無事だった
僕達3人が街の出口につくと、そこには国の騎士さん達がいて、避難できた住民たちを整列させている。どうやら、王都からの迎えの馬車を待っているようだ。その集団の一番後ろにたどり着くと、僕は女の人から降ろされる。僕は女の人にお礼を言うため、兄さんに肩を貸してもらいながら眼を真っ直ぐ見て
「お姉さん、助けてくれてありがとうございます。」
そのまま僕は頭を下げる。兄さんも僕のことを支えつつ
「弟と俺を助けてくれてありがとうございます。」
と言いながらお礼をする。女の人は僕の頭に手をのせると、ゆっくり優しく頭を撫でながら
「気にするんじゃないよ。当然の事をしただけだからね。」
言い終わると、僕の頭から手を上げて、さらに続ける。
「さてと、ここらで1度自己紹介と行こうかね。私はサニアっていうんだ。気軽に呼び捨てでいいからね」
サニアは自分の名前を名乗る。僕達はそれに答えるべく、名乗った。
「俺の名前はクラッド。さっきも言ったけど、弟を助けてくれてありがとうサニア。」
(言われた側から、呼び捨てている兄さんの度胸はどうなのだろうか…)
僕はそんな兄さんをジト目で見上げる。僕の視線に気がついた兄さんは僕の顔を見るが、ジト目の理由はわからないようだ。ニヤリと笑う兄さんを尻目に、ため息をつく。頭に疑問符を浮かべている兄さんは置いといて、僕は流石に呼び捨てはできないから、ふと思いついた呼び名で自己紹介をする。
「ありがとう、サニア姉。僕はレイン。よろしくね。」
僕達の名前を聞き終えると、サニア姉は笑顔で
「レインにクラッドか。覚えたぞ。」
そう言うと、避難の列に加わるように促した。
サニア姉と一緒に兄さんに肩を貸してもらいながら避難の列に加わろうとする。その時、1番心配してた人の声が聞こえてくる。
「レイーーン、クラッド君!どこに居るのー?」
間違いなく母さんの声だ。兄さんの言った通り、母さんは無事に逃げ切れて、僕達を探している。僕は母さんを探したくて周囲をキョロキョロ見回す。だけど、僕達の周りにはもちろん大人の人も居て、母さんを見つけるのは難しい。それに、足の痛みがあるから母さんを探しに行く事も難しい。そんな僕の様子をサニア姉は見ていたのか、僕の頭上から声をかける。
「よし、レイン!肩車をしてやろう。私は見ての通り、少しばかり背が高いからな。私が肩車すれば、簡単にお前の母さんを探せるはずだ。」
サニア姉は僕にそんな事を言い出す。たしかにサニア姉の言う通りだ。サニア姉は周りの大人よりも頭一つ分大きい。そうすれば、母さんを見つけられるはずだ。僕はそんなサニア姉に対して、
「いいの!?」
聞いてみる。サニア姉はニッコリと笑って
「まかせな!しっかり捕まれよ?」
一言だけ呟くと、そのままかがんで僕のことを肩車する。一気に目線が高くなった僕は落ちないようにサニア姉の頭に手をつく。そして、兄さんを見下ろしながら
「兄さんが小さーい!」
姉の頭に捕まってケラケラ笑う僕を見上げながら、兄さんはため息混じりに
「レイン…遊ばない。」
僕にそう言った。
僕は兄さんから視線を上げると、周囲を見渡す。サニア姉に肩車されて、十分に高くなった今なら母さんを見つけられるはず。そう意気込んで、母さんを探す。そして、僕たちのことを探している母さんの後ろ姿を見つける。僕はサニア姉と兄さんに
「サニア姉、兄さん。母さんを見つけた。あっち!」
僕を肩車しているサニア姉と兄さんは、僕が指差した方向に向かって進む。あと少しというところまで来たとき、母さんが振り向く。サニア姉と兄さん、サニア姉の上に乗っている僕の姿を見つけた母さんは、目に涙を浮かべながら
「レイン!クラッド君!無事だったのね。本当に良かった。」
サニア姉は僕が降りられるようにその場でしゃがんでくれる。僕はサニア姉から降りると、兄さんに支えてもらいながら立つ。そんな僕たちに母さんは走って近づくと、優しく抱きしめる。母さんを少しの間そうしていたけれど、僕たちから一度離れると、後ろに立っていたサニア姉に
「あなたがこの子達を助けてくれたのね。ありがとうサニちゃん」
深々と頭を下げる。そんな母さんにサニア姉は
「私はこの国の希望を助けてくれ、っていう国王からの依頼をしただけ。てか、そのサニちゃんはやめてくれ。すごい恥ずかしい。」
すごく照れながら答えている。
(母さん、サニア姉の事を知っているみたい。それに、いつものお爺さんも言っていたけど、国の希望って僕と兄さんの事だよね。どういうことだろう?兄さんは…全然知らなそう。)
僕は母さんとサニア姉の会話を聞きながら、兄さんの横顔を見て、そんな事を考えていた。そんな中、兄さんは二人を交互に見ながら問いかける。
「さっきの爺さんも言ってたけどよ、この国の希望って何なんだ?全然理解できないんだけど…」
そこで一度僕の方を見てから、二人に向き直り
「って、レインが思ってる。」
いきなりそんな事を言われて、僕はぎょっとする。確かに僕は、兄さんの横顔を見ながら、そんな事を考えていた。だけど、兄さんの顔を見ていたのは一瞬だし、見ていた時に兄さんは僕の顔を見てすらいない。
一体全体、どうなっているのだろう。そんな事を考えていると、兄さんは僕の頭に手を置くと、髪をくしゃくしゃにしながら
「レイン、何年お前といると思っている。簡単なことならすぐにわかるぞ?」
兄さんは僕の顔を優し気な表情で見ている。そんな僕たちのやり取りを見守っている二人はひと段落したと見計らって、さっきの問いに母さんが答える。
「答えはこの鞄の中にあるわ。」
そう答えると、母さんは肩掛けの丈夫な鞄を持ち上げる。僕は気になって、
「母さん、その鞄は何?何が入っているの?」
母さんは僕の問いかけに、鞄を持ち上げながら答える。
「この鞄にはレインとクラッド君、二人がこれから持たなきゃいけないものが入っているの。だけど、ここでは見せられないものだから、後で全部説明してあげる。さぁ、もう少し前に進みましょう。」
母さんは言い終わると、僕たちに背を向けて、避難の列に加わるために進み始める。僕は兄さんに肩を貸してもらいながら、サニア姉と一緒に後ろをついていく。その時、妙に周りがざわざわし始める。そして、何人かが僕たちの後ろを指差している。
僕はいろんな人が指をさしている方向、後ろを振り返る。そこで目に映ったのは、そこそこ距離が離れているのにも関わらず、それが立ち上る一つの真っ赤な炎と、その炎を囲うように吹き荒れる緑色に輝く5つの竜巻だ。突然の光景に僕と兄さんは声を出せなくなる。だけど、隣のサニア姉はぼそりと呟く。
「あれは…フレイとテイルか。ずいぶんと派手にやってるな。」
そんな事が聞こえてきたけど、何のことかわからない僕は、聞き流し、炎と竜巻を見ることしかできない。