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夜明けをもたらす輝き  作者: 灰簾 時雨
10/14

出会いと…

 「サーーニーーアーー!」

 大きな赤い炎と緑の竜巻が消えてから、しばらくして、女の人の声が聞こえる。どうやらサニア姉を呼んでるらしい。ふと、サニア姉の顔を見上げる。

(…うん?なんか苦笑いしているぞ?どうしたんだろう?)

「サニア姉、どうしたの?変な顔しているよ?」

 ふと僕は、サニア姉に問いかける。サニア姉は苦笑いをしたままの顔で僕に

「あぁ、ちょっとな。見ればレインもわかる。」

そんな事を言い出す。

 その直後、僕の横を赤い光が過ぎ去って、サニア姉に何かが突っ込んでくる。その衝撃でサニア姉は尻もちをつく。そのサニア姉を見下ろすと、サニア姉の眼のように、鮮やかな赤ではなく、深紅色の髪をした女の人がサニア姉に抱きついている。

 人かどうかもわからない速度で抱きついてきた人を、尻もちしただけで受け止めるサニア姉に驚いていると、

「フレイ…頼むから1度離れてくれないか?」

 身動きの取れないサニア姉がそんな事を言う。フレイと呼ばれた女の人は、

「サニアの匂いー」

 全然聞いてない。むしろ更にくっついてる気がする。話を聞かないその人にサニア姉は

「離れないなら、こうだ!」

 突然、サニア姉がフレイさん?って言った女の人の脇腹をくすぐり始める。すると、すぐに離れて

「サニア、久しぶりなのにひどいよー。」

頬を膨らませながら、文句を言っている。多分いつもこんな感じなんだろうな。サニア姉はフレイさんをなだめつつも

「フレイ、先に自己紹介ぐらいしような。」

まるで手のかかる妹を扱うような感じがする。

 そのまま二人は立ち上がり、フレイさんは母さんに向き直ると、さっきまでの雰囲気とはうってかわって、すごく真面目な表情で

「お久しぶりです、先代様。先程は失礼をいたしました。」

と言いつつ、深々と頭を下げる。

「久しぶりね、フレイ。相変わらずの様でホッとしました。」

(やっぱり知り合いなんだろうな。凄く親しそうにしている…本当に母さんは昔、何やってたの?すごく気になる。後で教えてもらおう!)

 僕がそんな事を考えていると

「フレイ、この子達にもお願いね。」

 母さんがフレイさんにそう話しかける。フレイさんは僕と兄さんの方を向くと、

「始めましてになるね。私はフレイ。よろしくね」

笑顔でそう言われる。

「僕はレイン。この人はクラッド兄さん。フレイさん、よろしくお願いします。」

 髪と同じような色合いで、まるでガーネットみたいな眼を見て、僕も挨拶を返す。だけど、返した時フレイさんは、僕と兄さんの周りをグルグル回りながらほーとか、ふむふむとか、なんかブツブツ喋っている。そんな時、

「おーい!」

 フレイさんが来た方向から声が聞こえてくる。

 ふと顔を向けると、人の集団がこっちに向かって、手を振りながら近づいてくる。人の顔までは見えないけど、どうやら逃げ遅れた人みたいだ。僕達の側にいた他の人達も、はぐれてしまった家族を見つけて、喜んでいる。そのままその集団が合流すると、沢山の人が互いに手を取り合っている。それを見ていると、若い男の人の声が聞こえてくる。

「フレイ!ようやく追いつきましたよ。」

 僕は声の主を見上げる。そこに居たのはサニア姉やフレイさんと同じくらいの身長で、深緑の髪に兄さんの眼よりも深い緑色で、グリーントルマリンみたいな色の眼をした、凄く格好良い若い男の人だ。

