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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
11/14

天地燿照流継承者の戦い

 ヴィシム、テイル、フレイ率いる集団が、レイン達の集団と合流し、会話を始めた頃、ミッドナイトは姿を消し、スカーとミツ首の化け物が対峙していた。

「例の力なしでコヤツを倒す事は出来なくとも、あの子らが逃げ切るくらいの時間は稼ごうかの。」

 スカーは他の誰でもなく、自分に言い聞かせる様に呟く。そして、今までの鍛錬と戦いで鍛えられたその目で化け物を観察する。

(…不完全なミッドナイトが呼び出したおかげかの。あまり長く出現していることは出来ないな。これなら宝石の力が無くても、なんとかなりそうだわい)

 スカーはそう結論づけると、先手必勝とばかりに攻撃を仕掛ける。

「天地耀照流、照波!」

 スカーは拳をその場で振り抜き、光る魔導力の塊を化け物に向かって放つ。

 天地耀照流は500年前の英雄、紫の英雄と蒼の英雄が使いこなしていた様々な技を、二人の英雄が当時の国王や騎士団長、魔導師団長といったメンバーが試行錯誤の結果、国の流派として誕生させたものだ。当時二人の英雄は、ミッドナイトを封印する事しかできず、いずれ復活する事は目に見えていた。その時、自分達が使ってたのは双剣と刀剣。使用していた武器そのものにクセがあり、一般的な騎士では、扱う事すら無理だとという結論に至った。このままでは使える人間が限られてしまうと考え、流派として誕生させた後も国王や騎士団長、魔導師団体と何度も話し合いを重ねた結果、二人が使っていた双剣術と刀剣術の他に拳闘術、長剣術、弓術、槍術の4種類が生まれた。さらにこれらの武術を兵士達の訓練に取り入れ、現在に至るまで発展させてきた。しかし、流石英雄があみだした武術。魔導力操作が出来ても、そこから自分の武器や体を通して、技を使う事が難しく、双剣術は紅玉が、刀剣術は金剛と琥珀が、拳闘術は煙水晶が、弓術は翠玉が、それぞれ使い手となってしまい、国の騎士で実力のある一部の人間のみ長剣術か槍術を扱える現状である。まぁ、それでも二人だけの英雄に頼り切った、500年前とは雲泥の差ではあるのだが。

 天地耀照流、拳闘術の唯一の使い手であるスカーは、流派の基本であり、魔導力を武器や拳に乗せて撃ち出す照波を繰り出す。基本と言ってもその威力は大きい。それが鍛錬を続け、数々の修羅場を乗り越えたスカーならなおさらだ。スカーが放った照波は真っ直ぐミツ首の化け物に飛んでいく。しかし、化け物は右前足を当たる直前に振り下ろし、衝撃波を発生させ、相殺する。スカーは予めそうなる事を予想していたのだろう。相殺される直前にその場を飛び出し、化け物に接近する。そのままの勢いで跳躍すると、化け物の3つの首の内、たまたま一番近くにあった首に向けて、さらに技を放つ。

「天地耀照流、風牙!」

 先程の照波と違い、魔導力の性質に鋭さを与えて、振り抜かれる脚から放たれたそれは、狙い違わず化け物の首を切り飛ばす。それだけに収まらず、貫通し地面に亀裂をつくる。頭を1つ失った化け物はその場から大きく後退し、スカーと距離を取る。

「さぁ、残り2つじゃ。さっさと終わらせようかの。」

 地面に着地し、化け物を見ながらそう呟くスカー。さらなる追撃を与えようと、足に力を込めようとした時、突然化け物が雄叫びを上げる。その後の光景を目の当たりにして、スカーは驚愕する。切り飛ばした頭が黒いモヤとなって、化け物に吸収される。それだけにとどまらず、頭が瞬時に再生する。

「一体何の冗談かの…」

 首を再生した化け物は、ニヤリと獰猛な笑みを浮べると、瞬く間にスカーへと肉薄する。そのままの勢いで体当たりを行う。

「がはっ!」

 まるで巨大な石が、そのまま山の斜面を転がってきたような衝撃。スカーは身構えこそしていたが、軽々と空中に打ち上げられる。自由に動けない空中のスカーに対して、化け物は追撃するように、先程の照波を相殺した衝撃波を放つ。

