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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
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脅威


 レインや街の人達が逃げ出し、人の姿が周囲から居なくなった街の広場では、ミッドナイトが二人の子供を含めた街の住人を呼び出した化け物に追わせそうとし、それを老人が片っ端から消し飛ばすという攻防が続いている。

 ミッドナイトと老人がお互いを牽制しあっていた。何度目かの攻防のを繰り返し、埒が明かないと感じ取ったミッドナイトは一度化け物を呼ぶ事を中断し、目の前で自分の邪魔をしている老人に問う。

「お主、何者だ?」

 問いかけられた老人は、まっすぐミッドナイトの眼を見据えるとこう答える。

「わしは国王陛下より、宝石の2つ名を与えられし者。煙水晶のスカー。お前さんが近々、復活することを予測した国王陛下より、子供たちを守るように言いつけられた人間だ。」

 スカーと名乗った老人は話し終えると、これまでの戦闘の余波で崩れ、近くに転がっていた塀の残骸を掴み取り、力の限りミッドナイトに投げつける。

 凄まじい速度で投げられた塀の残骸は風切り音を上げながら、まっすぐミッドナイトへと飛んでいく。その残骸がミッドナイトに当たる直前、黒っぽい障壁に阻まれ粉々に砕け散る。

 それもそのはずである。ミッドナイトに対し、強力な武器を使った攻撃や高威力の魔導であればダメージを与えるはできるがすぐ再生されてしまう事は事前情報として知っていた。しかし、紫の英雄と蒼の英雄一族、その後継者にのみ扱う事が可能な、スピネルとアクアマリンの力がこもった一撃のみは再生させずに致命傷を与えることが可能だ。当然、その辺の石ころ同然である唯の塀の残骸では全く意味がない。

 スカーはあまりに予想通りの展開に静かに舌打ちをする。

「なるほど。お主、かなりの強者だな。」

 ミッドナイトはゆっくりと下降しながらスカーに対し、率直な感想を述べる。

 そのままスカーの正面に降り立つと、スカーの瞳を真っ直ぐ見据えながら続けた。

「我ばかりに気をとられていて良いのか?我は此処にいても下僕を操る事が出来るが、お主はそうとも行くまい?」

 確かに、ミッドナイトの相手をしなければならない自分は、この場から動くことはできない。町の住人たちも気になるが、この場を離れれば、子供達が危険だ。スカーはミッドナイトの言葉を受け、ミッドナイトの挙動を警戒しながらも周囲の様子を探るために、魔導力を水面に波紋を描くように、薄く広げる。 

 魔導力とは、世界中に存在する力。動物や植物は勿論、空気中や水中にも存在している。一般人が感じ取ったりすることはまずできない。しかし、騎士団に所属する人間や一部の才能ある人間、人間ではない他種族のドワーフ、エルフ、マーメイは扱える。これによって、人がどこに居るかや、何があるかをその場にいながら知る事ができる。

 スカーは、一般的な騎士団員とは比べ物にならないほどの魔導力と、それを扱う技術を有する。化け物から無事に逃げ切れた住民はどうやら避難を始めているようだ。しかし、街のあちこちで、化け物共が人を襲っていることがわかる。その証拠に、人間の魔導反応が次々に消えていく。その中には、一般人の身代わりになったであろう、国から派遣されて町の治安維持に貢献していた、騎士団員と思われる少し大きな反応も含まれる。さらに、化け物の集団は移動を始め、人間が集まっている大きな一塊の反応に向かっていた。しかも、先程逃した子供達も化け物に囲まれているようだ。

 そんな中、スカーはよく知った者の大きな魔導反応を4つ見つける。1つは子供達のそばにまっすぐ向かっている。残り3つの内1つが、避難した人間達の集団の中、残りの2つは、少し反応が鈍いが、おそらく空中であろう所をかなりのスピードで近づいている。街そのものの状況は良くないが、僅かな時間と、繊細な魔導力操作で、圧倒的不利な状況の中に、一筋の希望を見出したスカーはミッドナイトの方を向き、ニヤリと笑う。

「どうした?この状況だ。頭でもおかしくなったか?」

 突然笑ったスカーに対し、ミッドナイトは率直な疑問を投げかける。

「儂ら人間を甘く見んことだ。」

 スカーにそう言われたミッドナイトは、スカーの正面に立ったまま、下僕の視界を自分と共有していく。下僕の一体と視覚を共有すると、今まさに忌々しい力を受け継ぐ子供を襲う瞬間であった。しかし、いつまで経っても目の前の子供は闇に飲み込まれない。不思議に思っていた直後、大きな魔導力の高まりと同時に、ミッドナイトの視覚共有が切れる。さらに、その周囲にいた下僕の反応も一瞬で消えた。また、別の場所にいた下僕と視覚共有すると、ある人間が魔導力を伴った衝撃波を放ち、一直線状に進んでいる下僕を消した所だ。それに加え、空からは2つの強大な魔導力の塊が落下し、土埃を上げる。土埃がはれ、その正体をみたミッドナイトはその光景を疑った。なんと、500年前に忌々しい二人の人間と共に戦い、ミッドナイト本人を封印するまで追い込んだ、エルフにそっくりの二人組だ。