「先代様、サニア、フレイが暴走してしまい申し訳ない。」

 その人は、母さんとサニア姉の方を向いて、深々とお辞儀をして謝っている。それを見ていたフレイさんは

「お、テイル。遅いじゃねーか!それと、私が暴走とはないだろ」

 その男の人の名前を呼びながら、さっきの言葉に反論している。でも凄く楽しそうにしている。

「テイルも変わらないようで安心しました。」

 母さんが口をひらく。その後、サニア姉も口を開いて

「全くだぜ!私が受け止めてなかったら、一大事だぞ?」

 テイルさんは、サニア姉の言葉に素早く反応する。

 そのまま、フレイさんの方を1度見て、

「フレイ、お願いですから落ち着いて行動してください。はぁ、こんな人が次の族長だと思うと…」

なんか明らかにがっかりしている。

「テイルー、そう言うなって。お前が居てくれるからこそだぜ?」

 フレイさんはテイルさんを見て、けらけらと笑っている。

「テイル、そこまで落ち込まなくてもいいだろう。もう分かりきっていることだ。」

「そうですね、義父さん。」

 突然、テイルさんは誰かに答える。相手の声の主を探すとすぐに見つかる。その人は、テイルさんの後ろからゆっくり近づいている。周りの大人たちより一回り身体全体が大きくて、服の上からでも筋肉がわかるくらいムキムキの人だ。その人も母さんの知り合いなんだろうなと思っていたら、母さんの前を素通りすると、突然テイルさんの肩を叩いて

「我が義息よ。大事なことを忘れているぞ。」

 そう言いながら、僕と兄さんを見る。その人の熊みたいな顔は正直すごく怖い。僕は今まで、何も喋らなかった兄さんの腕を掴む。兄さんはさりげなく僕が、体の影に隠れるように移動してくれる。そして、

「おっさん。俺の弟を怖がらせないでくれ。」

 とんでもない事を言い出す。僕が兄さんの服を慌てて引っ張った時、たまたま近くに居た騎士さんが、驚いた顔でこっちに向かってくる。

「君!この方はヴィシム騎士団長様だ。失礼だろ!」

 その兵士さんの言葉に兄さんがすぐさま反論する。

「んな事はどーでもいい!このおっさんは俺の弟を怖がらせた。それは事実だろ。」

 兄さんは熊のおじさんを指差しながら言う。それを聞いた騎士さんが更に近づいて来たとき、

「わっはっは!」

 突然、熊のおじさんが笑い出した。いきなりの事に今にも兄さんを掴もうとしてた騎士さんの動きが止まる。そして、ある程度笑って、落ち着いた熊のおじさんはしゃがみ込むと、兄さんと僕の顔を優しそうな顔を浮かべて交互に見る。そのまま

「すまなかったな。えっと…」

「俺はクラッド、こっちはレインだ。」

 兄さんはぶっきらぼうな口調で名乗る。

 熊のおじさんは

「そうだな。すまなかった、クラッドにレイン。」

 そう言うと、頭を下げる。頭を上げたあと、兄さんに話しかけてきた騎士さんを見上げると、話しかける。

「有り難う。君には迷惑かけたな。」

そう言われた騎士さんは、

「出過ぎた真似をしました!」

腰が直角になるくらい頭を下げている。その人に熊のおじさんは更に続ける。

「君はいい騎士になるだろう。私が保証する。ここはもういいから、別の場所を見ておいてくれ。いつ化け物が来るかはわからないからね。」

 騎士さんは余程嬉しかったのか、凄くいい顔をして、お辞儀をすると、どこかに行ってしまった。そのタイミングでテイルさんが声をかけてくる。

「義父さん、相変わらずですね。クラッド君、レイン君、私の義父が申し訳ありませんでした。」

そのまま頭を下げられる。兄さんは

「分かってくれれば、俺は文句ないよ。」

ちょっと不満そうだけど、納得したみたいだ。僕は兄さんの陰から顔を出して、熊のおじさんに話しかける。

「熊のおじさん、僕こそ隠れてごめんなさい。」

 その時、テイルさんがいきなり吹き出した。そのままクスクスと笑っている。そのテイルさんをジト目で、熊のおじさんが見上げている。その目のまま熊のおじさんが、トルネさんに話しかける。

