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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
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帰還と再会


 レイン達をのせたワイバーンの部隊が、馬車に乗り込んだ町の生き残りや、兵士たちよりも一足先に王都の空へと到着する。

街を出た時には、まだ西の空に傾き始めたばかりの太陽も、今は更に傾き、夕焼けになっている。

ヴィシムがワイバーンの背から、眼下に広がる王都の町並みを眺める。そこには、夕食の買い物でもしているのだろう。露店が立ち並び、老若男女が買い物を楽しんでいる姿が見えた。ふと、そこで何か思う事があったのだろう。

ワイバーンの騎手に

「王都から援軍に来たのだと思うが、あれだけの数の兵士の移動は、流石に目立つ。なのに、王都の様子が変わらないのは何故だ?」

そう質問する。

ワイバーンの高度を徐々に下げながら、ワイバーンの騎手は

「騎士団長はご存知かと思われますが、私達ワイバーン隊は、定期的に訓練と言うことで、王都の上空を飛んで遠征に向かいます。今回の援軍派遣も、出発前に、隊長が一報を入れてあるので、市民はいつもの訓練だと思われています。」

また、とその騎手は続ける。

「地上を進んできた一角隊、地竜隊、爽鳥隊は正門ではなく、騎士の宿舎近くにある騎士専用の通用門から出てきました。その際、宰相様や魔導師団の力添えのもと、魔導で目立たない様にしていただきました。」

そう答え、別のワイバーンの騎手に手を振り、合図を送った。

どうやら、このままワイバーンの発着場としてではなく、兵士たちの日常訓練に使われている広場に着陸するようだ。

「なるほど。あそこか。それに魔導師団も手を貸してくれているとは有り難い。」

騎士団長であるヴィシムは、騎士専用の通用門という言葉で、どのようなルートを通ってあの街まで騎士が向かってきたか理解する。


魔導師団は、自分が率いる騎士団と直接的な関係がなく、城内では基本、姿を見せることがない。ほぼ唯一顔を見るのは、魔導師団長と会議の場に出席したとき程度だ。部下の騎士の中には、魔導師団の団員とすら顔を合わせたことのない者もいる。そんな、表立って動く事がない魔法師団が幾ら、国王陛下と宰相の指示とはいえ、ここまで大々的に手を貸してくれた事は殆ど無かったので、感謝の言葉を無意識のうちに漏らす。


(休暇だからと、剣以外を置いてきてしまったのは、やはりまずかったか……。しかし、魔導師団のおかげで無事に戻ってくる事が出来た。何か詫びの品でも持っていかねばならないな。).


そんな事を考えているうちに、すべてのワイバーンが着陸する。一番最後にワイバーンから降りたヴィシムは、ここまで自分達を運んでくれたワイバーン隊の面々に、深々と頭を下げながら

「有難う。君たちの迅速かつ勇気ある行動に感謝する。」

と伝える。

ヴィシムは剣を体の前に持っていき、そのまま鞘を掴んで、胸に手を当てるという騎士団特有の敬礼をする。

それに答えるべく、ワイバーン隊の騎手はワイバーンの上半身を上げさせ、二本立ちにさせた。本来ならばこの時、ワイバーンは声高々に雄叫びを上げるが、レインが寝ている事を考慮してか、鳴くことはなかった。その後ワイバーン隊は飛翔し、発着場の方へ飛んでいく。

宰相は、全員が降りたことを確認するとスカー、サニア、ヴィシムを順番に見ながら

「皆様、お疲れのところ申し訳ありません。スカー様、サニア様、ヴィシム騎士団長は私と一緒に、国王陛下の元に1度、ご同行願います。他の方々は、こちらに居るメイドと共に行動していただきます。」

