表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
4/14

救援へ

 話はミッドナイトが空に出現したときに遡る。

「やはり目覚めてしまったか、ミッドナイト…」

壁際に取り付けられた大きな窓から、白昼にも関わらず黒く夜のように染まった空を、見上げながらつぶやくのは、遠眼から見ても作りが上質なものとわかる衣服を身に纏った初老の男性。そして、その男性は数歩後ろで立っていた男性に対して叫ぶ。

「今すぐ騎士団、さらに紅玉をここに呼べ!緊急事態だ。」

 側近はその命令を聞くや否や、その空間から消えるようにしていなくなる。


 男性の指令によって、国王が有事や催事の際に使用し、現在は多くの騎士団員が集まっている謁見の間だが、集まった騎士団員達の様子がおかしい。周囲の団員とひっきりなしにコソコソと話し合い、妙にざわついている。騎士団に入団した時に、謁見の間まで呼ばれる事は非常事態を意味することを騎士団長が教えてあるはずだ。にもかかわらず、現に話し込んでいる。

 側近の男性は怒りを顕にし、

「この場で話し込むとは何事ですか!誰か、国王陛下に説明していただきたいものです。」

 ピシャリと言い放つ。途端に騎士団が静寂を取り戻し、一人の団員がツカツカと前に歩み出た。

「陛下、大変申し訳ありませんでした。落ち着きを失っていた理由は、僭越ながら私からさせていただきます。実は、団長が不在なのです。」

 国王は眉をひそめ、その団員に尋ねる。

「む?どういう事だ。残念ながら緊急召集は休暇が関係無い事をあの男ならば、知っておるはずだが…」

「もちろん、団長は知っています。実際、本日は休暇でしたので、ご自宅に向かわせていただきました。しかし、ご自宅にも居られず、奥方さまに居場所を伺ったところ…」

 団員が場所を言おうとしたその時、謁見の間に繋がる大きな両開きのドアが乱暴に開け放たれる。騎士団が各々武器に手をのせる仕草をするが、国王が止めさせる。そうして、謁見の間に入ってきたのは金色に輝く長い髪に、ルビーを連想させるような赤い瞳を持つ美しい女性だった。

 その女性は、腰にさしている二振りの剣をメイドに預ける。呆気に取られている騎士団を無視し、間を抜け、自分を呼び出した人物の前まで来ると、

「このあたしを呼び出すなんて、いったいどういう事か説明しやがれ。国王さん。」

 もはや睨みつけるかのような眼差しで、周りの騎士団、更には自分を呼び出した国王本人を見て、その女性は敬うことすらせず言葉を口にする。

 騎士団の面々は、その女性が何者かは十分に理解しているが、そのあまりにも無礼な物言いに周囲の騎士団はざわつき、この国のトップであり、自らの主を軽視した態度に怒りの感情を露わにするが、当の国王自身が

「構わん。一方的に呼び出したこちらに非がある。」

一言発し、自分のことをそれほどまでに慕ってくれる騎士団を静まらせる。

 国王は静まったことを確認すると、先ほどの女性からの質問に答えるべく、口を開く。

「単刀直入に依頼する。銀髪で黄色の瞳をした少年と、淡い赤髪で若草色の瞳をした青年の二人を救出して欲しいのだ。」

 国王は言い終わると、自らその女性の前に進み、頭を下げる。

 国のトップがたった一人の女性に対して頭を下げるという前代未聞な状況ではあるが、事があまりにも重大で判断が遅れれば遅れただけ、状況が悪くなることを知っていた国王は周りの反応などお構いなしに頭を下げつつける。

 静寂が広間を埋め尽くしたとき、女性が口を開く。

「2つ聞きたい。まず一つ目は、なぜそこまで容姿がはっきりしている子供二人なのか?二つ目は私ほどの人間じゃなきゃいけないなら煙水晶や翠玉、金剛でもいいんじゃないか?」

 これまでも何度か、国王直々の仕事を受けてきた彼女は、今回の依頼が救出だけとはいえ、今までの依頼とは一味も二味も違い、かなり難しい物であることを直感的に感じた。

 そのため、時間があまり残されていないことは薄々分かっていたが、自分の疑問を解消しないままでは依頼を受けないと遠回しに国王に宣言する。

 国王は女性の疑問を解消し依頼を受けてもらうべく、女性の赤き瞳をまっすぐに見据え、答える。

「この国の民ならば、私含め知っている500年前の物語は実話なのだ。そして、紫と蒼の英雄は当時、厄災を倒すことが出来ず封印した。その時の厄災であるミッドナイトがたった今、長き眠りから覚めたのだ。」

 この事実を知らず、この場に集められた騎士団は驚き、息を呑む。そんな中、女性と国王の側近は最初から知っていたかのように、無表情のまま次の言葉をまつ。国王は広間が落ち着いたのを確認すると、さらに続ける。

「紫と蒼の英雄は後々、ミッドナイトが封印から開放されることを知っていた。だから、自分達が使えた宝石の力を代々引き継ぐ事にしておった。そして、今その力を受け継いでいる存在が、先程救出して欲しいと頼んだ少年と青年なのだ。ミッドナイトは真っ先にその二人を消すために動くであろう。」