 今度はスカーが、空中で体制を整え、化け物の攻撃を相殺するべくさらなる技を放つ。

「そんな攻撃、わしにはきかんぞ!天地耀照流、岩穿ち!」

 魔導力を纏った拳を衝撃波が当たる直前に前に振り、その拳で直接、衝撃波を殴りつける。そのまま衝撃波を打ち消す。化け物は余程頭が切れるようだ。打ち消されたときには、すでに次の攻撃を放っていた。落下を始めたスカー目掛けて、今度は地面から、黒い鎖状のものを4本出現させ、スカーを貫くべく、そのまま真っ直ぐ狙う。

「天地耀照流、瞬閃!」

 スカーは攻撃を避けるべく、照波や風牙、岩穿ちといった体の1箇所に魔導力を集めて放つ技ではなく、全身に魔導力を巡らせ、あたかも瞬間移動したか如く、地面に着地する。スカーを狙った鎖状のものは、黒い空に飲み込まれるように、スカーが居た空間を通り過ぎていく。

「どうやら見くびっていたようだの」

ボソリとスカーが呟く。

 一連の攻防を繰り広げ、化け物の評価を改めなければならないと感じたスカー。しかし、その瞬間の僅かな油断が命取りとなった。なんと、空中を通り過ぎた黒い鎖が、急カーブを描いて、地面のスカーに向かってきたのだ。当たる寸前でスカーは気づき、2本目まではどうにか避けられたが、残り2本の鎖からは逃れられず、右腕と左腕、それぞれを絡め取られ、地面に縫い止められる。拘束から逃れる為、スカーは鎖を引っ張るがビクともしない。

「油断したわい。しかもこの鎖、魔導力を吸っておるわ。」

 スカーは技を使おうと魔導力を操作した時、鎖に吸われていく感覚を覚える。どうやらその魔導力は、鎖を通して化け物に吸収されているようだ。化け物はスカーの魔導力を使って、体の維持に必要な魔導力を補充している。それどころかこのままでは、スカーの魔導力が切れると同時に、例の子供達を含めた残りの住民が、全員化け物の餌食になってしまう。そこまで予測したスカーは技を使う事を諦め、魔導力の放出を抑え込む。本来人間は、何もせずとも魔導力の放出を止めることは出来ない。そんな事が出来るのは、魔導操作を熟練した者ぐらいだ。しかし、スカーは天地燿照流をマスターしたその道のスペシャリストである。いとも容易く、それをやってみせる。

「これでお主は回復できまい。さて、どうする?」

 スカーは、挑発するかのように化け物に話しかける。だが、化け物は挑発に乗ることはなく、逆にニヤリと牙を見せてくる。次の瞬間、化け物は突然走ってくる。そのまま身動きの取れないスカーに、体当たりを再びするのかと思えたが、スカーの横を走り抜けていく。

「まずい!やつの狙いはわしを倒すことではない。わしの動きを止めて、邪魔させないことか!」

 スカーは化け物の真の目的に気がつく。化け物の狙いはスカーではなく、主の脅威となりうる、宝石の力を扱える子供達だったのだ。まだ子供達は宝石の力を扱えない。さらに、先代はその力を失ったタイミング。ここまで間が悪い事があるのだろうか。スカーは最悪の事態を避けるべく、今まで抑えていた魔導力を一気に開放する。

 幾ら鎖が魔導力を吸い取る鎖であっても、一度に大量の魔導力を流しこめば、圧力に耐えきれず壊れるはず。そう予測したゆえの行動だ。

 スカーの周囲が溢れ出る魔導力によって、陽炎の様に揺らめいた時、鎖が音を立てて、バラバラと崩れ去る。しかし、幾らスカーといえど、大量の魔導力を一気に放出した際の負荷は大きく、その場でたたらを踏んでしまう。

「わしも老いたな。じゃが、まだまだ諦めるわけにはいかんのだ!」

 まるで自分に言い聞かせる様に呟くと、未だ子供達目指して走っている化け物を睨みつけ、残った魔導力を足に集め、その場から一気に走り出す。開いていた化け物との距離をどんどん縮め、残り5メートル程にまで近づく。遠くに人の姿が見えてくる。ここからならジャンプして、どうにか止められると判断したスカー。走りながらもジャンプの準備を始めたとき、突然化け物が黒いブレスを前方の集団に吐き出す。この距離なら瞬閃を使い我が身を盾にすれば、自分は助からないが、子供達を含めた民間人を守ることが出来る。そう思い、すぐさま魔導操作を切り替えて技を使おうとする。

「天地燿照流」

「天地耀照流、照波2連撃!」

「我、汝の力を借りて、悪しき意志を穿かん。炎聖霊の槍」

 その時、2種類の叫び声に加え、膨大な魔導力の塊が2つ、前方から来ることを察する。

 スカーは声の主と魔導力の正体を瞬時に判断し、急遽大きくジャンプする。その勢いのまま化け物を飛び越えると、化け物のブレスと2種類の魔力の塊がぶつかり、土埃を上げている中に上空から飛び込む。そして、その場にいた二人の人物の正面に降り立つ。

