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第7話:ドーナッツの一番美味しいところは、真ん中の『穴』ですのよ?(その4)

「う~ん。どうもおかしいなあ…」

「オジサン、何を悩んでるんだよ。2日目になってもオジサンの紅茶は好評だし、ドーナッツはどんどん売れるし、笑いがとまらないじゃん」

「まあね、他の連中の屋台に比べれば、オレの屋台は目立って好評さ。でも、あれをみろよ」

「あれって? …ああ、ラフロイグの姉キの屋台かあ」

「オレの屋台は、客足に波があるんだよね。まあ、お昼ご飯の時間とかは暇になるよね。ドーナッツは腹に溜まるし。わからなくもない。でも、ラフロイグちゃんの屋台は時間帯に関わらず、常にお客さんがごったがえしてるんだよね…」

「そりゃ、アイスクリームは腹に溜まらないからじゃないの?」

「そうなんだけどさ…どうも、それだけとは思えないんだよなあ…。何か、新しい秘密の手段を使っているのかも…」

「オジサンは心配性だなあ。じゃあ、あたしが偵察してきてやるよ」

「おっ、いいね、スパイか。助かる、お願いするよ」

「うん、じゃあ、行ってくるよ」



「カリラちゃん、どうだった!?」

「理由は2つだね」

「やったねカリラちゃん、2つも秘密を掴んだんだね!」

「ひとつめの理由はね、新しい商品を投入したみたいだよ」

「新しい商品だって? それは、新しい味のアイスクリームってこと?」

「ううん、違うよ。なんだっけ。ソフトクリームって言ってたかな」

「ソフト…クリーム? アイスクリームじゃなくって?」

「うん。なんか、すごくうまそうだったよ…。アイスクリームよりも柔らかくって、表面が滑らかで、山みたいな形で渦を巻いていてさ…。あとで絶対に食べる。ドーナッツの客をほっぽりだしてもね」

「お、おいおい、それはないよカリラちゃん。で、2つめの理由は?」

「2つめの理由はね…」

「う、うん。2つめの理由は?」

「…チキショウ」

「な、なんだって? チキショウ?」

「オジサン、あたしは怒ってるのさ。あたし自身の、不甲斐なさにね」

「不甲斐なさ? なんでだよ。カリラちゃんはよくやってくれてるよ」

「そうじゃなくてさ…。なんていうか…あたし、負けちゃってるんだよね…エレンに」

「エレンくんに? どういう事?」

「だから、2つめの理由は、エレンを目当てに人が集まってるって事さ」

「エレンくんを目当てに…? そんな、バカな…」

「…エレンのほうがあたしよりカワイイのかよ…エレンのほうがあたしよりカワイイのかよ…エレンのほうが」

「わ、わかったわかった。そんなことないよ、カリラちゃんだってカワイイと思うよ」

「そりゃあ、負けるよね。こんなオジサンとあたしみたいな女じゃさ…。どうせさ、どうせさ…」

「カ、カリラちゃん、誰かの治療をしたわけでもないのに、今日はずいぶんネガティブだね…。まあ、確かに、エレンくんの女装はかわいいし、ラフロイグちゃんだって、黙っていれば間違いなく美女だからな。黙っていれば」

「オジサン、あたし、ちょっと本気だそうと思うよ」

「本気…? どうするつもりなのさ」

「オバサンに協力してもらって、エレンに勝つ方法を考える。男なんかに負ける訳にはいかないからね」

「まさか…メイド合戦が、スイーツ合戦とは別に始まってしまうなんて…」

「やい! エレン! あたしの方があんたなんかよりもずっとカワイイんだからね! みてろよ~!」



「あははははははは! ですわ!」

「アイラちゃん、あんまり笑ってやるなよ。カリラちゃん、こう見えて繊細だぜ?」

「オジサン、それを繊細な本人の前で言っちゃう? だいたいオバサン、あんたが、あたしよりもエレンの方に気合を入れるから、こんなことになるんだ」

「ふふふ、まあ、それは否定しませんけどね。わかりましたわ。一緒に対策を考えましょう」

「オバサン、あたし、エレンよりもかわいくないのかな? あたしに足りないものはなんだろう?」

「カリラちゃんはボーイッシュですものね。足りないというよりも、それは個性ではなくって?」

「個性ねえ…。でも、あたしはエレンよりもかわいくなりたいんだよね。個性で割り切ったら、勝てなくない?」

「それは確かに、そうですわね。じゃあ、ちょっと化粧を変えてみる?」

「化粧を? それって、どのくらい変わるかな?」

「今はどちらかと言うとナチュラルメイクですから、少し大人っぽい感じにしてみますわ」

「アイラちゃん、それだと、カワイイ、にはならないんじゃないのかい?」

「あら? お客を集めるのが目的ではなくって? でしたら、挑戦してみる価値はあると思いますわ」

「う…うん。じゃあ、頼むよ。オバサンにまかせる」

「はいなっ! ですわ」



「…オジサン、客足は変わったかな…」

「いや、全然」

「…オジサン、あたし、かわいくないのかな?」

「今は『カワイイ』というよりも『色っぽい』というのが正解かな」

「…オジサン、あたし、色っぽさが足りないのかな…」

「う~ん。足りないと言えば足りないんだろうけれど、カリラちゃんの体の年齢だと限界じゃないかな」

「そ、そうなんだ…」

「まあ、そうガッカリするなよ。カリラちゃんは頑張ってるさ」

「う、うん、ありがとう…。でも、それじゃ納得いかないよ」

「努力してくれるのは本当にうれしいさ。でも、これはスイーツの戦いであって、メイドの戦いじゃないんだよ?」

「それはそうかもしれないけどさ…。勝敗が売れ行きで決まるっていうなら、やっぱり客寄せになっているメイドの戦いだって、重要だと思うんだよね。メイドの違いで売れ行きが変わるならさ…」

