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ロストアナザーワールド  作者: 洋稿史
第一章 【もう一つの世界】
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第一章11 アルカディシア「星騎士」

 レナードが星汰の額から顔を離して目を開いた。ぐったりとした星汰をレナードが自身の肩で受け止めた。


「この方はセル様ではないわ。けれど安心しなし、こちらに危害を加えることは無い。むしろ逆かしら」


 レナードは傍に居るエリスに星汰を預ける。深い眠りについたような星汰の横顔をエリスがじっと見つめたまま逸らさずにいる。


「この方は私たちギルドの元で保護します。セル様がお戻りになるまで決して誰にも存在を知られぬよう警戒態勢を敷く必要があるかしら。

 今ここにいる四人以外のギルドメンバーにもわたくしが話をするまで、誰一人としてこの方とは会わせないように」


「御意」


 かざきりの第一声に続いて、ルバートとエリスも頷いた。


「私が見た記憶のことをこれから話します。とにかく、このことを王国側に知られては絶対にまずいかし――」


 突如大聖堂の入り口の扉が轟音に吹き飛んだ。前室を突き抜けて外の日差しが煙に舞う破片を照らす。

 

 レナードと共に、ルバートとかざきりが剣に手を添えて扉の方へ警戒態勢を取る。

 

 煙に巻かれながら鉄の甲冑が深紅のカーペットを踏みにじった。それに対して身を低くかざきりの短剣の柄――蛇の胴体を成した頭部分で口を開けた蛇の目が赤く光った。鋭く瞠目する殺意に満ちたかざきりをレナードが手を差し出して遮る。


「ギルド団長セル、身柄を拘束させてもらう」


 その声の主に続くかのようにいくつもの金属音が乱雑に音を立てて入り込んだ。それぞれの武器を手に、頭まで兜を被った騎士が左右に広がった。その中心でカーペットの上を歩く白いマントを羽織った青い髪の男が、立ち並ぶ騎士達より一歩前に足を踏み入れる。


「リゲル・ダリウェル――」

 

 かざきりが殺意の宿った視線を向けて言った。

 

 ルバートよりは低いが高身長の、鎧も鎖帷子も身に纏うことなく、将校服と思われるような真っ白な服に黒いブーツを履いていた。頬まで伸びる前髪は真ん中で分けられ、邪魔にならないように後ろに撫でつけられている。


 壮室にさしかかる手前、少壮の面影を残したその男が、深紅のカーペットを挑発的に踏みにじった。カーペットが男の黒いブーツに渦を巻き、床に減り込むように損傷した。


「どんな理由があるにせよ、ギルド以外の者が無断で足を踏みれていい場所じゃないのよここは」


 レナードの額には血管が浮きあっており、その声には押さえきれない怒りが含まれていた。

訪問者との間には充分すぎる距離があったが、レナードの落ち着いた声は相手の元へと確かに届いたようだった。


 レナードの言葉に青髪の白衣の騎士、リゲルが後ろを振り返る。

エプロンを着た使用人と思しき女性が踏みにじられたカーペットの上に打ち付けられた。その女性の上げた悲鳴と共に、同様にしてギルドの見張り兵と思われえる数人の兵士が地面に打ち付けられる。


「レナード様っ」


 乱れた前髪を必死に振り上げて拘束された使用人が声を出した。その瞬間、その女性めがけてリゲル・ダリウェルが背中を蹴りあげた。


「動くなよ」


 それに激高した人質の総白髪の男が力を振り絞って床を蹴る。それを背後の騎士が床に取り押さえた。他の見張り兵の抵抗も同様に無に帰す。


 リゲルがサーベルに手を置いていた。先ほどの忠告は人質に対してではなく、その見下す視線は絶えずレナード達に向けられていた。今にも飛び出しそうなかざきりとルバートが目を見開いて凄まじいほどの眼光を騎士に向けている。