 二人のエルフは何か、人間と会話した後、残りの人間を襲うため、進軍する下僕たちの前に立ちふさがる。そのエルフたちはお互いに目配せをすると、片方は原型をとどめていた民家の屋根に登り、もう一人はより多くの下僕が集まっている正面に立ち、同時に言葉を述べたようだ。凄まじい魔導力の高まりと共に、恐ろしい程の事象を具現化する。

 屋根に登ったエルフの手から、途轍もない魔導力が籠もった5つ程の小さな緑色に輝く玉が同時に散らばっていく。そして、それぞれ最も化け物達が密集している所に着地すると、その場を中心に化け物を含めた家や街頭、道に敷き詰められた石など、あらゆる物を巻き込みながら巨大な竜巻を形成し、空中へと持ち上げ、粉々に切り刻んでいる。

 道に陣取ったもう一人のエルフは、右手に魔導力で形成したであろう赤く燃え上がる焔を纏い、勢いよく地面に突き立てる。するとどうだろうか。拳を突き立てたところから亀裂が広がり、正面の化け物の真下まで伸びる。そして、その亀裂から地獄の炎と表現するのが相応しい熱量を持った炎が噴き出す。その中にはミッドナイトが視覚を共有している下僕もいたが、あまりの温度と熱量で一瞬のうちに焼き尽くされてしまった為、視覚の共有が勝手に切れる。

 次々と下僕が消されていく。あまりにも不愉快な光景にミッドナイトは苛立ちを覚え、目の前で相変わらず、ニヤニヤしているスカーに対し

「実に不愉快な事だ。これを使いたくはなかったが、仕方ない。」

 ミッドナイトは自らがもつ禍々しい黒色の剣を逆手にもつと、空気がビリビリと震える程の魔導力を剣に込めている。ただ下僕を呼んでいた時とは段違いであり、今までのは、お遊びだったと言われても素直に信じられるような力の奔流に、スカーは口を固く結び、注意深く観察する。

 ミッドナイトは力を込め終わった剣を地面に深々と突き刺し、叫んだ。

「我を愚弄せし者共をこの世から、その髪の毛一本すら残さず、闇へと引きずり込め!影を纏いし牙の怒り!」

 叫び終わると同時に、ミッドナイトの隣の空間に亀裂がはいる。亀裂が収まって数刻、スカーは何か恐ろしいものの存在を感じ取り、すぐさま対応できるよう全身に魔導力を巡らせる。

 固唾をのんで、ミッドナイトと側の亀裂の様子を、交互にスカーが注視していたその時、ピシッと異様な音がした瞬間、空間の亀裂が窓ガラスが割れるように大きな音をたてて、崩れる。割れた空間はまるで新月の夜のように真っ暗だ。そして、その中に赤く光る6つの点が見え、それが2つ3対の目だと分かった時、スカーが感じていた恐ろしさの正体を目の当たりにする。

 それはまるで、御伽噺で地獄の番犬と評されるケルベロスのように3つの頭と筋骨隆々の体を持ち、全長は10メートルほどの黒き獣がその空間から這い出る。その赤い目からは他者に対する怒りが感じ取れ、その獣が持つ桁違いの魔導力が体から溢れ出し、体の周囲が陽炎のように揺らめいている。

 冷や汗を流しながらその獣を見ていたスカーに対し、ミッドナイトは涼し気な表情で

「コヤツは500年前、我が力を直々に与え、忌々しい者どもを追い詰めた存在よ。貴様らが言う英雄に討伐されたが、我が封印から目覚めたと同時に、復活したのだ。お主ほどの強者ならコヤツの最も厄介な点に気づくであろう?」

 ミッドナイトはさもわかって当然、というような問をスカーにする。

「お主と同じ力か…」

スカーは現状、1番違ってほしいと願いつつ答える。

「正解だ。生半可な攻撃は逆効果になることだけを教えおこう。」

 ミッドナイトは言い終わると、身体を翻し、自分の身長ほどの黒い空間を作り出しながら

「10年後にまた会おう。我が認めし強者達の末裔よ。」

 最後にそう言うと、黒い空間の中に消えていった。

 ミッドナイトを追いかけようと、飛び出そうとしたスカーに向けて、直後、ミッドナイトの拘束から開放された獣は雄叫びを上げる。そして、その目に怒りを秘め、スカーを睨む。普通の人間であれば、その目を見ただけで失神しそうなほどの恐怖があるが、歴戦の戦士であるスカーは、久しぶりの強き存在の出現に戦意を失うどころか、逆に全身に魔導力を漲らせている。スカーは足に力を込めると、目の前の黒き獣と戦うため、道に敷き詰められた石畳をその足力で踏み砕きながら、突撃した。


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