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DIVINE CHILD CHRONICLE -神の子と織りなす建国記-  作者: 知翠浪漫
第一章 森の遺跡編
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第六話 拠点奪還

 





 *




 意識が戻ると既に夜中のようだった。

 どうやら半日ほど意識が飛んでいたらしい。


「アタタタタ……体中痛いな、おい」


 先の無茶な逃走がまだ響いているのだろう、俺は痛みに顔をしかめながら体を起こす。

 気のせいか頭も重い。


 憂鬱な気分のまま、とりあえずステータスを開いてみる。






 レベル:5

 Hp:18/93 Mp:-2/21 Sp:13/16

 筋力:16 敏捷:17 頑強:17 体力:17 技量:16 魔力:11 耐性:13 精神:19 運:3

 状態:魔力欠乏


 保有属性:陰・魔・金

 保有スキル: ステータス<結合> 魔装生成<結合> 隠匿<結合>


 装備:学生服<祝福>

 アイテム:学生手帳 使えないスマホ 






「魔力欠乏? なんだこれ」


 見慣れない状態に眉を顰めつつ、隠密状態が解けていることに気が付いた。

 とりあえず隠匿を掛けようとしてうまくいかない。


 仕方がないので木の陰に隠れるように身を寄せてから魔力欠乏の項目をタップした。




 魔力欠乏:十分な魔力が足りていない状態。スキルの行使にマイナスの補正がかかる。




 魔力が足りなくてスキルが上手く発動できないらしい。

 言われてみれば、ステータス画面もいつもより薄くて見づらい――とか思っていたら、ステータスの表示が消えてしまった。


 どうやら思った以上に状態はよくないようだ。


「……仕方ない、しばらくここで休むか」


 隠匿をかけられないというのは大分怖いが、しかし多分、ここに留まっている分には安全だろう。

 隠匿がかかっていないにもかかわらず、俺が暢気に夜中まで眠りこけていられたのがいい証拠だ。


 おそらく、この森の生き物にとってこの遺跡は危険地帯であり、その為、基本的に寄り付かないのだろう。

 逆にそんな場所に隠匿もなしでいると考えるのは怖いが、幸いあのガーゴイル――アーマードゴリラが動き出す気配はない。


 そんな訳で、俺は目を覚ましたばかりにもかかわらず、再び眠りにつく。

 起きたばかりで、簡単には眠れないかと思ったが、思いの外ダメージが残っていたようで、俺はあっさりと眠りに落ちるのだった。




 ――**************。

 ――********************。

 ――********************。

 ――**************。




 誰かがなにかを言っている。

 言葉はわからない。


 だけどなにを言っているのかはわかった気がした。




 ――アナタはだあれ?

 ――わたしの声が聞こえる?

 ――わたしの声が聞こえる?

 ――アナタはだあれ?




 目が覚めると、既に太陽が大地を照らしていた。


「……なんか変な夢を見た気がする」


 目をこすりながら呟く。

 聞いたことのない言葉で、俺が誰なのか問いかける声。


 あれはなんだったのだろう?

 ひょっとして俺をこの世界に呼んだ誰かの声?


 いや、それなら俺が誰なのか聞いてくるのはおかしいか。

 じゃあなんだろう。


 しばし考えてみるが、わからない。

 俺はなんとなく遺跡の方に視線を向ける。


 なんとなく、声の主がそこにいる気がしたからだ。


 確証はない。確信もない。

 ただなんとなくそう思うだけ。


 あそこを調べれば、ひょっとしたらなにかわかるかもしれない。


「まぁ、今はどうあがいてもあそこを調べるのは無理だろうけど」


 気にはなるがどうにかする手立てがない。

 だから夢のことは無理やり忘却することにする。


 今はそれよりももっと大事なことがあるからだ。

 つまり、これからどうするか、だ。


 とりあえずステータスを開く。






 レベル:5

 Hp:18/93 Mp:0/21 Sp:15/16

 筋力:16 敏捷:17 頑強:17 体力:17 技量:16 魔力:11 耐性:13 精神:19 運:3

 状態:普通


 保有属性:陰・魔・金

 保有スキル: ステータス<結合> 魔装生成<結合> 隠匿<結合>


 装備:学生服<祝福>

 アイテム:学生手帳 使えないスマホ 






 どうやらMpがゼロになったことで魔力欠乏状態は解除されたらしい。


 俺はさっそく隠匿を自分にかける。

 よし、隠密状態に戻った。


 そして改めてステータスを見て気付く。


「あ、レベルが上がってるわ」




 レベル:強さを数値化したもの。この値が高いほど総合的に高い戦闘能力を持つことを示す。レベル5は武装した一般村人レベル。




 どうやら俺は武装した村人レベルの強さにはなれたらしい。

 負けっぱなしで全く実感がないけれど。


 というか、全体的にステータスが上がってるな。

 特にMp。昨日昼間に見た時は十六ぐらいだったと思うんだけど。一気に五ポイントも上がってるぞ。


 昨日、無理やりチェーンドシールドを使ったおかげかな?