 蹴られたことによって呼吸困難に陥った女性が地面に体を震わせ、痛みに悶え血を吐く。


「コールサックのように無事ではすまないかしら」


 狂気とも呼べる怒りを露わにしたレナードの静かな怒号に、騎士たちが後ずさる。その中央で嘲笑を浮かべた青髪の騎士が平然と口を開いた。


「コールサックの鎧が壊れたのはいつぶりだろうな。奇跡的な生還とも言える……さて、惜しくもレナード、貴様にもセル同様罪状が届いているぞ」


 決して怯むことのない嘲笑を含む声が綽綽と繰り返される。それはレナード達を完全に見下した物言いだった。


「嘆かわしいなぁ、ギルドの団長と副団長が揃いも揃って己がための欲のために、規律を破り、教徒たちを犠牲にコールサックを殺そうとするなど」


 事実とは異なる内容を語る芝居じみた挙動――騎士の一人が丸まった羊皮紙を差し出す。それを受け取ったリゲル・ダリウェルが小気味よく封蝋を外しそれを広げた。


「罪状――未開拓層における魔獣の動乱の引導及び錯乱。王国騎士を無差別に殺害。階層を破壊し、所属問わず人命を手にかけようとしたことにより、ギルド記憶の星団(メモリーアストレア)団長セル、副団長レナード・シャオ・フルートを星導者による確かな記憶証言・証拠の照査によってそれを確かな罪とみなし、記憶裁判へと連行するため王国騎士及び、星騎士に同行の任を遂行させるものとする」


「ダリウェル、それはなんの冗談かしら? 随分と偉い口を言えるようになりましたのね」

 

 レナードの目つきが歪む。


「レグルス前騎士団長及び大公、十始祖の過半数の同意。そして我らが王――スピカ様の証印がある」

 

 リゲルが自身の青髪をつまんで離した。その指で兵士に何かをよこすように合図する。


「スピカ様だと?」


 ルバートが苛立ちを顔に出して言った。リゲルリゲルは歩み寄ってきた騎士から茶色の丸められた紙を受け取るとそれを広げた。


「ここに声明書がある。最も国王陛下の方は承諾ということのお印だが」


 リゲルが両手で開いてレナード達に向けるも、すぐさま丸めて騎士に渡した。


「リゲル・ダリウェル厄介な能力だわ、このわたくしが気がつかないわけがないのよ」

「能力? 君たちの薄汚れたものと同じにしてもらっては困る。我々のは星々から受け継がれた神聖で高貴なるもの」


 ダリウェルの嘲笑にレナードを含めた三人の視線が殺気立った。


「ちなみにレナード。貴様にも重要参考人として記憶裁判に出てもらう」

「ふざけてんじゃねえ!」

 

 ルバートが背中の大剣を引き抜いた。その風圧が後ろのエリスの髪を大きく靡く。それはエリスがよろめくほどだった。


「同じものを」


 リゲルが後ろに向けて言うと、騎士が一人黒い箱を持ってこちらに駆けだした。レナードがそれを受け取り、箱を開いた。茶色の分厚い紙が広げられレナードがそれに目を通す。


「貴様らにはバベル八十八階層付近での王国騎士に対する虐殺行為の容疑がかかっている。それもセルには自らの欲の為に仲間であるレナード、お前を手に掛けようとしたことも罪として取り上げられているがな」

「先日のバベル遠征でセル様が姿を消されたのは、貴様らが仕組んだことだろうが」


 かざきりがダリウェルの言葉に異を唱える。


「仕組んだ? ああ。こちらが仕組んだように見せかけて全てを隠蔽し、階層を我が物としようしとした。その後セルは工作がバレて逃走。滑稽だな」

 

 かざきりが右手で右腰に添えられた短剣を素早く引き抜いた。その刹那、鞘と短剣の切り口から金切り声を圧縮したような超音波が発生し、凄まじい風圧が地面を高速で這いダリウェルに襲い掛かった。リゲルはサーベルを素早く引き抜いて、目前に迫る風刃を数回、目に留まらぬ速さでそれを切り裂いた。振り上げられた白いマントに切り目が入る以外にはリゲルに損傷は無い。


「間違いないわ……」

 

 レナードの声は焦りを含んだ様子だった。 


「そういうことだ。レナード、今すぐ貴様も来て貰うぞ」


 リゲルは剣を鞘に納め、右手で撫でつけるように前髪を整えた。


「貴様だと?」


 リゲルの言葉に殺意を増幅させたかざきりがまだ抜いていない左の短剣に力を込める。鞘から漏れ出した風が鋭くカーペットを切り裂いた。それをレナードが左手で押さえ込む。


「レナード様――手をお上げください。これは自らの矜持ゆえギルドの誇りをもってあの男を許すことはできない」


 レナードは無言のまま手を上げることはなく、かざきりが意図して自らが周囲を巻きあげている風を弱めた。


「一体これはどういう根回しで工作されたのかしら」

 

 茶色の声明書は真ん中でレナードの手によって折れ曲がり、レナードの髪が逆立ち周囲の空気がかざきりに変わって、ピリピリと刺激される。かざきりが気圧されるほどの。


「根回しだの工作だの、随分と失礼じゃないか。王の神聖なる紙をそんな風にして、これだからダスト出身の薄汚れた、ギルドとかいう陳腐な輩は」


 リゲルは呆れた様子を浮かべつつもこめかみには苛立ちが現れていた。こちら側のレナードを含めた三人はダストという言葉に反応するかのように凄まじい剣幕で怒りを露わにした。


