま自然と散会になる。4万の大軍をいつまでも高槻の町にとどめて置けないので各部隊に順次姫路への進発を命じる。なお、一部の明智勢は高槻からそのまま北上し丹波へ向かい但馬で合流の予定だ。


次は細川藤孝を成敗する番だ。あのぬえのような男がどう出てくるか。それはそれで楽しみだな。そうだ、娘の玉も居たな。一度会ってみるか。


自分も築城の手助けをした宮津城へ思いを馳せるのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか良作。 この法論話は素晴らしい。ワイなら南蛮船を抑えて船底に鎖で繋がれた骨と皮になった奴隷とラム酒(当時の不味い物)を群衆の面前に晒して詰問したい所。物証あれば言い逃れも出来まいし…
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