第二話 ステータスとスキル検証
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「――あー、生き返る」
オオカミもどきがカバンを食いちぎった場所まで戻った俺は、かろうじて無事だったペットボトルを回収してその中身を飲んでいた。
全力疾走して、初めてスキルを発動させて、喉が渇いていたのだ。
一息ついた俺は口元を拭うと、ペットボトルの蓋を閉める。
もう中身がないので捨ててもいいのだが、飲み物を持ち歩く容器があった方が便利だろうと思ったので、そのまま持ち歩くことにした。
……まぁ、そのペットボトルに入れるための水は見つけていないのだけど。
人間は水がないと二週間足らずで死ぬと言うし、食料より先に水を探すべきだろう。
だがいざ歩き出そうとして、俺はペットボトルを握る右腕が目に入って足を止めた。
今、そこにあるのは普通の右腕。
つい少し前まで覆っていた装甲はなくなっていた。
オオカミもどきたちがいなくなった後、しばらくして気持ち悪さに襲われると装甲が空気に溶けるように消えたのである。
そしてあれ以降、何度か装甲を出してみようとしたが、出すことは全く叶わなかった。
「MP的なものが切れたのかな……というか」
あれは結局なんだったのだろう。
おそらくは俺が持つスキルだと思うけど……全く詳細がわからない。
自分の持っている武器の詳細ぐらいは知りたいところだが、そう思ったところでステータスの存在を思い出す。
「ステータス」
オープンとつけなくてもどうやらステータスは表示されるらしい。
目の前に再びあのウィンドウが現れた。
そしてそこにはさっきまでなかった表示が幾つか存在していた。
ステータス
榊希良
種族:異世界人
レベル:3
Hp:78/83 Mp:0/13 Sp:11/15
筋力:16 敏捷:16 頑強:16 体力:16 技量:14 魔力:9 耐性:12 精神:18 運:3
状態:普通
保有属性:陰・魔・金
保有スキル: ステータス<結合> 魔装生成<結合> 隠匿<結合>
装備:学生服<祝福>
アイテム:学生手帳 使えないスマホ 空のペットボトル
「おお、ステータスが表示された」
思わず喜ぶ。
というか、このステータス表示もスキルによるものなのか……にしてはなんというか、随分情報量少なくないか?
かと言って他に付随する能力もなさそうだ。
よくあるインベントリや、新しくスキルを獲得するための画面のようなものは見当たらない。
インベントリ機能がないならペットボトルを回収したのは正解だったかもしれない。同時に鞄を失ったのが悔やまれるが。
そんなことを考えながら、なにげなしに属性に触れると、ピコン、と妙な音と共に画面が反応した。
「おん? なんだ、これ? ヘルプ機能か?」
触れたのは属性の”陰”の文字。そしてその上に小さな新しいウィンドウが表示されていた。
『大属性の一つ。あらゆるものを隠し、あるいは消す力』
なんか思ったよりも物騒な属性だ。
って言うか大属性ってなんだ? そう思って今度は大属性に触れると、再び新しいウィンドウが表示される。
『根源属性。始まりの属性であり、陰と陽の二つが存在する』
多重ヘルプ機能? いや、どちらかというと辞典機能と言うべきだろうか。
これは思ったよりも高機能なのかもしれない。
というか辞典自体を見ることは……無理みたいだ。中途半端に使えない機能である。
だがないのに比べれば遥かに助かる。
さっそく、俺はステータスの文字を片っ端から調べていく。
異世界人:異世界から召喚された人間。理の異なる世界から呼び出されるため、特殊なスキルを保有する。希少な存在であり、実験体として非常に価値が高い。
レベル:強さを数値化したもの。この値が高いほど総合的に高い戦闘能力を持つことを示す。レベル3は魔術を使えない一般村人レベル。