 そういえば一度構築することができた訳だけど、これでチェーンドシールドがまともに使えるようになってたりは……しませんね。


 相変わらず、チェーンドシールドの横には作成不可の文字があった。

 どうもガントレットに装着する物みたいだし、ニ十ポイント程度じゃ両方構築するには足りないってことかな。


 まぁ、どのみち今はMpがゼロだから仮に使えるようになってても、試すことはできないんだけど。


 それと、HPも大分低いな。

 原因は、十中八九チェーンドシールドのせいだろう。その後に殴られて木にぶつかったのも幾らか影響があるかもしれない。


 昨晩見た時からHpの数値に変化がない点を考えると、怪我はないのだろう。

 あったとしても打ち身程度かな?


 上着を脱いで確認してみるが、触ったら少し痛い程度で、服は破れてもいなかった。

 さすがは祝福付きの学生服である。


 とりあえず動く分には問題ないようだ。

 なら次はどう動くか、だが。


「……まぁ、最初の予定通り、拠点奪還かなー」


 思いつきで遺跡に入ってしまったが、とりあえず拠点がなければなにもできないのは変わらない。

 ならばやはりオオカミもどきから拠点を奪還する方向で考えていいだろう。


 手段も、最初に考えていたように武器を用意して寝込みを襲うので問題はない。

 問題は今俺のHpとMpが少なくて、なおかつ用意していた武器もなくしてしまったため、実行が果てしなく困難と言うことぐらいか。


 つまりは大問題だ。

 どうにかしてまずは回復をしなければ。


「……気は進まないけど、やっぱあれしかないかな」


 俺は遺跡の中にあるアムリタの木とペルチの木を見る。

 アレを食べて少し休めば、全快できるだろう。

 建物に近づかず、隠匿を使えば問題なく敢行できるはず……だけど怖いな。


 正直、昨日ぶん殴られたことがトラウマになってるわ。


 でも今は正直、森の中を歩き回る元気もない。

 俺は覚悟を決めると、再び遺跡に侵入した。


 めっちゃドキドキする。

 気付くなよー、気付くなよー。


 よっ、ほっ、はっ!

 よしこれだけもぎれば十分だろう。


 俺は十分な数のアムリタの果実とペルチの果実を回収すると、急いで遺跡から逃げ出した。


「ふー、怖かった。でも無事果実を回収できたぜ」


 俺は取ってきた果実を食べて回復し、再び対オオカミもどき専用の準備を整えだすのだった。




 そして夜。俺は川辺の奪われた拠点にもどってきた。

 手には木で作った槍。更に予備を四本脇に抱えている。


 ステータスを確認。隠密状態は維持できている。

 夕方から監視していたので、オオカミもどきが洞穴にいるのは間違いない。


 状況は完璧。


 あと必要なのは覚悟だけ。

 心臓の鼓動が早い。激しく動いたわけでもないのに息苦しい。


 これから生き物を殺すのだ。

 そう考えると、嫌でも緊張した。


 しかも正々堂々と戦うのではなく、不意打ちで殺す。

 褒められた方法ではないのかもしれない。誇れる方法ではないのかもしれない。

 卑怯な方法というのが、更に俺を戸惑わせる。


 でもこれからこの世界で生きていこうと思うなら、これは必要なことなのだ。


 俺は大きく深呼吸する。

 一回では落ち着けなかったので、更にもう一回。

 少しだけ、気分が落ち着いた気がした。


 よし、やるぞ。

 俺は槍を握る手に力を込めてオオカミもどきににじり寄る。


 隠匿の効果のおかげか、オオカミもどきは気付かない。そんなオオカミもどきに俺は槍を振りかぶり――振り下ろした。


 ザクリ。弾力のある、絡みつくような抵抗に、思わず眉間に力がこもる。


「キャウン!?」


 同時に槍を刺されたオオカミもどきが、痛みと驚きで跳ね起きた。

 今の攻撃で隠匿の効果は切れている。つまり向こうからこっちは察知可能な状態である。


 だから俺は向こうが反撃に出る前に、更にもう一本の槍を突き刺した。

 そこでやっとオオカミもどきは攻撃を受けていると理解したらしい。慌てて洞穴から飛び出すと、槍が二本も刺さっているとは思えない動きで俺と対峙する。


 動転しているからかはわからないが、どうやら向こうに逃げる気はないらしい。

 それならなそれでこちらとしては好都合だ。元よりこちらとしても逃がすつもりはない。


 俺はスキルを発動して、右腕にネイキッドガントレットを展開する。

 省エネモードは切っているので分解は一瞬だ。どうやら省エネを切ると、消費Mpが増える代わりに分解と再構築の速度が上がるらしい。


 だがネイキッドガントレットが完成する直前、オオカミもどきが俺に襲い掛かってきた。予想外の勢いに、そのまま押し倒される。

 思わず、抱えていた槍を落とす。


 コイツ、手負いのくせに力が強い……!

