力の解放
「だー。キリがねーな!天地燿照流、二連風牙!」
サニアは技を繰り出す。
「紅玉、俺も合わせる!天地燿照流、風牙!」
合わせるようにヴィシムも技を繰り出す。
合わさった2つの技は、激しい戦闘で散らばった障害物を、いとも簡単に切り裂きながら、3つの牙となって化け物に飛んでいく。そのまま化け物の体を貫通し、遥か彼方へと向かっていく。しかし、大きく抉られたその傷さえもすぐに再生される。化け物はスカーとの戦いで、魔導力を補充したせいであろう。スカーが最初予測した魔導力の枯渇は訪れず、半ば永遠に再生されている。
「サニア、おやっさん、そこをどけ!」
フレイが二人に叫び、サニアとウインは同時に左右に飛ぶ。
「我、汝の呼吸を持って、我が敵を焼き払わん。炎聖霊の息吹!」
フレイが詠唱をし、熱風という言葉が生温く感じるほどの熱量をもった風を、化け物に放つ。その風が通った道は黒く焦げ付き、進路にあった木箱は一瞬で炭になる。流石に化け物も焦ったのだろう。迫ってくる風を前に、前足を地面に叩きつけ、魔導力で壁のような物を作り出す。それにあたったフレイの魔導は、熱量がどんどん失われていく。どうやら防ぐどころか、どんどん魔導力を吸収しているようだ。化け物から魔導力が溢れ出ている。
「まずった!」
フレイが気づき、魔導を強制終了させるが、一歩手遅れだ。フレイの魔導を吸収した壁がみるみる小さくなり、球体のような形状になったかと思えば、その瞬間、球体から黒いレーザーの様な物がフレイ目掛けて発射される。その速度はとても早く、サニアとヴィシムがフレイを助けようと動くが間に合わない。自分の後ろには民間人が居て、逃げられない。
相打ち覚悟で魔法を使うべきと判断したフレイだったが
「フレイ!!そこから避けてください!」
後ろからこの世で最も信頼している声が聞こえ、化け物の魔法に当たる直前、ギリギリの所で避ける。
フレイを狙った魔導は、フレイの横を通り過ぎ、真っ直ぐ飛んでいく。その時、再び声が聞こえる。
「風聖霊の弾丸!」
緑色の魔導力で作られた、化け物の魔法よりも少し大きい球体が、周囲のゴミや、家の玄関先にあったであろう花壇などを吹き飛ばしながら飛んでくる。そのまま化け物のレーザーのような魔導とぶつかり、爆発音と共に風が吹き抜け、相打ちになる。風の強さにフレイは思わず顔をそむけ、目を瞑る。そんな中
「こちらの事は気にせず、思う存分暴れてください!」
声の主にフレイが顔を向けると、そこには手をこちらに真っ直ぐ伸ばして、魔導を放った状態のテイルが居た。トルネの言葉を聞き、フレイは
「おうよ!」
一言叫ぶと、すぐさま立ち上がり、化け物の気をそらすために、動き回っていたサニアとヴィシムのもとへ駆け出す。
「あの規模の魔法を一撃で消すなんて…すごいな」
兄さんが僕の隣でボソリと呟く。僕も心の中で同じ事を考えていた。でも僕はテイルさんの魔導もだけど、フレイさんが戻るまで、さっきから化け物相手にたった二人で立ち向かっているサニア姉とヴィシムおじさんもすごいと思う。化け物の攻撃をギリギリのタイミングで躱して、すぐさま反撃の技を使って攻撃している。その流れもすごく綺麗で、まるで踊っているみたいだ。そう思って見ていると、化け物が、今まで僕が聞いたことのないような声を上げて、黒い空に向かって何かを吐き出した。その声に反応して、サニア姉とヴィシムおじさん、それにフレイさんが動きを止めている。そして、
「お主ら!こっちにこい。そこに居ては死ぬぞ!」
「テイルー、全力で壁の維持をしろー!」
おじいさんが、耳が痛くなるくらいの大声で、ヴィシムおじさんが離れていても、よく聞こえる声で同時に叫ぶ。そのまま、三人は全力で此方に向かって、走ってくる。その時、僕らを守るために使われているテイルさんの魔導に何かがあたって、すごく大きな音をたてる。それだけじゃない。魔法に当たらなかったのか、地面にぶつかった衝撃で地面が揺れて、僕は思わず転んだ。
何が起きたのか知りたくて、ふと頭上を見上げる。そこには黒い空から幾つも雨のように、黒い塊が降ってきていた。次から次へとテイルさんの魔導に当たると、嫌な音を立てている。
「テイル!どうにかならねーか?」
いつの間にか、近くに来ていたフレイさんが聞いている。
「正直かなり厳しいです。こちらも全力で魔導力を込めていますが、このままでは押し切られます。」
流れてくる汗を拭わずにテイルさんは必死な顔でそう答える。
「私が出るしかねーか…」
サニア姉がボソリと呟く。
「それは駄目だ!」
おじいさんが怒鳴り声を上げる。
おじいさんは
「この魔導の雨の中、なんの防御もなしに突っ込んだら、命を失うぞ。」
化け物と空から降ってくる黒いものを交互に見ながらサニア姉につたえている。そうして、結論が出ないうちにテイルさんがフラフラしだして、前に倒れる。それをフレイさんが受け止めて
「おい、テイル!大丈夫か!?」
必死に呼びかけている。
「えぇ、なんとか…しかし、もう防壁魔導を維持できるだけの魔導力がないんですよ。」
そう言い終わると、ミシっていう音が聞こえた。
僕がその方向を見ると、トルネさんの魔導にヒビが入っている。当然僕だけじゃなくて、兄さんや母さん、街の人達に兵士の人達、もちろん前で話し合っていたサニア姉達も気づく。もう守ってくれる魔導が切れかかっている事実にもう諦めの表情が皆に浮かんでいる。
その時、頭の中に声が聞こえてきた。
(ねぇねぇ、皆を助けたい?)
僕は不思議に思って周りをキョロキョロするけど、話しかけてきた人はいない。
「兄さん、母さん、なんか喋った?」
二人に聞いてみるけど、二人とも首を横に振っている。
(無駄だよー。だって君にしか聞こえないもん)
よく聞くと、小さな女の子みたいな声をしているのがなんとなくわかる。
(で、どーするの?皆を助けたい?)
再び僕に聞いてくる。僕は心の中で
(助けたい!どうすればいいの?)
声の主に聞いてみる。
(それじゃあ、紫の宝石をオレンジ色の腕輪にはめて。それは君のお母さんの鞄に入っているから)
そう言われて、僕は母さんに
「母さん!紫の宝石とオレンジの腕輪を僕に貸して!」
母さんは一瞬キョトンとしていたが、すぐに真顔になって鞄の中から凄く眩しく光る紫の宝石と、鉄が錆びついたようなオレンジ色の腕輪を渡してくれる。
「レイン、皆を助けてちょうだい。」
それだけ言うと、僕と手をつないでいた兄さんを僕から遠ざけて、母さんも少し下がる。
(そしたらね、腕輪のくぼみに宝石を嵌めて宝石開放って、叫んで。)
その時、遂にテイルさんの魔導が壊れる。そこを狙ってか分からないけど、僕めがけて黒い塊が降ってくる。兄さんがこっちに飛び出したけど、それを母さんが腕を掴んで止める。
「宝石開放!」
それを言った途端、腕輪にはめてある紫の宝石と、腕輪の錆が取れて夕焼け空みたいな色に腕輪が光り輝く。それを見ながら僕の意識は無くなった。