そこで一旦切り、一緒にいたメイド達を呼び寄せ、何か指示を出す。

指示を出し終えた宰相はスカー、サニア、ヴィシムを連れて城の中へと入っていく。

「皆様、私達がご案内します。」

メイド長と思わしき人物がそう話す。その言葉に合わせ、残ったメイド達が一糸乱れぬ動きでお辞儀をする。

そのまま残りのメンバーも、メイドの後について王城の中へと入っていく。




一足先に王城の中へと進んだサニア達は、宰相の後について行き、ただ黙々と歩いている。曲がり角を曲がったときだ。

「あ、お姉ちゃん!無事だったんだね!」

とてもハキハキとして、元気が有り余っている事が分かる声で、話しかけてきた人物がその先で立っている。

その人物は、首筋で切り揃えられた、若草色の髪を持ち、エメラルドグリーンの澄んだ瞳をサニア達に向け、手を大きく振っている。

「ルーじゃないか!別件は終わったのか?」

サニアは城を出る時に、国王から別件で出払っていると聞いていた為、近づくルーに思わず尋ねる。

「勿論!私は翠玉のルーだよ。あんなの朝飯前に決まってるじゃん!あいた…」

「何が朝飯前だ。俺が間に合ったからだろ…」

ルーの後ろから一回り程背の高い男が、ぬうっと現れて、ルーの頭に手刀をしながら歩いてくる。

その男は、短く切られた白銀の髪を後ろ手に固めて、透明度が高く、透き通った片側のみの瞳でルーを見ている。もう片方の瞳は昔の傷であろうか、額から頬まで伸びる傷跡で潰れてしまっている。

「げっ!お兄ちゃん…」

「何がげっ!だ。お調子者が。」

そのままルーの頭に当てた手刀を解くと、優しくひと撫でして、

「よぉ、サニア。無事みたいだな」

と、サニアに話しかける。

「ルーがいるから、もしかしたらお前も居るかと思ったけど、そっちも無事で良かったよ。ヘイール。」

サニアもヘイールの無事を確認すると、声をかけた。

「声で何となく察したが、随分とピンピンしてるようじゃのう。こちらは死ぬかもしれん状況じゃったというのに…のう、ヴィシム」

「師匠、陛下の指示となれば、2人の力が必要となった状況。終った今は、はしゃいでも良いのではないのですか?」

サニアの後ろから、ルーとヘイールの両名に聞こえるようわざとらしく話しながら、スカーとヴィシムが続いて出てくる。

「流石はヴィシム騎士団長!分かってるじゃん。おじじは固すぎるのがほんとに困るんだよね~。」

 ルーは、おちゃらけた様子でニコニコしながら、ヴィシムの肩をもつ。

「いや、お前はさすがにノリが軽すぎると思うが…。」

「全くだ。もう少し落ち着いてほしい兄の気持ちも考えてほしい。」

 そんなルーを見ながら、やれやれといった具合で、肩をすくめながらサニアとヘイールは同時に呟く。

 そんな中、今まで声を発しなかった人物が声を上げる。

「皆様、ご歓談の最中で申し訳ありませんが、此度の件で各種族代表の方々がこの先でお待ちです。そろそろご移動願います。」

 宰相はそう言うと、全員に移動を促す。

「そうじゃな。国王陛下には直接お伝えせねばならぬ事もある。ほれ!バカ弟子ども移動じゃ。」

 スカーはそう言って、そそくさと進んでいく。その後について全員が移動し始めようとするが、ただ1人立ち止まる人物がいた。

「ルー?どうした早くいくぞ。」

 ヘイールは振り返り、その人物の名を呼んだ。

「うーん…。私はいいや。お兄ちゃんが説明して。私は別の用事ができたから。」

 ルーはサニア達が歩いてきた道をじっと見つめたまま、そう呟く。

「…わかった。」

 ヘイールはそれだけ言うと、先に進んでしまったサニア達を早足で追いかける。

(…う~ん。なんか不思議な感じがするんだよね。何だろうこの感じたことのない魔導力。お兄ちゃんにはわからないみたいだし、ちょっと行ってみよう!)

 ルーはバタバタと反対方向に走り出す。


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