 いや、手負いだからこそ死力を尽くして襲い掛かってきているのかもしれない。


 そして押し倒した俺の首めがけて、鋭い牙が並ぶ口で噛みつ歯こうとしてくる。


 噛みつかれれば死ぬ。殺される。

 だから初日の時のように、俺は反射的に右腕を差し出す。そしてその右腕にオオカミの牙が突き刺さ――らなかった。

 その頃にはすでにネイキッドガントレットが完成していたからである。


 ガキンと硬質な音が牙と装甲の間で響き、オオカミもどきに隙ができた。

 俺はとっさに落とした槍を手探りで拾うと、それをオオカミの首めがけて突き刺した。


 オオカミが暴れ出すが俺は逃がさない。逃げようとしたオオカミの頭を解放されたネイキッドガントレットで掴む。そして左手で握った槍を押し込む。


 オオカミが激しく暴れる。頭を掴んでいるので噛まれることはないが、その前足に備わった爪が俺の体を傷つける。だけど放さない。逆に槍を押し込んでいく。

 そして一体どのくらいそんな格闘を続けただろうか。


 やがてオオカミの暴れる力が弱くなり、そして動かなくなる。

 完全に動かなくなったところで、俺はオオカミもどきから槍を引き抜いた。


 一瞬、びくりとオオカミの体が震えたが、さらに動き出すことはない。

 傷口から血を噴き出すオオカミもどき――だったものを俺はどかして起き上がる。


 念のため、ちょっと距離を取って槍で突いてみるが、オオカミもどきは動かない。


 確実に死んでいるようだ。

 俺はオオカミもどきが死んでいるのを確認すると、やっと安堵の息をつく。


「……勝った!」


 ガッツポーズを取って勝利の余韻に浸る。

 この世界に来ておよそ一週間。初めて得た勝利らしい勝利だ。


 しかも苦労して得た勝利だけに、色々と感慨深い。それに、


「これで肉が食える!」


 一週間ぶりの肉だ。それを食べられるのがとても嬉しい。

 あまり美味そうではないが、それでも肉と言うだけでも十分だ。


 早速食べたいところだが、流石に生では食べられない。

 焼くなり煮るなり……どちらにしてもまずは火を起こす必要があるのか。


 ……そういえばこっちに来てから一度もまだ火を見てないな。


 火ってどうやって起こせばいいんだっけ?

 石と石をぶつければ、火花がでるんだっけ?


 なんにせよ今は暗くて火を起こす準備もできない。

 とりあえず、仕留めたオオカミは木にでも吊るして血抜き(できるかな)して、俺はルンルン気分で、奪い返した拠点で眠りにつくのだった。


 うっ、獣臭い。

 二日ほどオオカミモドキに占領されていたせいだろう。横穴は少し臭かった。


 あまりいい環境ではない気がしたが、それでもそれこそが俺が拠点を奪い返した証拠である。

 嫌がらずに誇るべきだ。

 俺はなかば無理やり、そう思い込んで眠りにつく。


 興奮していて眠れるか怪しかったが、初めての戦闘は思ったよりも俺を疲労させていたらしい。

 俺はあっさりと眠りにつき、前日同様、気付けば朝を迎えていた。


「んー、自分の拠点で迎える朝は最高だなー」


 ちょっと臭いが気になるが、それでも今までの朝に比べればものすごく気分がいい。

 それになにより、今日は肉があるのだ。


 今すぐ食べられるわけではないが、それでも肉があるとわかっているだけで気分が上がる。

 川で顔を洗いに行きがてら俺は肉を確認しようと、先日オオカミもどきをぶら下げておいた木に向かう。そして愕然とした。


「……なんで、オオカミモドキの死体がないんだ?」


 場所を間違えた?

 いや、地面にはオオカミもどきの死体を吊るしていた証拠である血痕が残っている。


 さらによく見てみれば折れた枝も転がっていた。そしてなにかを引きずったように、血痕は茂みに続いていた。


 ここから導き出される結論は一つ。

 つまり俺が吊るしていたオオカミもどきは他の肉食動物によって回収され、おいしく頂かれたということだろう。


 相変わらずままならない現実に、俺はがっくりと膝を折るのだった。





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