「星騎士を前に無礼にもほどがあるぞ」


 ドスを聞かせてこちらを睨みつけるダリウェルの気迫がレナード側とぶつかった。特にかざきりは今にも飛び出しそうな勢いだ。しかし、真に誰よりも怒りを放出させているのはレナードだった。辺りに滲み出る気迫の差がその場の誰のものよりも恐れを含んだものだった。


「どういう理由があるにせよ、生きては返さないわよ」


 はちきれそうなほど怒りを押さえ込んだレナードが差し出している左腕のせいで、かざきりもルバートも前に踏み出すことを許されない。何より、キューブピアスの点灯に合わせて漏れ出した黄色い閃光が細く周囲に圧力をかけている。


「おーっと、怖い怖い。あのレナードが相手じゃこちら側もただじゃ済まないからね」


 先程の気迫とは裏腹にダリウェルはお調子者の様子で両手を上げた。そこには降参の意はまるでなく、代わりにレナ―ド達を見下す嘲笑が含まれていた。

 

 その隙を突かんとばかりにかざきりが踏み込もうとする。それに合わせて遮っていたレナードの左手も下げられていた。


「だがやめた方がいい、ただで済まないのは貴様らの方だからな」


 まるで警戒しない様子のダリウェルにレナードを含め三人が殺意を向けたその時だった。鎧の揺れる静かな音がダリウェルの背後から聞こえた。リゲルの身体から突如姿を現した騎士。かざきりが攻撃対象を銀色の鎧にも向けたが、再びレナードの手がそれを遮る。


 ――気配が全くしなかった。恐らくダリウェルの聖剣の力でしょうけれど。二人とも、向こうがこちらの動向をある程度握っているにせよ、称号付き一人だけで乗り込んで来るとは考えにくいかしら。リゲルの他にまだ称号付きがいることを警戒してちょうだい。

 

レナードは記憶干渉能力(メモリー)記憶共有(ワールドコンタクト)によって意識を繋いでいた他の三人に言霊を送る。


「ギルドの主要メンバーの動向は詳しくチェックさせてもらっている。他の称号付きがバベルの出入り口及び階層を塞いでいる今現在、このギルドに居るのはお前たち四人のみだということもこちらの情報と見事に一致しているということだ」


「クロウ達の戻りが遅いのはそのせいか」


 かざきりがそう言うとリゲルの隣に並んだ騎士に視線を向けた。ルバートよりは低いが高身長のリゲルとさほど変わらない身長。他の騎士たちと違うのは身幅が随分と細いということだった。兜の目元にある暗闇がかざきりに向けられる。それを感じ取ったかざきりは自身の中にある異様な予感を感じ取ったのか体制を更に低くする。


「セル様を含めた五人が居るとわかっていて、わざわざ死にに来たのかしら」


 レナードも嫌な予感を胸にある予測を立てていた。そうできない理由が王国側の所有している戦力に充分にあるからだ。しかし、レナード達が自らの戦力差を考慮する決定的な理由はそれではない。


「セルが居たのは幸運だったが――四人だ。そこの赤髪の女が戦力に値しないことは知っている。そして、かざきり、レナード。応戦力の最も高いお前ら二人が先日のバベル遠征で消耗していることもな。それと、セルもその様子では戦力には数えられない。か」


 リゲルの言葉には紛れもない事実が含まれていた。エリスは自らが戦闘員でないことを自覚しつつもいざとなれば戦う覚悟のある瞳でダリウェルを睨んだ。


「セルは穴に落ちたらしいが……どうやら、万全とは言い難いらしい」

 

 リゲルはレナードの背後に目を向けてにやりと嘲笑った。


「死ぬ覚悟はできているかしら」

「そもそも自らが失態を犯していなければ、こんな事態には陥っていなかったか」


 嘲笑うリゲルが前髪を掻きあげて笑い声を上げる。レナードがそれに踏み込もうと片足が床を押し潰す。その瞳は相手の兵士を硬直させ、周囲の重力が増すような威圧に誰しもがレナードの怒りを恐れたその時だった。


 レナードの動きを読んだ上で、それを気にすることもなく、リゲルの横にいた得体のしれない騎士が、リゲルの背中から引き抜いた大剣を左手に振り下ろした。剣先には先ほどリゲルが蹴りあげた人質とも呼べる召使が気を失って横たわっていた。まだ生きていることから、自身の背丈よりも大きな大剣が生命を奪い取るという勧告を示している。