「たく!なんだよあのバケモンは!ジジイ、説明しろ!それに魔導力も殆ど残ってないじゃねーか!」

 天地燿照流の基礎を教え込み、今では双剣術唯一の使い手として、国中に名を轟かせるまでに成長した愛弟子に、着地早々憎まれ口を叩かれる。

「ワシにも良うわからんわい!攻撃しても、すぐ治りおるからきりがないんじゃ!」

 売り言葉に買い言葉とはこの事だろう。いつもの調子で言葉を交わす。次第に土埃がはれていき、周囲の状況を確認する。サニアとその友人だったはずのフレイ、その後ろには残りの民間人とテイル、そして、右側の民家の中には子供達、先代、弟子の一人で、昔から何かと運のない今代の騎士団長ヴィシムの姿が見え、スカーはどうにか間に合った事に心の中で感謝する。

 すぐさまサニア、フレイに向き直り、

「フレイの嬢ちゃん、サニア!!時間を稼げ。」

そう告げると、民家の中にいるウインを見て、

「それにヴィシム!お主も手伝え。子供達と先代、民間人ぐらいなら、わしとテイルのあんちゃんで十分守れる。」

続け様に叫ぶ。

「任せろ。他の連中は頼んだぜ、ジジイ!」

「煙水晶様、お任せください。」

「先生の頼みとあらば、断りません!」

 3人がそれぞれ言葉を発し、化け物との戦いを始める。それを見届けると、急いで子供達に近づいて

「さぁ、わしが来たからにはもう安心だ。後はあの三人に任せて、あの集団に加わろうぞ。」

そう言いつつ、こちらの様子をポカンとした顔で見ている集団を指差す。

「おじいさん!無事だったんだね。」

 レインがニコニコした顔で、片足を引きずりながら向かってくる。

「なんじゃ?お主怪我をしたのか!今治してやろう。」

 スカーはかがみ込んで、レインが引きずっていた足に手をかざすと、優しくゆっくりと魔導力を流し込む。すると、見るからに腫れていたレインの足が、みるみる治っていく。

「よし、これでいいだろう。どうじゃ?」

「すごい!ありがとうおじいさん」

レインは足を動かして、痛みが無いことを確認すると、満面の笑みでスカーにお礼をする。

「煙水晶様、有難うございます。私はどうしても治療関係の魔導が苦手で…」

レインの母は申し訳なさそうにスカーに謝る。

「何、気にすることじゃない。人には得手不得手があって当然じゃよ。わしだって、あやつらの師になってから上手く使えるようになったしの」

 スカーはちらりと後ろを振り返り、化け物と戦いを繰り広げている愛弟子たちを一度見る。そして、レイン達の方に向き直り、言葉を発する。

「さぁ、早く下がるぞ!走れ!」

その言葉に、レイン、クラッド、先代は無言で頷いて、スカーと共にテイルと民間人のところへ向かう。

「此処まで来れば、まず大丈夫じゃろう。テイルのあんちゃん、共に守ろうぞ。」

 少し前に出たところで、テイルの隣にスカーは並ぶと共闘を持ちかける。

「お任せを!」

すぐさまテイルは了承する。

「すまんが守護系の魔導を頼むぞ。わしはそういう魔導が一切使えないのだ。それに、魔導力が殆ど残っておらん。」

 そこで一旦きる。そして、前方の化け物との戦いの余波であろうか、飛んできた大人ほどの大きさをもつ瓦礫をジャンプして、軽々と蹴り飛ばす。着地すると、テイルに向かって

「これぐらいだったらできるのじゃがの~」

 余裕綽々にとんでもない事をやってのけるスカーに、呆気に取られていたテイルであったが、頭を2,3回左右に振ると意識を切り替え、魔導の詠唱に入る。

「我、汝の力をもって、非力なる者たちを守る盾を所望する。風聖霊の風壁」

 唱え終わると同時に、レイン達の前に風が集まる。そして、その場で渦巻く盾が完成する。

「ふむ。なかなかの出来じゃの。素晴らしい魔導操作だわい。」

 スカーはトルネが作り出した風の障壁を見上げ、率直な感想を述べる。

「煙水晶様にお褒めいただき、光栄です。」

トルネの言葉を聞き届けると、スカーは化け物と戦闘中の三人を見ながら

「今はお主たちしか頼れん。頼んだぞ。」

そう呟く。


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