「う~ん。そうかあ…。そこまで言ってくれるなら、またアイラちゃんに相談してみる?」

「…うん、そうするよ」



「あらあら、カリラちゃん、めずらしく、しおらしいんですのね」

「アイラちゃん、これはアイラちゃんの責任でもあるんだぜ?」

「そうですわねえ…。でも、カリラちゃんはどうしたいんですの?」

「もうちょっと、色っぽくなりたいんだ。どうすればいいかな?」

「色っぽく…ですの? カリラちゃんは素材がいいんですから、あまりいじりすぎない方がよろしくってよ」

「でも、このままじゃエレンに勝てないんだよね」

「う~ん、そうですわね…。じゃあ、色っぽい方向性でとことん攻めてみます?」

「う、うん! どうすればいいかな?」



「カ、カリラちゃん、その…なんというかさ…アイラちゃんのアドバイスだから、オレはあまり口をはさみたくないけどさ…ちょっと、露出度が高いんじゃないかな?」

「オジサン、結構いくじなしだね。肩とおヘソをだして、スカートを短くしただけじゃない。ほら、おかげで、客足が増えたと思わない?」

「客足よりも、カリラちゃんに変な虫がつかないか心配だよ…」

「勝てる…。これなら、エレンに勝てるよ! オバサン、だてに厚化粧してなかったよね!」

「オレは、普通にドーナッツで勝負したいんだけどな…」

「オジサン、もう一歩踏み出そうよ! あたし、胸のラインぎりぎりまで、裾をあげてみせるよ。スカートだって、もうちょっと攻められるはず…」

「そ、それは…オレ、もう見てられないよ…」

「あ、ほら、エレンがこっち見てる。エレン! 今にみてなさいよ! あんたなんかには負けないんだからね!」

「カリラちゃん、エレンくんも心配そうな目で見てるよ…? あ、ほら、わざわざこっちに来てくれたよ」

「ふふん。ねえ、エレン、あたし、どうかな?」

「…それ、カリラが自分でやったの?」

「この化粧? それとも、この着こなし?」

「どっちもだよ」

「オバサンにやってもらったんだよ。悪くなくない?」

「お姉さんか…。ねえ、カリラ、もうやめにしない? ボクなんかと張り合うのは、つまらないよ。どうしてもカリラが、それ以上続けようというのなら、ボク、メイド服をやめて普通の男装をするよ」

「エ…エレン…。そ、そんなにあたし…変かな?」

「変だよ」

「でも、このスタイルにしてから、ほら、みて、お客さんが増えたんだよね」

「それは、カリラやおじさんが望んでる、ドーナッツが好きで来てくれているお客さんなのかな? ボクはそうは思わないけどな」

「エレン…。エレンがそんなに強く言うなんて…」

「ほら…カリラちゃん、エレンくんもこう言ってくれてるんだから…。もとに戻そうよ」

「う…うん…」



「や、やっぱり、やりすぎでしたのね…」

「オバサン、どうしてくれんだよ。エレンに嫌われちゃったかもしれないよ…」

「カリラちゃん、それは大丈夫だと思うよ。嫌いになった相手に、わざわざあんなことは言わないよ。エレンくんだって、カリラちゃんを叱るのは勇気が必要だったと思うよ?」

「そ…そうなのかな…。うん、ありがとう、オジサン」

「さ…て…。次はどうするのがいいかしら…」

「アイラちゃん、もう普通でいいよ。元のメイド服のカリラちゃんで」

「…うん、よし! エレンちゃんの言葉を精一杯逆手にとってやりましょうではないですの!」

「おいアイラちゃん! 人の話を聞けよな!」



「ねえエレンちゃん、あのカリラちゃんのスタイル、どう思いますの?」

「まさか、逆にカリラが男装をする事になるとは思いませんでした…。でも、よく似合っていますよね。ボ…ボクより男前というか…ハンサムと言うか…」

「あ、あら、今度はエレンちゃんが落ち込んでしまいますわ」

「そ、それは大丈夫です」

「でも、つまんないですわ。張り合うのをやめて、エレンちゃんも男装だなんて。でもまあ…その給仕服は、また違ったかわいさがありますのね…」

「お姉さん、あまりカリラをいじって遊ばないでくださいね。本気にしちゃいますから」

「はいはい、ですわ。あたくしもカリラちゃんも、エレンちゃんに叱られる日が来るなんて思いもしませんでしたもの」

「叱る…だなんて。そんなつもりはありませんでしたよ。はい、お姉さん、これ、ラフロイグさんの新作の、ソフトクリームです」

「新作…? ですの…? な、なんですの!? これは…。ラフロイグさん、まだ奥の手があったんですのね…。これはまた、違ったおいしさですわ。舌先で簡単にすくえる柔らかさ、芳醇なミルクの香り…。素材のおいしさが全面に出ていますのね…。ま、迷ってしまいますわ。アイスクリームもおいしいのに、ソフトクリームもおいしいなんて…。お腹の容量には限界がありますのに…」

「今のところ、おじさんもラフロイグさんも、いい勝負をしているように見えます。最後まで勝敗はわからないかもしれませんね…」

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