「くそが……――」

 

 ルバートが不本意に顔を歪める。人質を取られたことだけではなく、明らかに想定内の焦燥がレナード達に浮かぶ。視線が集まっていたのは十字架とも呼べるその大剣だった。


「よりにもよってバベル遠征に来ていたあなたが……少し相手が悪いかしら」

 

レナードが顔を歪める。大剣を振りかざした騎士がそれを持っていない右手で兜に手を掛ける。依然としてレナードが戦闘態勢をその騎士に向けているにも関わらず、大剣の騎士はそれを受け止めた上で平然として存在感を放っていた。兜が外されると、首元から氷のような白髪が胸元の鎧に垂れ下がった。


「シリウス・フリード」

 

 確信を持った言葉でかざきりが悔恨を露わにするように言った。そして警戒態勢を別の、危険度を更にました種類のモノへと変えた。それはレナードもルバートも同じだった。

 

 シリウス・フリードと呼ばれた女は脱いだ兜を半目で見降ろし列を成す兵に向かって投げた。首元に指を入れて数回首筋を撫でると腕を下す。そして、誰もが彼女を見やる沈黙の中で、ゆっくりと抑揚のない声で言った。


「ダリウェル」

 

その響きは不思議なものだった。勢いも生気も感じられない。だが神聖と呼べるような美しい響きがあった。儚く擦れているにも関わらず、その声はよく通る。


「相手の戦力が定まらない以上警戒を解かないでください」

 

 その言葉だけで彼女の戦闘における考察が思慮深いものだと窺える。抑揚のない声は呆れているようにも見下しているようにも聞こえなくない。

 

 シリウスの忠告をダリウェルは無視した。というより呆れ返したという方が近いのかもしれない。リゲルはレナード達とは対照的に、悠然とした様子で肩の力を抜いた。


「無駄な抵抗はやめておとなしく拘束されるんだな」 


 リゲルが嘲笑を浮かべるもそこには隙のようなものは見当たらなかった。言葉通り身柄を拘束する確固たる意思が現れている。シリウスは口を開く様子はなく、玲瓏な瞳で静観している。


「エリス、クロウは?」

「まだ帰っていません。恐らくこの場には間に合わないかと」

「レナード様、人質は私にお任せください」

 

 レナードの様子を見てかざきりが短剣に手を添えたまま素早く視線を逸らした。


「いえ、戦闘は――このまま従いましょう」

「――……理由を」

 

 かざきりがぎりっと歯を食い縛った。その表情は自らを諭して納得させるようなやり場のない怒りが含まれていた。


「私が居ることがわかっていたなら、王国がそれに見合う戦力として聖導大十字(グランスピカ)の星騎士を寄越すでしょう。セル様と星剣を所持するあなたに星騎士二人をあてがうとして、今の状況は明らかにこちらを誘導しているようにしか思えないかしら――それに、この遠くに微かだけれど感じる存在感は、わたくしと同じ聖導大十字(グランスピカ)を持つ誰かしら――」

「どっかにアルタイルかジェラルクローが待機してるってことか……」


 レナードとルバートの言葉にその場が意気消沈する。かざきりの殺気が弱まる中で、レナードが一歩前へ踏み込んだ。

 

 ――やはり、それを確かめるためにも一度こちらから仕掛けます。かざきりとルバートは人質の救出を。

 

 レナードが右の手のひらを床に向けると、現れた光石ノ完全正方体(パーフェクトワールド)が床にはめ込まれた。


『ギルド異常事態第五形態――第一、第二、原因不明による未発動及び一部損傷。敵を誘致したもとし、迎撃開始』

 

 抑揚のない人工的な声がそう告げると、レナード達と王国騎士たちの間に無数の光石ノ完全正方体(パーフェクトワールド)が現れた。同時に王国側に無数の光の剣が広がり、切っ先を光石ノ完全正方体(パーフェクトワールド)向けて発射される。その二つがぶつかり、光の剣が光石ノ完全正方体(パーフェクトワールド)に突き刺さって互いに相殺された。


 光石ノ完全正方体(パーフェクトワールド)と同時に放たれていたいくつかの風撃を縫うように、すでに走り込んでいたかざきりとルバートが相手の懐に潜り込み姿を現した。

 

 倒れた召使をかざきりが、背後で王国兵にとらわれている数人の人質をルバートが救い出そうと剣を薙ぎ払った。その背後から命を狙うリゲルとシリウスの剣先が突き刺さして――瞬時に形成された光石ノ完全正方体(パーフェクトワールド)がかざきり、ルバート、人質の身体を囲うようにガードする。


