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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
2/14

再開


「やっぱりこの本は何度読んでも面白いなー。」

 母さんが作ってくれた朝ごはんをリビングで食べ終えて、本棚から持ってきた本を読んでいた僕は、思わず感想を漏らす。この本は大昔にあった大きな戦いの話で、国の人ならみんな知っている有名な物語。僕は昔から壁にかかっている、国の大きな地図の方を向いて、ぼんやり考える。


(えっと、ミッドナイトと英雄さんが戦ったのが、四つの大きな陸地に囲まれて、海に浮かんでいるあの小さな島でしょ。で、僕がいるのがその島から見て、すぐ南の陸地のあのあたりって母さんが教えてくれて…) 


「レイン?レインー。」

 そこまで考えたところで、声がかけられた。僕ははっとして、周囲をキョロキョロする。

 声をかけてきたのは僕の母さんだった。キッチンで食器を片付けていた母さんは

「クラッド君と約束があるんでしょ?」

 僕にそう告げた。

 母さんが言うクラッドは、僕にとって兄さんみたいな人だ。だから、僕は兄さんと呼んでいる。去年の春に、王都にある学校に通うからって、王都に引っ越している。それで、学校が長めの休みに入るから、今日の朝一に広場で待ち合わせをしようって手紙が、3日前に届いた。ちなみに、血がつながった兄弟じゃなくて、母さんの親友だった人の子供らしい。なんか色々あって、僕と一緒に過ごしてたってのを、兄さんが引っ越す前に母さんに教えられた。


「はっ、そうだった!今日は久しぶりに兄さんと遊べる日だ。こうしちゃいられない!」

 僕は、慌てて椅子から降りると、ついさっきまで読んでいた本を本棚に戻して、自分の部屋に、昨日のうちに用意していた荷物を取りに戻る。部屋から兄さんがくれたバックをもって、バタバタと玄関に向かう。靴を履いた僕は、見送りに玄関まで来てた母さんの方をふり返って

「僕は兄さんや昔の英雄みたいにかっこいい人になれるかな?」

ふと気になった事を聞いてみた。

母さんは僕のほうに向かってきながら

「なら、まずは約束を守らないといけないわね。気をつけてね。」

母さんは僕の頭に手を載せて、笑顔で言ってくれた。

「うん!行ってきます!」

 僕も満面の笑みを浮かべて答えて、玄関から外に出た。

 空は雲一つないきれいな青空だ。僕は大きく一回深呼吸をして、両手で握り拳を作って、空に伸ばしてから、走って兄さんとの待ち合わせ場所に向かった。



 僕は、息を切らしつつも兄さんとの待ち合わせ場所にしている、広場までどうにか来れた。流石に、息が切れて苦しい。

「おや?レインじゃないか。どうした?そんなに息を切らして。」

 不意に声がかけられて、僕は息をどうにか整えてから、声のした方を向く。そこには、いつも母さんが買ってくるパン屋のおじさんが立っていた。

「おじさん、おはよう。おじさんこそどうしてここにいるの?」

 おじさんの店は、この広場から結構離れている道沿いにある。僕はその事を知っていたから聞いてみた。

「いやはや、日課の散歩をしてたら、懐かしい顔を見つけてしまってな。ついついそいつと話し込んでたところだ。」

おじさんはいい笑顔で答えてくれる。


「懐かしい顔って…」

誰?と僕が聞こうとしたとき、後ろから声がかけられる。

「遅刻だ、レイン!」

 そんな事を言いながらも、全然怒っていない4歳年上の兄さんは、いつの間にか僕の後ろに立っていた。僕は兄さんの方を振り向くと

「ごめん、兄さん。本が面白くてつい。」

遅れたわけを話す。すると兄さんは、僕の頭に手を載せて、引っ越す前からいつもやってくれたように、髪をくしゃくしゃにしながら

「またあの本読んでたのか?全く、何かあったのか心配したんだぞ?」

って言ってきた。

 そして、一度僕の頭から手をよけると、屈みこんで僕と同じ目線になり、さらに続ける。

「ま、お前の髪とその目を見た瞬間、そんな心配もどっかにいっちまったけどな。」

 そう言うと、兄さんはニコリと微笑んだ。僕は兄さんに笑顔で答える。

「ごめんなさい、兄さん。でも、髪と目で目立つのは兄さんもだよね?」

 僕は空に浮かぶ雲みたいに白い髪にトパーズそっくりな澄んだ黄色の瞳をしているって兄さんが言ってくれた。そんな兄さんは朝焼けみたいな淡い赤色の髪にペリドットかと思えるくらい綺麗な若草色の瞳をしている。

 僕と兄さんの髪の色も眼の色も、他の人たちと違って、目立つから人混みでも絶対に迷子にならない自信がある。

 ちなみに、兄さんが引っ越す直前に母さんから教えてもらったことだけど、僕の髪色と眼の色は紫の英雄と、兄さんの髪色と眼の色は蒼の英雄と同じみたい。

 僕はその時なんでそんなこと知ってるの?って聞いたけど、母さんは次、兄さんが帰ってきたら教えてくれるってその時約束してくれた。今日は兄さんと遊んだあと、一緒に晩御飯を食べる予定みたいだから、その時かな。

 そこまで僕は考えて、今日兄さんが帰ってくるとは聞いてたけど、何をするかは聞かなかったから

「兄さん、今日は何するの?」

ワクワクしながら聞いてみた。

「ここでレインを待っているときに、おっちゃんから聞いた話なんだが、この先の広場で、あちこち旅をしてきた楽団が来ているらしい。しかも、その楽団のメンバーにはドワーフにエルフ、マーメイの人たちもいるらしい。」

 兄さんは立ち上がると、おじさんを見ながらそう言う。

「俺もクラッドと会う前に話を聞いてな。レインと会う約束があるなら丁度いいんじゃないかって、提案したんだ。王都やその周辺の都市ならともかく、この辺りにその三種族が来るのは珍しい。」

おじさんはそれだけ言うと、回れ右をして

「それじゃあな、二人とも。店に来たらサービスするから来てくれよ?」

そのまま自分のお店に走っていった。

「さてと、おっちゃんの店には後で行くとして…レインはどうしたい?」

 兄さんは、僕がどうするかわかっているくせに、わざわざ聞いてくる。

「当然!早く行こう!僕、ドワーフやエルフ、マーメイの人達の事は母さんから話を聞いただけで、見たことないんだ。」

 僕は兄さんの手を取って、そう言いながら手を引く。

「わかったからそう焦るなよ。転んで怪我でもしたら、おばさんになんて言えばいいか分からないだろ?」

 兄さんは僕に手を引かれながら、そんなことを言いつつも、笑顔で僕の後をついてきてくれる。



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