「笑うことないだろう。」

トルネさんは笑って出てきた涙をそのままに

「すいません。あまりにも的確な表現でしたので。」

そう答える。すると兄さんが質問する。

「ところでおっさん、さっきの騎士は騎士団長って呼んでたけど、ほんとなのか?」

 熊のおじさんは、僕たちに視線を戻すと

「そうだ。この国の騎士団長でヴィシムって名前だ。この街にはちょっとした用事でたまたま来ていたんだが、こんな事に巻き込まれるなんてな…」

ヴィシムおじさんは、少し困った顔をしながら話す。すると、テイルさんがヴィシムおじさんに話しかける。

「ちょっとした用事でこんなことに巻き込まれるとは、義父さんも運がない。」

そのまま、視線を下にずらして何か見つけたような顔をして

「その用事とは、懐に入れてあるそれですか?」

 多分上から見ていたから見つけたんだろう。僕からは何も見えない。ヴィシムおじさんは懐に手を入れると、小さな袋を取り出す。その袋を手の上でさかさまにして、中身を見せてくれる。その中にはどう見ても石ころにしか見えない、小さな灰色の塊だ。それを見た兄さんが何かに気が付いたのか、いきなり声を上げる。

「ヴィシムのおっさん!それってまさか…」

その言葉を聞いて、ヴィシムおじさんが驚く。

「驚いたな。クラッド君、この石の正体がわかるのか?」

 兄さんは興奮が抑えられない口調で

「もちろんだ!それって魔導石の原石だろ?」

そう答える。そのタイミングで、トルネさんが話しかける。

「すごいですね。まさか、見ただけでその石の正体を見破るなんて。何処かで見たことが?」

トルネさんも驚いている。

「学院の授業で一回触った事があるだけ。」

「なんと!?あの学院の生徒だったのですね。ですが、一回触っただけでわかるとは…」

兄さんとテイルさんが会話している。

 僕は全く分からないから兄さんに尋ねる。

「兄さん、魔導石の原石ってなに?」

兄さんは驚いた表情を浮かべて、僕を見る。

「レイン、まさか知らないのか?」

(…いや、知らないから兄さんに聞いているんだけど)

「魔導石の原石とは、20年ほど前から突如として、発見された未知の物質です。説明の前に一つ確認です。レイン君は魔導力がわかりますか?」

テイルさんが僕に聞いてくる。

「全然分からない。」

何も知らない僕は、うつむいて答えた。

「では、そこから説明致しましょう。そんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。」

 ここでテイルさんからの説明がはいる。テイルさんの話をまとめると、魔導力は人や動物、空気とか色んなものにあるらしい。で、普通の人は感じることも出来ないけど、騎士さん達は自在に扱えるよう訓練した人達みたい。ヴィシムおじさんが持っている石は魔導石の原石っていうものらしい。見た目は普通の石ころにしか見えないこと。その原石から精製された魔導石は、空気中に漂う魔導力を吸収して、ほぼ無限に魔導力を出し続ける事が出来る。基本的には王都の研究所で、収集から精製、研究に至るまで、全部を人間、エルフ、ドワーフ、マーメイの人たちが協力してやっている。だから、原石そのものは一般人の目に触れる事はなく、目にするのは、ヴィシムおじさんが持ってるような、小さすぎて研究に使えないような物だけ。それでもかなり貴重な物。それを、魔導力を扱える人が加工すると、宝石みたいなアクセサリーになるから、お金持ちの貴族達は結構身につけてるらしい。まだ研究している途中だけど、魔導力を扱えない一般の人にも使えるようにして、生活の質をあげようとしている。

といった具合みたい。

「有り難う。テイルさん!」

 僕は、テイルさんに笑顔でお礼を言う。

「いえいえ、お安い御用ですよ。」

 テイルさんはそう答えると、ヴィシムおじさんを見て不思議そうな顔で問いかける。

「原石のサイズからして、せいぜい指輪程のアクセサリーにしかならないような気がしますが、何か理由でも?」

 ヴィシムおじさんは魔石の原石を袋にしまって、懐に再び入れると、

「ミストに頼まれた。」

 そう答える。それを聞いたテイルさんは納得したような顔を浮かべて、

「なるほど。ならば納得です。」

そう呟く。僕は、

「誰?」

と聞き返す。それに答えたのはヴィシムおじさんだ。

「レインより歳が2つくらい下の俺の娘だ。」

そこでまたテイルさんから補足がはいる。

「実は、私は本当の息子ではありません。訳あって、育てられた養子です。そして、ミストは義父さんと血の繋がった娘で私の義理の妹になります。」

 言い終わると、今まで髪で隠れていた耳を見せてくれる。その耳を見て、僕と兄さんは息を呑む。人間の耳と違い、少し先が尖った形は、話しか聞いたことのないエルフの特徴だ。テイルさんは耳を髪で再び隠すと、またサニア姉に抱きついているフレイさんの方を指差して、

