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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
13/14

ひと時の落ち着き

 テイルの魔導が壊れ、レインに化け物の魔導が直撃する直前で、レインの体が紫色の光に包まれた。そして、レインだけでなく自分たちや、他の一般人めがけて降ってきた魔導も一瞬のうちに消え去った。レインを包み込んでいた光が収まると

「おいおい…なんだありゃあ?」

サニアが呟く。それもそのはずである。

 レインの体から先程の光と同じ色をした荒々しい翼が背中から、靭やかな尻尾が生え、両手足に鋭い爪をもつ手足、頭には2本の角が出来ている。それこそ、500年前の紫の英雄の姿そのものだ。おそらくレインであろうその存在は

「さて、パパとこの子との約束、守らなくちゃね!」

 女の子の声で話すと、サニア達、いや正確にはその後ろにいる化け物を睨みつけ

「ワンちゃん、貴方のご主人様の所に帰ったほうがいいんじゃない?」

挑発するかのように、大声で話しかける。

 化け物は相当頭にきたのだろう。今まで1つの頭からしか吐き出していなかったブレスを3つの頭全てから吐き出してくる。途轍もない破壊力をもった攻撃に、遠く離れたサニア達ですら怯み、動くことができない。しかし、レインと思わしきその存在はスタスタと歩き、サニア達の前まで来ると

「今の貴方は不十分。万全な状態にならない限り、何も効かない。」

そう言い、おもむろに右腕を上げると、振り下ろす。紫色の爪から紫色に輝く斬撃が飛んでいく。

 その斬撃は化け物が吐き出した3本のブレスと真っ向からぶつかる。そのまま止まることなく貫通し、いとも容易くブレスを消し飛ばす。

 化け物は危機を感じたのであろう。紫の斬撃から逃れるべく、大きく上に飛び上がる。しかし、一歩遅かったようだ。斬撃は化け物の体の半分ほどをいともたやすく切り飛ばし、そのまま遥か彼方へと飛んでいく。体の半分を失い、バランスを崩した化け物は当然、うまく着地することはできず、地面へと墜落する。失った体を再生するため魔導力を放出するが、全く再生していない。

「残念。全部消せなかったなー。」

まるで遊んでいるかのような口調で言葉を発するその人物を前に、唯々見ていることしかできないサニア達。

 身動きの取れない化け物は再生することを諦め、その場から逃げるように地面に魔導力で黒い穴のようなものを作り上げる。逃がさないとでもいうかの如く駆けだすレインであろう存在であったが、ふと足を止め

「あちゃ~。時間切れかな?」

そう呟く。その声を聞き、どうゆう事かと、サニア達がすぐ前に目線を移すと、体のあちこちから出ている翼や尻尾の輝きが次第に薄くなっている。追撃が来ないと察した化け物は完成した黒い穴に飲み込まれる。化け物が居なくなった途端、それまで真夜中の如く黒ずんでいた空が明るさを取り戻し、少しだけ西の空へと傾き始めた太陽が顔を覗かせる。日が出ていなかった間、非常に長く感じた時間であったが、それほど時間が進んでいなかったのだ。当のレインと思わしき人物は化け物がいなくなったことを確認すると、何事もなかったかのようにレインの母のもとへと近づく。そのまま耳元で

「今回は特別だからね?」

 周りに聞こえないようにこっそりと呟く。それを聞き、レインの母は深々とおじぎをする。そして、元のレインに戻る直前でその存在はクラッドの眼を見ながら

「君も頑張ってね。」

そう伝え、紫の宝石の輝きが収まると同時にレインが前のめりに倒れる。そのレインをレインの母が受け止める。

「どうやらこの子のおかげで、わしらは命拾いしたようじゃな。」

 ゆっくりとレインのもとへと歩み寄り、優しく頭をなでるスカー。そのタイミングで国王陛下からの手紙を受け取り、結成されたであろう各種族の連合軍が、空からワイバーンで、陸では地竜、走鳥、一角馬と多様な生物とともに、たくさんの馬車を引き連れてその場へと到着する。

「皆様、遅くなりまして申し訳ございません。王都へと我々が案内しますので、馬車に乗り込んでください。」

 いかにも執事という服装をした初老の男性が、数人のメイドと思わしき女性を引き連れ、告げる。

 先ほどまで目の前で起こっていた事象に、半ば放心状態の民間人や兵士たちは、その声を聞き我に返り、馬車に乗り込んでいく。その中、先ほど声を上げた男性をスカーが手招きで呼び寄せる。近づいてきたその男性にスカーは

「この子がスピネルの力を発動した。今はその反動で動けない状態じゃ。状況説明を陛下にもせねばならん。」

そう伝える。

 話を受けた男性は一度驚愕した表情を浮かべるが、すぐに頷く。そして、空に向かって合図を行い、ワイバーンの部隊を呼び寄せる。ワイバーンの背に乗り、ワイバーンを操っている者に向かって

「ここにいる方達を至急王城までご案内せよ。」

「「「はっ!」」」

 指示を出したその男性はスカーと魔導力切れを起こし、フレイに支えられているトルネを見ると

「少々無理をなされたようですね。これを。」

 服のポケットから小瓶を二つ取り出し、

「ポーションです。少しは体が楽になります。」

手渡し、飲み始めた事を確認すると反転し、

「それでは皆様、出発しましょう。私を含めたこちらの者が魔導を使いますゆえ、道中の風圧や揺れ、転落の心配は御無用です。」

 そのままワイバーンの背に乗っていく。もちろんメイド達はそれぞれ別のワイバーンに乗り、準備をしていく。眠っているレインと、レインを背負っているレインの母と共に同じワイバーンに乗ったクラッドは

「おばさん、後で全部教えてくれ。何も知らないのは悔しいんだ。」

レインの母にそう言う。

「わかったわ。」

レインの母はそれだけ言う。

 どうやら他のメンバーも準備ができたようだ。ワイバーンの騎手が合図を行うと、それぞれのワイバーンは短く鳴き、一斉に飛び上がる。そのまま編隊を組んで、それまでの街を離れ、王都の王城へと飛んでいく。


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