Hp:ヒットポイント。生命力を数値化したもの。残存生命力/最大生命力。攻撃の種類、被弾位置によっては即座にゼロになりうる。
Mp:マジックポイント。保有魔力を数値化したもの。残存魔力/最大魔力。ゼロになっても魔術を扱うことは可能であるが、その場合Hpを消費する。
Sp:スタミナポイント。体力を数値化したもの。残存体力/最大体力。肉体を動かすアクションに必要。ゼロになっても動く場合、Hpを消費する。
筋力:力の強さ。攻撃や運搬、最大装備重量に影響する。
敏捷:素早さ。反応速度、移動速度に影響する。
頑強:耐久力。最大生命力、最大魔力、最大装備重量に影響する。
体力:体力。残存生命力、残存体力、最大体力に影響する。また数値が高いほど残存生命力、残存体力の回復速度が上がる。
技量:技量の高さ。主に指先の器用さ、肉体及び魔力のコントロール技術等に影響。特定技能を習熟していても高く表示される。攻撃、防御の精度、その他さまざまな判定に必要となる。
魔力:魔力。最大魔力、残存魔力の回復速度に影響する。主に扱える魔力の密度の高さを示す。
耐性:魔力に対する耐性。最大魔力に影響。数値が高いほど、魔力に対する耐性が高い。
精神:精神力。最大魔力に影響。数値が高いほど精神系の攻撃に対する抵抗力が高い。
運:運の強さ。この値が高いほど自分の望む運命を引き寄せやすい。
状態:自分の今の状態を示す。普通は素の状態。
保有属性:先天的に持つ属性。
陰属性:大属性の一つ。あらゆるものを隠し、あるいは消す力。
魔族性:中属性の一つ。魔術、魔力を司る力。
金属製:中属性の一つ。物質を司る力。
保有スキル:保有するスキル。
ステータス<結合>:保有者の能力値を数値化して表示。ただし、数値化は絶対でなく、目安程度のものでしかない。ステータス内の情報について詳細を表示。スキルの設定を詳細に設定することが可能。
魔装生成<結合>:Mpを消費することで、周囲の物質を分解、再構成することで、特殊能力を持った道具を作成可能。
維持、使用にMpを必要とする。
ネイキッドガントレット<不完全>
パニッシャー<作成不可>
シールドボウ<作成不可>
チェーンドシールド<作成不可>
ラージガントレットアーマー<作成不可>
以上の物を作成可能。
隠匿<結合>:存在を隠すことが可能。自身を中心として範囲指定、装備している特定の物やスキルを隠すことも可能。ただし存在が消えるわけではないので注意が必要。
装備:現在装備しているアイテムを表所する。
学生服(守護):特殊な加護のついた学生服。汚れにくく、損傷を自動回復する。
アイテム:所持しているアイテムを表示する。
学生手帳:異世界の言語で書かれた身分を示す手帳。
使えないスマホ:電池の切れたスマートホン。
空のペットボトル:中身のなくなったペットボトル。
結合スキル:魂と結合したスキル。結合していないスキルよりも高い効果を発揮する。
三十分ほど調べて、俺は小さく息をついた。
どうやら俺は隠密系ア○ター使いらしい。
……懐かしいな、ア○ター使い。これを与えた神様はバトル物が好きなオタクに違いない。
ただ、ここで一つ問題がある。
つまり、俺がこの魔装生成なるスキルを使いこなすには、圧倒的にMpが足りないということだ。
さっき一度使っただけでMpは完全に空になっている。今この状態で、またさっきのオオカミモドキに襲われたら、俺は間違いなく死ぬだろう。
というか、寝ている間に襲われても間違いなく死ぬ。
戦闘能力が一般村人レベルってなんだよ。チートスキルがチートしてないよ?
せっかく異世界転生したなら、もっと強くしてくれてもよかったのではないだろうか。なにもしなかったら、俺、転生初日に死ぬよ?