「ちなみにあそこで遊んでいるフレイも、私と同じ存在です。」

と、教えてくれる。そして、ヴィシムおじさんの肩に手を置くと

「ミストの事が可愛くてしょうがないこの人は、すぐ甘やかすんですよ。いくら義母さんに注意されてもね。」

しかし、と言葉を切って、ヴィシムおじさんに問いかける。

「原石の欠片ぐらいなら、王都の方が手に入るはずですが…それに、騎士団長としての義父さんなら多少の無理も通じ、研究機関から融通してもらえるはずでは?」

ヴィシムおじさんはその問いに

「ここ1年で原石から魔石に変換する効率が上がってな、欠片が残る事がなくなったんだ。だからもう王都では手に入らなくてな。」

そこで一旦切ると、俯いてさらに続ける。

「んでもって、ミストが貴族の娘に原石の加工品の事でいじめられて、泣いて帰ってきたんだ。騎士団長の娘なのに持ってないのかってな。」

 その時、僕は突然寒気を感じる。今まで母さんに怒られたりした時には、感じなかった凄く怖い感じ。手が勝手に震えて、兄さんの手を強く握る。ふと、兄さんの横顔を見る。兄さんもおでこから汗が流れて、体が震えている。僕は周りを見る。僕の目に映ったのは、さっきまで優しいお兄さんのイメージだったテイルさんが、怖い顔をしている。それに、体の周りでの風だと思えるものが目に見えて、渦巻いている。体がブルブルと震えてきたとき、前と後ろから声が同時に聞こえて、僕と兄さんは優しい何かに後ろから抱き止められる。

「二人とも、大丈夫だから。落ち着いて。」

「テイル、やめろ!」

 僕と兄さんの後ろに今までずっと立っていた母さんに後ろから抱きしめられて、安心する。僕は、流れてきた涙を拭かずに、母さんに抱きつく。鼻をすする僕を母さんは優しく撫でてくれる。横目で兄さんを見ると、兄さんも震えと汗が止まっている。

 すると、さっきまで感じていた怖い感じがなくなる。そして、姿は見えないけど

「おい、テイル。なんか言うことは?」

 ヴィシムおじさんが、テイルさんに怒りながら聞いている。僕は母さんに促されて、体の向きを変えて、テイルさんをおずおずと見上げる。そこには怒った顔のテイルさんじゃなくて、優しい顔に戻ったテイルさんだ。

「申し訳ありません。取り乱しました。」

 テイルさんは深々と頭を下げて、謝ってくれる。多分、ミストっていうヴィシムおじさんの子供の事が大切なんだとなんとなくわかった。僕は返事は出来ないけど、頷いて答える。

「全く、エルフ達の秘境で過ごして、暫く経つが何も変わらないな。」

「全くだぜ。それでも私の補佐役か?」

 ウインおじさんは、呆れながらトルネさんに話しかける。いつの間にかフレイさんも側によってきて、呆れてる。

「すみませんでした。」

 テイルさんもすごく反省しているみたい。ヴィシムおじさんは立ち上がると、テイルさんの肩に手を置いてから

「ミストは幸せな子だ。ここまで大事にしてくれる兄がいるんだからな。当然、俺も自慢の義息をもった。」

 そう言い終わると、僕達というより、母さんに向き直って、頭を下げながら

「俺の義息が申し訳なかった。」

謝っている。母さんは

「この子達もびっくりしただけです。もう本人たちも許しているので大丈夫ですよ。」

すると、ヴィシムおじさんはそのまましゃがみ込んで、僕達と同じ目線になる。そして、

「本当にゴメンな。お詫びと言っちゃあなんだが、後でおじさんが1つお願いを聞いてやろう。」

そう言って、僕達の頭に手を軽く乗せると、立ち上がって

「さてと、話の続きと行こうか」

と話の続きを話し始める。

 ヴィシムおじさんによると、おじさんの娘が泣かされたあと、おじさんは自分の武術の師匠に相談したらしい。そしたら、この街に残っている事をその師匠に教えてもらって、たまたま今日の休みを使って、買いに来たらしい。おじさんは騎士団長らしいから、融通してもらえるはずっていうテイルさんの質問にもちゃんと答えてて、もともとそんな立場の人間じゃなかったから、そういうのは使いたくないらしい。