「――白き精霊の光来に御身の双碧に使える蒼白の従氷霊よ、妖精の加護の元付き従え」

 

 合わせた両手を地面と水平に、右の手のひらを王国の正面へ向けたレナードから氷の竜が現れ上空から咆哮を発する――その息にかかった王国騎士の一帯が瞬時に凍り付いた。


「くっ、レナードめ、シリウス」

「一度には無理です――相手のエネルギー量が膨大過ぎます」


 下半身の凍ったダリウェルの身体が透明になり消えていく。無表情のまま自身の身体を無数の光の剣で守っていたシリウスが大剣を片手で地面に振り払った。


「来るぞ」

 

リゲルの声がどこからか響き渡ると、レナードの氷竜が氷のブレスをシリウスめがけて放った。


星の光よ(ルース・ステラエ)――シリウス」

 

 シリウスの元から光の大剣が流星の如く放たれた。

 光の大剣により氷のブレスが跡形もなく消え去り――シリウスの背後から氷竜が下降してかぎ爪を振り下ろす。


星の力解放(インクリーズステラ)――」


 シリウスの周囲に眩い光が円を形成した瞬間――背後から扉を穿つようにして現れた赤い閃光が氷竜の脳天から胴体を一閃。

 

 瞬時に蒸発した氷竜が消え去った。それを見定めたレナードが息を吐く。


「よりにもよって……アルタイル…………わかったわ、大人しく投降しましょう。少し時間を頂戴」


「妙な真似をするなよ」

 

 ダリウェルの言葉に警戒したままのかざきりがねめつける。


「エリスすぐにセル様のお召し物を。それから念の為に二人は随時警戒態勢を敷くのよ」

 

 ――二人とも、セル様は必ず戻ってきます。それまでギルドのことは頼んだわよ。

 ――おい、まさかそのまま引き渡すつもりか? 星婆(フェアリー)に記憶を覘かれるんだぜ?

 ――ええ。だから明日の正午、記憶裁判が行われる前に何としても脱出しないといけないわ。ルバートはエネミーチェイサーでギルドメンバーに緊急信号を送って頂戴。かざきりはギルドメンバーの召集、レイヤードに列車の手配を。

 ――御意。

 ――お前とセル抜きで王国に乗り込むってか……それなら今ここでやりあった方が早いんじゃねえ

のか?


 ――既に街のギルド仲介場でも参考人としてギルド側の人間が王国に捉えられているでしょう。ここの人質も含めて私たちが記憶裁判に行かなければならない筋書きは周到に用意されているかしら。そこのところも私の方で開放するように交渉しますから、あなたたちは出来るだけ多くのギルドメンバーを集めて記憶裁判を止めて頂戴。

 

 エリスが紺色の上着とズボン、ブーツを抱えて現れた。肩を上下させそれらを床に置こうとする。黒い革のブーツが一つ転げ落ちる。

 

 レナードが星汰に駆け寄るとエリスから黒のズボンを受け取りそれを指し出した。星汰はローブの上からそれを履いた。その上からレナードが革のブーツを星汰足に取り付ける。ズボンを履き終えた星汰はエリスが待機させていた白いシルクでできたようなシャツを羽織る。柔らかくも分厚くしっかりとした素材で、襟足が顎の下まで伸びている。レナードが両足のブーツの金具を留めると、星汰の手を取って自身も同じようにして立ち上がった。再びエリスから差し出された上着を星汰は羽織る。それはマントのようになっており、丈の長さは膝下まであった。紺色の生地の上には黄金の刺繍が施されていて、肩にレナードと同じくギルドの紋章が上を向いて施されていた。レナードがボタンを留めている間に、エリスが黒く細長いベルトに短剣を添えて固定した。星汰の背後からそれが差し出されると、レナードがベルトを腰に固定した。黄金の短剣は鞘の中心部分のみ黒色を基調としており、一見では気にならない程度に光の反射が抑えられていた。腹の中心で斜めに固定されている。どれもサイズは大方合っていた。


「髪と瞳の色以外まんまセルだな」ルバートがこっそりと呟いた。

「説明は後程させて頂きます。とにかく何も喋らないでください」 


 レナードの言葉に星汰は膝を付いたまま頷く。


「何をしている! もたもたするな!」

 

 待ちきれないリゲルが声を張り上げる。しばしの別れにギルド一向が視線を交わした。


「エリス、ここを頼みましたわよ」

 

 エリスは胸元に手を当てて、確かに承りました。と頷いた。強い意志が瞳に宿っていた。


「「「ただ、そこにある記憶の為に」」」


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