 そこで、一度国王は言葉を切り、その女性でなければならない理由を話し始める。

「もちろん、お主の師である煙水晶、お主の同期である翠玉、金剛でもいいような話であるが、翠玉と金剛は別件で手が離せんし、煙水晶はすでに現場にいる。」

そこで、国王は先程の団員に問いかける。

「それで、騎士団長の行方は奥方が教えてくれたのであったな。一体どこに居るのだ?」

「煙水晶様が滞在されている街に買い物に行っているとの事です。」

 国王はその答えを聞き、右手で額を抑える。それもそのはず。その街とは現在進行形でミッドナイトが出現し、今から国の戦力を派遣しようとしていた街だからだ。

「すまぬ、紅玉のサニアよ。煙水晶の他に騎士団長もいるようだ。改めて二人の助太刀と、子供達を含めた街の住人の救出を指名依頼として依頼させてもらう。」

 予期せぬトラブルはあったが、国王は予め予想していた質問に対して話し終えると、再び頭を下げる。周囲の兵士達はこの状況の中、サニアがどのように答えるのか注視している。

 突如として、サニアは国王の前からスタスタと離れていく。周りの兵士達はサニアは依頼を受けないのかと驚愕していたが、国王は安堵した表情を浮かべ、サニアを見続ける。サニアは広間に入る際に預けた自分の二振りの剣をメイドから受け取ると、国王の方を向き直り叫んだ。

「その依頼、紅玉のサニアが引き受ける!」

叫び終わるや否や、謁見の間に突風が吹き荒れる。その場にいた誰もが風の強さに目を瞑る。そして、再び開けたときにはすでにサニアの姿はどこにもなく、扉は開け放たれていた。

 サニアを送り出せた事を確認した国王は、周囲の騎士団に命令を下す。

「ミッドナイトが現れし街からは多くの避難民が押し寄せる。混乱が起きないよう諸君らは先頭にたって、救援及び誘導するのだ!」

「「「は!」」」

 国王から命令を受けた騎士団は、敬礼を終えるとバタバタと慌ただしく謁見の間を出ていく。

 謁見の間が国王と側近、数名のメイドのみとなった。

 国王はその事を確認すると、予め用意しておいたであろう書状を側近に手渡す。そして、告げる。

「そなた達には別の任務を与える。この書状をもち、マーメイとドワーフに連絡!500年前の厄災が再び我らの元に襲来した。力を貸してほしいと伝えよ!」

「御意」

 側近はその一言を残し、数名のメイドを連れ、音もなく全員広間から出ていく。

 それを見届けた後、国王は別の手紙を用意すると、王家に代々契約され続けている使い魔であり、相棒たる鷲にその手紙を預ける。その鷲は国王の手紙を受け取り、ミッドナイトが現れた街とは反対方向。海の方角目指して飛び立つ。

「間に合ってくれ…」

 一人になった王は、鳥が飛び立った方角を見ながらボソリと呟く。


 同時刻、レインが家を飛び出した後、レインの母は家事に戻る。そして、最後にリビングで朝のうちに取り込んでおいた洗濯物を畳みながら

「できることならば、どうかあの子たちにつらい使命を押し付けずに済みますように。」

半ば祈りながら、誰に言うでもなく呟く。

 そのまま畳み終えた洗濯物を片すために、立ち上がった時、ハッとしたような顔でせっかく畳んだ洗濯物を放り投げ、自分が使っている部屋に走って向かった。その後、部屋のドアを勢いよく開けて、真っ直ぐに部屋の中に設置してある机へと向かう。

(お願い…どうか気のせいでいて。)

 半ば祈りながら、いつも首から下げている鍵を取り外し、その机の一番下、鍵のかかった引き出しを開ける。  

 その中には、錆があちこちに付着し、変色した赤銅色の腕輪と、鉄紺の腕輪が入っていた。しかし、腕輪の隣に置かれている紫色と蒼色の宝石は、とても眩しく光り輝いていた。あまりの眩しさに、目を背けたレインの母は、それでも2つの腕輪と2つの宝石を拾い上げ、机の上に置いてあった、丈夫そうな鞄にしまい込み

「こうしてはいられないわ!早くレイン達のもとに向かわなくちゃ!」

 その鞄を抱えたレインの母は、家の玄関から慌ただしく外に出る。レインが出かけたときとは打って変わって、空は黒ずみ、風も生暖かく、皮膚に張り付くような薄気味悪いものへと変化している。レイン達の元に向かおうとした時、後ろから声がかけられる。

「待つんじゃ!」

 レインの母がとっさに振り返る。そこにいたのは、短く切り揃えられた白髪に、丁寧に整えられた短い顎髭を蓄えた初老の男性だった。

「スカー様!?なぜ止めるのですか!早く行かないと」

レインの母は矢継ぎ早に叫ぶ。

「慌てるでない!」

 スカーと呼ばれた男性は、一喝するかのようにピシャリと言い放った。レインの母はビクリと体を震わせ、落ち着きを取り戻す。

「戦えぬお主は先に避難せい。子供たちは儂が責任を持って助けよう。それに、今起きている事は、国王陛下もきっと知っておる。すぐに助けも来るであろう。」

スカーはそう続けると、

「天地燿照流、瞬閃!」

叫ぶと同時に、レインの母の横を一瞬で通り過ぎていく。

「どうか、あの子達をよろしくおねがいします。」

 レインの母は、スカーが向かった方に軽く頭を下げると、自分は街の出口へと走って向かい始める。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