そんな感じで説明を僕達は受ける。丁度説明が終わるタイミングで、ようやく迎えが到着した。僕達と残り住民が馬車に乗り込もうと、歩き出した時だ。

「二人とも、ここから動かないで。」

 母さんが、僕と兄さんの手をつないでそう言ってきた。

 なんで?って、僕が母さんに聞こうとして、顔を見上げたら、凄く厳しい視線で迎えに来た人たちを睨んでいる。よく見たら、母さんだけじゃなくてサニア姉、ヴィシムおじさん、テイルさんにフレイさんもだ。その時突然、ヴィシムおじさんとサニア姉が、

「「全員、その場を動くな!」」

 大声で叫んだ。二人の声に僕を含めた周りの人達は、驚いて一斉に動きを止めると、二人を見る。

「騎士団長と紅玉様、どうされたのですか!?」

騎士さんの一人が二人に質問する。

「答えはすぐに分かる。騎士団長命令だ!騎士は、全員民間人を付近の無事な建物に避難させよ!急げ!」

ヴィシムおじさんは、騎士の人達に命令する。

「承知いたしました。すぐに行動に移ります!」

 騎士の人達は少しだけ呆気に取られた顔をしたけど、すぐにヴィシムおじさんの命令にバタバタと従いはじめる。

「おやっさん、この子らはどうするよ?」

 そんな中、フレイさんが僕と兄さんのことを指さして、ヴィシムおじさんに聞いてくれる。

「正直、此処が1番安全だ。このままここで見てもらう。」

 ヴィシムおじさんはそんな事を言ってるけど、全然僕には理解できない。そうこうしているうちに、前に集まっていた人達は全員避難したみたい。避難した人達は、不思議そうな顔をして、僕達の方を見ている。

「んで、誰がやるよ」

サニア姉が口を開く。

「ここは折角ですので、私が二人に魔導を間近でお見せしましょう。レイン君とクラッド君、よく見ていてください。」

 テイルさんがそう言って、一歩前に出て、腕を前に伸ばす。そのまま手のひらを助けに来た人達に向けた。助けに来た人達はゆっくりだけど、確実にこっちに向かっている。

「我、汝の風で悪しきものを吹き飛ばそう。風聖霊の戯れ!」

 テイルさんが言い終わる。手のひらにはそれと同時に、風が渦巻いている。そのまま

「これが魔導です。いきなさい!」

 テイルさんが叫ぶ。そのまま風は塊になって、助けに来た人達に真っ直ぐ飛んでいく。

「「テイルさん!?」」

 僕と兄さんの声が重なる。僕が慌てて近づこうとして、誰かに肩を掴まれる。振り返るとサニア姉が笑顔で

「何も心配するな。まぁ、見てろ。」

そう言ってきた。

僕と兄さんは、黙ってみることにする。

 飛んでいった風は、助けに来た人達にぶつかって、その人達は、空中に打ち上げられる。建物に避難して、様子を見ていた人たちから悲鳴が上がった。数人が騎士さん達の静止を振り払ってこっちに走ってくる。

「おい、あんた!なんて事をしてんだ」

その中のひとりが、テイルさんに詰め寄った。

「皆さん、どうか落ち着いて。よくあれを見てください。」

 ヴィシムおじさんが、宥めるようなやさしい口調で、テイルさんが吹き飛ばした人達を指さしながら、告げる。そこには地面に叩きつけられた人たちが横たわっていた。だけど、次第にボロボロと崩れて、黒いモヤを出しながら消えていく。その光景を目の当たりにして、僕と兄さんそれに、近寄ってた人達も驚く。