いや、なにもしないわけないんだけどさ。死にたいわけじゃないし。
なので、俺はステータスを表示たまま「隠匿」と呟く。
………………………………。
………………。
……なにか変わった?
魔装であるネイキッドガントレットを再構築した時のような自身の変化は感じられない。首を傾げながらステータスを見てみれば状態が”普通”から”隠密”に変わっていた。
どうやら発動はできたらしい。
魔装生成が発動した時と大分感覚が違うけど……ひょっとしてMpを消費しないスキルだからだろうか?
今の俺はMp0だ。その状態で発動できたのだから、この隠匿と言うスキルはMpを消費しないのだろう。
「そういえばステータスを表示した時もなにも感じなかったっけ」
そしてステータスもMp0でも機能している。ならばこのスキルもMpを消費せずに使えるのだろう。
なんかさっきから憶測ばっかりだな。
いや、まあ、実際のところこっちの世界の常識みたいなところは何も知らないから当然なんだろうけど。
それでもなんか不安になるな。できれば初心者用のマニュアルが欲しいところだ。
そんなことを考えていると、茂みから音が響き、さっきも見たオオカミもどきが姿を現した。
一体だけであるところを見ると、さっき遭遇したのとはおそらく別個体だろう。
俺は思わず身構え、そして直ぐにオオカミもどきの反応がおかしいことに気付いて動きを止めた。
オオカミもどきは鼻をひくつかせながら周囲を見渡している。それはまるでなにかを探しているようで、俺の姿が見えていないかのようだった。
俺はちらりとステータスを見る。
そこに表示されている俺の状態は、さっきと変わらず隠密状態。
隠密状態が、周りから察知されにくくなるものだとしたら、あのオオカミもどきはこっちに気付いていない?
しばらくそのままじっとしてみるが、やはりオオカミもどきが襲ってくる気配はない。
やはり見えていないようだ。
ひょっとしてこの隠匿のスキルって結構強力?
やっと登場したチートスキルらしいチートスキルに、俺は自分の口の端が吊り上がるのを感じた。
「さっきはよくもやってくれたな!」
俺はバレないのをいいことに、オオカミもどきに近づいてその頭を軽く叩いてやった。
さっきやられた仕返しだ。別個体だろうから八つ当たりも甚だしいが、こういうのは連帯責任だろう。少なくとも俺から見ればさっきのオオカミもどきと今のオオカミもどきの違いなど分からないのだし。
恨むなら俺をひどい目に合わせたお仲間を恨むんだな!
「キャウン!?」
情けない声を上げて驚くオオカミもどきに、俺は気をよくして笑い声を上げる。
オオカミもどきは唐突に殴られたせいか、とっさに横に跳んでグルルルと唸り出す。
しかし悲しいかな、隠密状態の俺を見つけ出すことなど不可能なのだ。つまりどれだけ警戒してもオオカミもどきは――ピコン。ん? なんだ、今の音。
ステータスからなにか音が聞こえた気がしてそちらを見る。
すると表示の一部が赤く明滅していた。
「あれ、状態の隠密の部分が発見になってる……?」
発見? 俺ってなにか発見したっけ?
いや、というかこれ、隠密状態切れてないか?
嫌な予感がして、俺は再びオオカミもどきの方を見る。
すると、そこには警戒と怒りをにじませたオオカミもどきが、俺のことを思い切り睨んでいた。
「ガウガウガウ!」
「ぎゃー!」
よい子のみんなは罪もない動物を虐待するの止めておこう。
さもないと地の果てまで追いかけてくるよ?
ぶっちゃけステータスの数字は適当です。正直話が進むにつれて数値を扱いきれなくなったので。そもそも技量ってどうやって測るん? 筋力とかも部位によって変わってくるだろうし、一概に数字で表記って無理やん。
そんなわけで、希良君の<ステータス>のスキルで出てくる数値はなんとなくの数字であり、正確な値ではありません。あくまで強さの目安的なものです。
などというどうでもいい言い訳でした。