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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
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間一髪


 僕と兄さんめがけて雷が落ちてきたとき、僕はただただ眺める事しか出来ない。とっさに視界が何かに覆われる。それが兄さんの体だと分かったとき、

「させぬわ!」

 誰か分からないけど、どこかで聞いたことのある声が聞こえた瞬間、体がふわりと浮かび上がり、横に大きく動く感覚があった。少しして、僕は恐る恐る目を開ける。すると、さっきまでいた所から大人二人分くらい離れていて、雷を避けられた事に気がつく。兄さんも目をキョトンとさせて、雷が落ちたところと僕を何度も見ている。

「危機一髪じゃったわい。」

 再び声が聞こえたので顔を見上げると、そこに立っていたのは曇り空を連想させる灰色の短く刈り込んだ髪と無精ひげを生やして、スモーキークォーツみたいな瞳をしたお爺さんだ。

 お爺さんは最近、僕や兄さんの家の近所に引っ越してきた人で、兄さんは知らない。普段から母さんとよく話していて、僕にいつもお菓子をくれる。お爺さんが僕達を抱えたまま、顔を覗き込んでいる。

 さっきの浮いた感じはお爺さんに抱えられた時のもので、お爺さんが咄嗟に助けてくれたんだと僕には分かった。

 お爺さんは僕達を地面に立たせてくれると、唖然としてた広場の人達に大声で叫ぶ。

「全員、今すぐここから逃げろ!さもなくば影に飲み込まれ、永遠に苦しむことになるぞ!」

その言葉に、楽団の人達はもちろん、街の人達もパニックになり、我先にとその場から走って逃げていく。その様子を眺めていたミッドナイトは空に浮かんだまま、おじいさんに話しかける。

「ふむ。何者かが真っ直ぐ近づいている気配はあったが、まさか間に合うとはな。少しゆっくり話しすぎた。」

「間一髪じゃった。しかし、この国の希望にそうやすやすと手を出させんぞ!」

(…おじいさんは、希望とか言ってるけど、僕たちの事なの?どういう事?)

 そこまで考えたけど、ミッドナイトの声で、現実に引き戻された。

「だが、一人だとこれは厳しかろう?」

そう言うと、腰の剣を抜き取り、体の前に持っていく。

「我の下僕たる影の住人よ、光に愛された汝らの敵を残らず飲み込め!蠢く影の洗礼!」

 言い終わると同時に、剣を空に掲げた。その瞬間、裏道の奥や建物の影、挙げ句の果には空からとあちこちから見た目は人にそっくりだけど、真っ黒な化け物が出てくる。

 その化け物は自分の近くにいた人達に襲いかかっている。襲われた人達は最初、なんともないような感じを出していたけど、突然苦しむような表情を浮かべて、黒い靄に飲み込まれ、その場から消えてしまった。その光景をみた僕は、兄さんの手を強く握る。兄さんは僕の手をしっかり握り返して、

「レイン、早く逃げるぞ!」

 兄さんはそう言い、僕の手を引きながら、化け物がいない方へ逃げようとした。だけど、目の前に化け物が降りてきて逃げることができなくなる。その時、

「邪魔をするでない!」

 後ろからおじいさんの声が聞こえたと思ったら、僕達の前にいる化け物とは別の化け物が、僕と兄さんの横を後ろから通り過ぎて、体をくの字のまま飛んできた。そして、そのまま目の前の化け物にぶつかると2匹とも吹き飛んで、そのまま近くの家の壁に激突して、消えていく。僕と兄さんは後ろを振り向き、おじいさんを見る。おじいさんは別の化け物を殴りながら叫ぶ。

「お主達、はよ逃げるのじゃ。わしが時間を稼ぐ!」

「じいさん、すまない。いくぞ!レイン」

 兄さんはおじいさんに一言だけお礼を伝えると、僕の手を再び引いて、街の出口へと走り始める。僕は兄さんに引かれながらも後ろを振り向く。僕の目に映ったのは、逃げ遅れ、化け物に襲われそうになった親子を助けたおじいさんの後ろ姿だ。僕はおじいさんの背中に向かって

「助けてくれてありがとう!おじいさんも無理しないでねー!」

 力の限り叫んだ僕に対して、おじいさんは声を発さず、右手を握りしめ、空にまっすぐ掲げてくれた。


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