「まさか、化け物だったなんて…緑の兄さん、すまない。お陰で助かった。」

 テイルさんに詰め寄った人が、テイルさんに謝る。

「いえ、私も説明なしに行ったのです。皆さんの反応は当然です。」

テイルさんがそう言った直後、いきなり真後ろを振り向いて、突然

「ちっ!皆さん、口を閉じて!行きますよ!」

「お、おい!緑の兄さん!?」

 舌打ちと一緒にすぐさまテイルさんに詰め寄ってた人達の腕を掴んで、一気に他の人が避難してた民家まで移動した。それとほぼ同時に

「わわっ!」

「おわ!」

 間抜けな声を上げた僕と兄さんは、ヴィシムおじさんに後ろから抱えられて、母さんは自分一人で道の脇に建っていた家の中に転がり込む。

「ゲホゲホ!おじさん、どうしたの?」

 僕は噎せながらも、ヴィシムおじさんを見上げて聞いた。けど、おじさんは僕の方を一瞬見ただけで、すぐにテイルさんの方を見て

「テイル!民間人と俺の部下達は頼んだぞ!」

って叫んで、

「任せてください!義父さん!」

 テイルさんがすぐさま叫び返してくる。

今度は正面に向かって

「紅玉とフレイの嬢ちゃん!頼んだぜ!」

そう叫んでいる。

 僕は母さんに支えられながら、立ち上がって、外を見る。そこにはすでに二本の剣を腰の鞘から抜いているサニア姉と、両手を前に突き出して、目を閉じたフレイさんがいる。

「任せろ!」

 サニア姉は自信満々に答える。その事を聞いたウインおじさんは、力強く頷くと腰の剣を鞘から抜き出して

「3人とも。私の後ろから絶対に出ないでくれ!」

僕達の方を振り向きながら、そう言ってきた。

サニア姉とフレイさんの話し声も聞こえて、

「フレイ、いけるな?」

「いつでも!」

 最後の声だけは聞き取れた。その時、テイルさんが向かった方から悲鳴と叫び声が上がった。

 僕はどうしても気になって、ウインおじさんの後ろから飛び出すと、窓枠から顔を出す。

「レイン!」

 母さんが慌てて僕の方に来た。それでも気にせず顔を左側に向けると、体は1つなのに頭が3つあって、此方に走ってくる大きくて真っ黒い犬みたいな生き物がいた。

その化け物は、3つのうち1つだけ顔を向けると、大きく口を開いて、黒っぽい何かを吐き出してくる。だけど、サニア姉とフレイさんはその場で立ったままだ。

「レイン!危ねーから顔引っ込めろ!」

サニア姉にそう言われるけど、僕は

「サニア姉とフレイさんも逃げてよ!」

言い返す。フレイさんも

「おやっさん!レインをそこから下げてくれ。」

 ウインおじさんに向かってそう言って、再び前を向く。

 ウインおじさんと母さんに後ろから抱えられて、引きずられながら、窓のそばから無理矢理引き離される。僕はサニア姉を見続ける。その時、ふとサニア姉が僕の方を見て笑いかけてくれた。そして、すぐ前を向いて剣を構える。化け物が吐き出した黒い何かがサニア姉とフレイさんに迫ってくるなか、二人は同時に叫ぶ。

「天地耀照流、照波2連撃!」

「我、汝の力を借りて悪しき意志を穿こう。炎聖霊の槍!」

 サニア姉は右手の剣を右上から左下に、左手の剣を左上から右下に、同時に振り下ろす。その二本の剣から、魔力で作られたのは同じだけど、僕と兄さんを助けてくれた時とは違って、光る衝撃波が2本出てくる。フレイさんは右手を頭の横まで持ってくると、握りこぶしを作る。その手の周りに赤く光る魔導力?が集まって、大きな槍が作られる。その槍ができると同時に、槍を投げるような動作で右手を前に振る。すると、その槍はフレイさんの手を離れて、サニア姉の衝撃波と一緒に真っ直ぐ飛んでいく。その2つが化け物が吐き出した黒い何かとぶつかって、大きな音と土埃、それに凄い風が吹いて、僕達が飛び込んだ家の窓を壊す。その時飛んできた破片は、ヴィシムおじさんが剣で弾いてくれたお陰で、僕達に当たらない。僕は土埃の中にいるはずの二人に

「サニア姉ー!フレイさん!」

と呼びかけた。すると

「たく!なんだよあのバケモンは!ジジイ、説明しろ!」

なんかサニア姉が怒ってる声が聞こえる。それに答えるように聞き覚えのある声も聞こえてきた。

「ワシにも良うわからんわい!いくら攻撃しても、すぐ治りおるからきりがないんじゃ!」

 土埃がだんだんはれてくると、3人の人影が見えてくる。完全に土埃がはれるとその人の正体がわかる。2人は当然、サニア姉とフレイさん、増えたもう一人はミッドナイトが空に浮かんだとき、僕と兄さんを助けてくれたあのおじいさんだ。



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